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サン・ピエール教会における構想案の変遷にみるル・コルビュジエによる光の設計手法 -3Dモデリングによる光の復元-

1 序章

1-1 研究の背景と目的

「近代建築の三大巨匠」と位置付けられるフランスで主に活躍したル・コルビュジエはフランスに数多くの建築作品を生み出している。その内の1つにサン・ピエール教会がある。サン・ピエール教会は1960 年に計画された建築であるが、高額な工費でと資金難が起因して46年後の2006 年竣工された。この教会はル・コルビュジエが設計を手掛けたが、設計半ばで死去され途中から計画に参加していたジョゼ・ウブルリーという建築家が引き継いた。再建された教会はコルビュジエの構想案をもとに設計されたが、完成に至るまでに変更が加えられたことから、コルビュジエ自身の建築と言えるのだろうか。

本研究では教会内の光の現象がコルビュジエの構想した光の現象として再現されているのかを、コルビュジエの光の設計手法を構想案の変遷と共に明らかにすることを目的としている。

1-2 研究の位置付け

コルビュジエの死後竣工されたサン・ピエール教会は、計画段階でウブルリーに引き継がれ完成されたため、構想案の変遷にみる光の設計手法を分析し再建案に見られる光の現象がコルビュジエのものであるかを明らかにする。本研究の位置付けとして、小林の研究では構想案と再建案の図面を比較分析を行う研究や姜研究では再建案にみられる採光装置による光の現象の見え方の変化の観察について研究を行っている。研究対象に関しては同じであるが、光の設計手法について関する記述は見られない。

1-3調査対象と方法

調査対象:サン・ピエール教会

調査方法:各構想案の図面から3Dモデリングを作成し、各図面における採光装置からの光の現象を再現してその変化を分析する。各採光装置から夏至・冬至における内部の光の現象の変化を時間ごとに再現し再建案に見られる光の現象と比較する。

2 サンピエール教会の概要

2-1 サンピエール教会の計画背景

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2-2再建案の採光装置の分析

サン・ピエール教会には様々な開口が確認できる。第1案から第6案までの構想案の各段階での採光装置が図面や形状によってどのようにして変化していき再建案までの過程を分析していく。それによってコルビュジエの光の設計手法の研究するにあたり、光の現象に直接的な関わりのある採光装置について着目して分析していくことが光の設計手法の手がかりとなると考えられる。

 

3各図面における3Dモデル化と分析

3-1分析方法

各構想案を3Dモデリングし各採光装置に見られる光の現象や変化を夏至、冬至の各午前9時、午後0時、午後3時の時間でそれぞれ光を復元しその変化を分析する.

3-2 第1案

開口部分は2つしかないため内部空間は全体的に暗く、太陽が高くなるにつれて明るくなっている。

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3-3第2案

教会堂の形状が円柱から円錐に変化したため、天井開口からの光の受光面が増え第1案と比べて全体的に明るくなったことが分かる。また、壁面開口が増え下部は明るくなり基壇部分から円錐体が浮いているように見える。

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3-4 第3案

第1案、第2案にはあった天井開口と壁面開口がなくなる大きな変更され、第2案よりも薄暗くなった。

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3-5 第4案

第3案の祭壇横の壁が消失したことで1階からの光が内部空間に現れ最も明るい光源となる。祭壇部分の床面開口の光はほのかに祭壇の下部分を照らし祭壇を少し認識させるような明るさであることが分かった。

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3-6 第5案

第2案の時点で消失していた星座を模した壁面開口が再び出現したこと、壁面採光砲、壁面スリットが新たに出現したことで第4案と比較して内部空間は少し明るくなった。壁面採光砲は天井開口と違って変化が見られないのは、西側に位置していたことから観測時間である9~15時の間では見られないと考えられる。

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3-7 第6案

第6案では天井採光砲が再び出現し再建案に見られるすべての採光装置が確認できた。第5案と比較して内部空間は全体的に明るくなった。また天井最高峰の光の現象は第12案と比較して壁面に大きく差し込む結果は得られず、席面と壁面開口付近に確認できた。要因として第1、2案と比較して教会堂の高さ約10m低いことが考えられる。

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3-8 構想案、再建案の分析

下表を見てみると、第4案までに右2つの開口以外の採光装置は一度出現していて、第5案から出現して以降これは再建案まで引き継がれている。教会堂の形状が円錐体の第2〜4案までの光の現象は、天井開口がない第3、4案は第2案と比べて内部空間は薄暗いことが分かった。要因として天井採光砲が起因していると考えられる。第5案は新たな採光装置を増した。さらに第6案に再び天井採光砲を増やしている。コルビュジエは第4案で正式な図面を作成し大枠作ったが、その後予算問題である工費削減に取り組みつつ、内部空間の光環境に意識を再び向け設計に取り組んでいることが考えられる。設計の終盤である第5、6案の内部空間を比較すると、ここでも天井採光砲が内部空間を明るくした要因とだと考えられる。コルビュジエの光の設計手法は、採光方法の仕掛けに賞賛される部分と採光方法を新案につれて必ずしも引き継くのではなく、減らすことで得た内部の印象を受け最終的に蓄積していく設計手法を取っているのではないかと考えられる。

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4 結論

4-1 総括

予算による問題や敷地変更を拒否してまで実現しようとした新案作成の過程で光の設計手法はそれらの問題に影響しつつも最後までコルビュジエが意識的に光の設計に取り組んでいることが終始していることが言える。

4-2 展望

今回対象の教会だけでなく近い時期にコルビュジエが設計していた教会建築であるロンシャン礼拝堂、ラ・トゥーレットの修道院にも本教会にみられた採光装置や方法があり、似た結果が得られると考えられる。

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