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建築のポシェを利用した採光手法に関する研究 −スティーヴン・ホールの作品をケーススタディとして−

B4の野田です。春季研究発表の内容を投稿致します。

 

第1章 序論

1.1研究の背景と目的

ポシェ(残余部分)とは、平面や断面において、空間を「地」と考えたときに「図」にあたる部分、すなわち壁・柱・梁およびそれに準ずる空間のことである。構造上の必要性ではなく、外観と内観機能の相互の要請によって発生するポシェは、近代建築ではあまり見られない。ここで、ポシェを積極的に取り入れている建築家スティーヴン・ホールに注目する。スティーヴン・ホール(1947-)は、光の空間を巧みに演出する建築家であり、光による空間体験に重点を置いた作品が多数ある。その中には、ポシェを採光手法として取り入れた作品が含まれており、スティーヴン・ホールがなぜ無駄とも言える部分=ポシェをあえて使用したのかは疑問である。

本研究では、建築のポシェを採光手法として扱ったスティーヴン・ホールの意図を明らかにすることを目的とする。

1.2研究の位置づけ

採光手法において、ルイス・カーンやル・コルビュジェなどの作品をケーススタディとして、これまで数多くの研究がなされている。本研究では、スティーヴン・ホールの作品をケーススタディとして、建築のポシェという観点から採光手法を研究する。

1.3研究の対象と方法

“GA STEVEN HOLL VOLUME 1:1975-1998”、“GA STEVEN HOLL VOLUME 2:1999-2012”を主な資料とし、この中からポシェを採光手法として利用している7作品を対象とする。必要な図面や写真を満たせないものについては、他の資料を用い補充する。

第2章 ポシェを利用した採光手法の分析

2.1分析方法

7つの対象作品の中に採光手法として使用されたポシェを、①ダブルスキンのポシェ②孔が挿入されたポシェ③多孔質なヴォリュームとしてのポシェ、の3つに分類する。それぞれ、分類された作品の概要とポシェの分析を行う。

2.2ダブルスキンのポシェ

このポシェは、ホールの作品の中で、90年代全体に見られる。外壁と内壁は、開口の位置や形状が異なる。D・E・ショウ社オフィスと聖イグナティウス礼拝堂は、内観では、色彩を空間に投射し「投影された色彩」という現象を人に見せる空間演出がなされている。外観は、壁面に塗られた色彩が直接目に触れるようになっている。また、ロイジウム・ビジター・センターは、内観は、地面に対して垂直に壁が建っているが、外観は湾曲した壁が建物を覆っている。これらのように、外観と内観機能の相互の要請によって余白が生まれ、二重になった壁と壁との間に光が入り反射することで、間接的に内部に光を入れている。

2.3孔が挿入されたポシェ

このポシェは、90年代全体に見られる。Kiasmaヘルシンキ現代美術館とベルヴュー・アート・ミュージアムは、美術館建築であるため、内部機能として展示物に傷つけないような採光手法が求められる。ハイサイドライトから入る低い光を面が受けることで、直接的に光が入ることはなくなる。厚みを持った天井や壁に、曲線や角度をつけた孔を挿入することで受ける面をつくり、光を屈折させ、間接的に内部に光を落とす。

2.4多孔質なヴォリュームとしてのポシェ

このポシェは、90年代後半から見られる。サルファティストラートのオフィスとシモンズ・ホールは、壁や天井を二次元に捉えるのではなく、三次元的に一枚の厚みを持った空間と捉え、ヴォリュームとしてのポシェに、大きさや形状が様々な孔をあけている。

第3章 総論

3.1総括

外皮と内皮の要請の違いによって生まれた余白を無駄にすることなく、求められる機能に応じてポシェを利用していることがわかった。

 また、今回対象にした作品を比較してみると、90年代前半は空間演出の一部分として利用していたが、後半になると、建物全体をボリュームとしてダイナミックにおポシェを作っている。このことからスティーヴン・ホールの中で、ポシェに対する利用の仕方が変化していることもわかった。

3.2課題と展望

現代建築におけるポシェの意義について考察し理解を深めたい。ポシェの発祥、ポシェがあまり見られなくなった合理主義の近代建築、そして現代建築におけるポシェの歴史的位置付けを考察することが今後の展望である。

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