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北京川底下村における住居形態の地形に対する調停メカニズムに関する研究

 

0 序章

0-1研究の目的と背景

 川底下村は北京市西部から約90kmに位置する伝統的集落である。南西側に傾斜したひな壇状の地形に沿って、四合院の住戸群が51戸あまり配置されている。その歴史は古く明朝初期に、集落が形成され作られた。2003年に建設部と国家文物局から歴史文化名村に認定され保護の対象となり、住民は生活を営んでいる。

 川底下村は、本来平野部に建つ四合院が山間部の急峻な斜面に密集して建てられている極めてまれな伝統的集落で保存状態も良好であり、歴史的価値は大きい。北京工程大学によって1999年に現地調査がなされている。現地調査を行ったところ、住居の形態、住居の所有区分等に相違点が散見される。そのため、現時点での川底下村の状況を測量し現状を把握することは、喫緊の課題である。

 集落には本来は形式性の強い四合院の平面が変形している住居、住居内に微地形をもつ住居が見られ、様々な方法により地形に対する住居の調停が行われていると考えられる。そこで、本研究では集落の地形に対する住居形態の調停に着目し、四合院住居群がどのように地形に対応しているかを解明する。それにより、人工物である建築の自然環境への対応関係に関する視座を得ること、それと同時に四合院という形式性のどこに強度があるかを明らかにすることを本研究の目的とする。

川底下村配置図

川底下村全景

1現地調査

1-1 予備調査

 川底下村の研究に学術的な価値があるかどうか、どのような視点で研究を行うかを検討するために、2011年7月25日に川底下村にて予備調査を行った。予備調査では写真撮影、集落内の住居と、特徴的な住居の平面寸法の測量とスケッチ、住民へのインタビューを行った。

1-2 本調査

 2012年8月31日~9月4日の本調査では、できるだけ多くの住戸を調査し、研究に使用できるデータを収集することを目的に行った。住民へのインタビューをしながら住居の平面寸法、住居内高低差と各住戸入り口の相対的な高低差の測量とスケッチを行った。路地のビデオ撮影、各住戸と集落の全景の写真を撮影した。

2川底下村について

2-1地形

 地形は川底下村の空間構成を決定する大きな要因であるといえる。地形は、石垣を利用し造成され建築物を建てられる環境を作っている。集落は北側の山を背に、扇形上に広がるような斜面をひな壇上に造成して、住居を設けている。明朝時代に形成されたエリアと清朝時代に形成されたエリアに擁壁による崖があり、大きな高低差で分断している。

エリア分け

石垣

 

2-2 道

 川底下村の道の構成をしめす。道1は109国道と川底下村をつなぐ道である。道6は崖の上部の住戸間をつなぐ主要な道である。川底下村のネットワークは、住戸間を等高線に対し水平につなぐ道(道1,5,6)と、集落の高いレベルの地区へ登るための等高線に対して垂直な道(道2,3,4,8)で構成されている。

道の構成

路地写真

 

2-3 建物

 一般的な四合院の住居は以下の平面的特徴をもつ。1)正房、二つの廟房、門房の4住戸で院子を囲む構成をしている。2)それら住棟は正房の中心軸に対し、左右対称に配置される。3)住棟の柱間は奇数となる。川底下村の住居平面の基本形は、偶数の柱間を持つ以外は、上記の形式を守っている。また、集落では平野部でも見られる三合院、四合院、二進式四合院などの平面形式の他に、複雑な形状敷地に自由に配置し、形式から逸脱した住居が見られる。

3 地形と住戸平面の関係性

 ここでは、住戸の地形に対する対応関係を分析する。平面データを作成できた43住戸51院子を分析の対象とする。分析の便宜上、IDを各住戸と各院子に与える。院子の番号を住戸ごとに与えた。

3-1住棟配置の変形

 ここでは、不規則な住棟配置の考察を行う。院子を単位として、それを囲む正房、二つの廟房、門房の4棟の住棟配置の変形を分析する。全51院子中、25院子が住棟配置に変形が見られる。1)住棟の位置をずらす変形、2)いくつかのを建てないことにより敷地の制約に対応する変形、3)斜面方向や道の方向に沿って住棟に角度を振る変形の3種類の変形の仕方が確認できた。ここでは、これらの変形方法をそれぞれ、移動、省除、回転と定義する。正房または門房になんらかの変形が見られるものを正房軸系、廟房に何らかの変形が見られるものを廟房軸系、正房または門房と廟房の両方に変形があるものを両軸系と分類する。(図5)正房軸系、両軸系の住戸の周辺環境を分析した結果、急斜面に立地し、道、急斜面、崖状の擁壁などに挟まれ正房軸方向の長さが十分に確保できず正房または門房が移動もしくは省除されているものが17院子のうち15院子あり、正房軸の変形は急な斜面への調停するための変形であることが解った。正房に変形が見られるものが6院子であり、正房が変形しているものは必ず門房も変形していることから、門房よりも正房の形式性の保持に重きを置いていることが解る。正房、門房に見られる変形は17院子中16院子が移動、省除による変形である。この変形は正房の中心軸にたいしての左右対称性を保持した変化である。

