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オランダの教会から住居へのコンバージョンに関する基礎的研究

学部4年島田里沙です。2017年度、春学期の研究結果を掲載します。

私は、オランダの教会から住居へのコンバージョンに関する基礎的研究を行いました。以下研究概要を掲載いたします。

 

序章

研究の背景と目的

近年、オランダではキリスト教のコミュニティが縮小 して使われなくなった教会が増えていること、またオランダでは住宅不足が社会問題となっていることから、オランダは教会から住居へとコンバー ジョンされる事例が見られる。 この論文では、1オランダのコンバージョンや保存に 関する制度や法律を明らかにする。2教会を住居へコ ンバージョンする際の設計手法、設計の際の問題点や 障害などを明らかにする。

 

研究の対象と方法

 

オランダの教会から住居へのコンバージョンがされた事例、7件を対象とし、平面、断面、住戸配置などから分析を行う。

1,chapel of living Utrecht

2.reslidence church Utrecht

3.ruud visser arechtecten

4.Sint Vituskerk Bussum

5.Zuiderkerk Apedoorn

6.Ludgerhof Lichtenvoorde

7.Pastoor van Kesselhof

 

 

 

第 1 章 オランダのコンバージョン住宅の実態

オランダの建築に関する法律は⺠法と公法に分かれている。公法は、国家や地方政府が建築物・建設行為に対して科す規 定である。そして公法の中に建築規制の法律が含まれている。 建築規制は、「新築」、「改修・増築・新築」、「現存建物の維持 管理」について項目が分けられている。さらに規定の意図によ って分類することができる。(表1)。既存の建物について省エ ネルギー面での規制がないことがわかる。また、改修や再利用 においては市の三議会が規制の免除を許可する権限を持つ。このことから新築に関する規制の方がより難しいことが伺える。

 

法規的分析

図1 法規規制の緩和について

 

第 2 章 教会のコンバージョン

 

近年、オランダを含め様々な国で脱宗教による信者の減少で教 会が存続できなくなっている事例がある。オランダで活躍する 吉良森子さんの著書に、「教会等場所は信者の拠り所としてで はなく、コミュニティの歴史と記憶の中に刻み込まれており、 教団が経営を放棄しても簡単に壊すことはできない。そして、 本当は誰もが利用可能な施設へのコンバージョンが望ましく、 美術館や集会所等が理想的なプログラムであるが、採算が取れ にくいため集合住宅や事務所へのコンバージョンが一般的で ある。」1)と述べられている。教会を図書館や公共施設に取り上げられている例も多く見られるが、今回はあまりメディアに 取り上げられることの比較的少ない教会建築から住居へのコンバージョンについて研究する。

 

 

第 3 章 コンバージョン事例の分析

戶建て住宅の分析では、教会の天井高が高いという特徴は床を増設することで解決をしている点において 全て同じであったが、床ごと地上から浮かせているものと、入 れ子型の住居部を挿入しているものの 2 つに分かれた。入れ子 型の場合、教会の窓部分や柱などの特徴的部位がみえ、教会ら しい建築となっている一方で、デッドスペースができてしまう問題があり通常の一戶建てよりも床面積が少なくなる傾向が ある。戸建住宅分析

図2 断面から見る戸建住宅のコンバージョン分析

集合住宅の分析では、3つのパターンに分けること ができた、中心を共用部とするパターンが多く見られた。これ は、クロスボールトやステンドグラスといった特徴的部位を生 かすための設計であると考えられる。しかし、⻑手に通路を確 保するため、戶建ての床面積が少なくなる。そのためメゾネッ トタイプのものが見られた。また、新設と既存の教会が少しの 部分を共有しながらも穂とほとんど対比的に建てられた事例 も見られた。これは、教会という特徴を残しながらも住居部は 全くの新設となっているため、設計上の不便さはあまり感じら れなかった。また、教会自体はすでに取り壊されているが、住 居部を使い、教会の形を中庭として復元をしている事例も見ら れた。この事例からは、教会という建築が、人々にとっていか に重要なものであるのかを強く感じられる建築である。この建 築もたてもの自体は、教会の外壁だけを用い新築であるため、 設計上の不便さはあまり感じられなかった。集合住宅分析

図3 集合住宅のコンバージョン分析

 

 

第 4 章 インフィルの分析

 

教会をコンバージョンするにあたり、小学 校などの建物とは異なり、形が特徴的かつ、場所によって形態 が大きく異なるため、コンバージョンですべて同じ形態という ことがなかった。また、ほとんどの住居がメゾネットタイプと なっていた。⻑手側に共用部を持つにあたり、一つ一つの部屋 が小さくなることと、教会の天井高が高いという特徴がかんが えられる。また、教会という天井高の高い建物だからこそ、エ レベータの設置がしっかりとされている。日本でいう公団住宅 のようにエレベータの必要のない高さで設計し、コストをげる ことは不可能なのだと考えられる。

住戸配置分析

図4 住戸配置の分析

第 5 章 スケルトンの分析

 

教会の保全をしながらも、オランダのコンバ ージョンでは教会の部分撤去などが行われることがあること がわかった。これは先行研究であるイギリスでのコンバージョン には見られなかった特徴である。大胆な撤去、改装を行いなが らも、教会としてのあり方を守る。というオランダでのコンバ ージョンの特徴を感じることができる。下記の資料が最も特徴的であった、教会の外壁を中庭の外壁として残し、その周りに集合住宅を設計することによって教会部分が建築としてはないものの空間として残っている事例である。既存図面

図5 コンバージョン前平面図

コンバージョンご図面

 

図6 コンバージョン後平面図

写真

図7 事例 中庭写真

 

第 6 章 結論

 

分析を通じて、オランダにおける教会から住居 へのコンバージョンの手法が明確となった。教会から 住居へのコンバージョンについて、教会という特殊な 形態を持つ建物をコンバージョンするため、床の増設 が必要不可欠となるが、どのように床を増設するのか は事例ごとに様々だった。また、集合住宅に関しては メゾネットタイプのものが多く見られた、これらは共有部を⻑手川に取ったことで、面積の確保が難しくな ったためではないかと考える。また、すべての事例が、 教会としての特徴を消してしまうのではなく、床面積 を少なくしてもいいから教会の特徴部位を生かそうと していることが分かった。教会はないが外壁によって 空間を復元する事例があるように、教会をコンバージ ョンする際、住居を作りたいという目的だけではなく、 教会の保存という面の目的の方が大きいのだとわかっ た。 また、法律の面からみても、コンバージョンは新築に 比べ法規が緩くなっていることから、コンバージョン が推進されていることが明らかとなった。 一方でオランダの教会から住居へのコンバージョンで は、教会の保存という面は重要視されていながらも、 教会の保存をする際に大胆に既存の教会に手を加える という特徴が見られる。これらは既往研究であるイギ リスの教会建築から集合住宅のコンバージョンでは見 られなかった特徴である。このことから、オランダの 教会から住居へのコンバージョンについては、教会を 保存しようという考えは強いながらも、教会の既存部 分は部分的に改築することに抵抗がないという特徴が わかった。

 

 

 

 

 

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