次に廟房軸変形、両軸変形の廟房の変形について分析する。廟房の移動、省除は敷地の廟房軸方向の長さが不十分なときに見られる変形であるが、地形による地割の歪みが原因で廟房が移動したものが3院子みられた。これらは、傾斜方向に激しい変化が見られる地域に分布している。他の廟房に移動省除が見られる院子は、住居が密集したことによる廟房軸方向の長さの不足が要因であり、地形による平面形態の変形とは言えない。廟房が回転しているもの4院子あり、そのうち3つは傾斜方向に激しい変化が見られる場所に立地しており、傾斜

方向に合わせて住棟の角度を振っている。これら地形による廟房の変形は、どれも正房の中心軸の軸性を弱める変形であるといえる。

住棟配置変形パターン

住棟配置変形のある住戸の分布図

3-2 住棟平面の変形

 等高線の放射の沿って形成されている擁壁、道の曲面に沿って、壁面が曲面化している住戸が5つ見られる。住棟の曲面が院子に面する事例はなく、院子が長方形であり、中心軸を正房とそろえるという形式性を保持した変形であると言える。

住棟平面の変形が見られる住戸の平面図

4 住居内の微地形

4-1住棟の基壇と院子の断面構成

 住居敷地内では、微地形を形成し、住環境を作っている。院子と基壇の断面について分析する。院子の上に基壇があり、住棟が配置されるという断面上の形式性は全ての住居で守られている。高低差を測量できた住戸は37住戸であり、そのうち正房と門房を持つ住戸の28住戸中27住戸は、正房の基壇、門房の基壇、院子の順に高い。

住棟の基壇と院子の断面構成の基本形

4-2 連続する院子の接点の断面構成

 ここでは、斜面に沿って連続して配置される院子の接点の断面構成について考察する。断面図を作成できた斜面に沿って連続して配置される院子の接点は、12箇所あり、それぞれの接点にIDを振り、その断面構成を分析を行った結果、以下の4パターンの断面構成に分類できる。例外がはあるが、基本的に連続する院子の間に、住棟が1つあると間の住棟がどちらの院子に属するかに関わらずタイプAの構成を取り、間に住棟が2つあると、タイプBの構成をとる傾向が強いといえる。タイプAは、隣接する院子に対する閉鎖性を守る。タイプBは高い住棟の採光や通風が確保できる構成である。

院子の接点の断面構成パターン

4-3住居内微地形の平面構成

 川底下村では、住居内に細かい段差を設けて、地形による高低差に対して調停をとっている。その段差の平面配置をみると、院子内の正房、廟房、門房の院子に接する面によって囲まれる範囲にその段差を設けることはない。51院子中46院子が、この範囲内だけを見ると、院子がふフラットで、院子と基壇をつなぐ階段しかない。この構成は、一般的な四合院同じである。住居内微地形の配置において院子の形式性への配慮をしつつ、細かい段差を設け段差をつなげている。

院子のライン

4-4アプローチ空間の高低差処理

院子と道と門には高低差があり、それらを段差によりつなぐ役割を担うアプローチ断面構成を分類し考察する。タイプFの2住戸以外の35住戸は院子のレベルが道より高い。タイプAは、清朝時代のエリアにに多く分布する。そして、明朝時代のエリアは道も狭く敷地に余裕がないので、道と院子のレベル差が小さくなるように敷地を造成し、門と院子をつなぐ階段を設けていないタイプBが多いということが解った。

アプローチ断面パターン

5総括

 川底下村の住居は、斜面方向に正房軸をとり、院子ごとにひな壇状に敷地を造成し、院子と基壇の高さ関係を調整することで、四合院の形式性をある程度守りながら、住環境を作り出している。その際に発生した、高低差は、住居内に細かい段差による微地形を作り、院子の形式性を守りながら、それぞれをつないでいることが明らかになった。また、川底下村の住居の平面形式の地形の影響による変形は、斜面が急すぎること、放射状斜面方向が放射状に広がるという地形の特性によるものであることがわかった。後者の要因における正房の中心軸に対して左右対称性の平面構成が崩れたり、住棟の中で一番重要である正房が省除されたりと、一般的な四合院の住居形式において重要である形式を逸脱することすらある。それに対して、傾斜が急であるために生じる変形は、正房や左右対称性は守ったままおこなわれる。よって、四合院という住居形式は、1方向の単純な傾斜に対しての適応性が高いが、それが放射状に広がると、四合院の形式性が崩れやすくなることが明らかになった。

 

論文を終えて

修士論文に取り組むにあたって、大河内学先生をはじめ、沢山の方の協力と指導があってやり遂げることができた。心から御礼申し上げます。

初めての経験である集落調査を行い、集落の持つ魅力と膨大な時間軸の上に築かれる知恵の壮大さを感じることができた。今後は、個人的にいろいろな集落を訪問してみようと思った。また、研究を行う上で中国人に関わる機会が沢山有り、中国の歴史や文化に興味を持つことができた。修士論文をきっかけに、自身の興味の視野が広がり非常にいい経験ができたと思う。

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