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国内の「シェアワークスペース」における空間の分節・接続手法

修士2年の浜本です。2018年度の修士論文の概要を掲載します。

 

0-1.背景と目的
情報通信技術の発展により働く場を拘束する物理的な要因が減少し、様々なワーカーを対象としたシェアオフィスやコワーキングスペース(以下、CWS)が増加している。それらの新たなシェアを志向するワークプレイスをシェアワークスペース(以下、SWS)と定義する。このSWSは既存の建築計画学や設計論の範疇を超える要請を抱えているものが多く、既存の枠組みの中でその評価軸が明確に確立されているとは言えない。また、このようなSWSでは場を共有することで生まれる交流に価値を見出しているものが多く、ワーカー同士の交流のきっかけを生み出すような空間づくりが行われている。一方、SWSはユーザー相互のプライバシーを保護し、静謐な環境を確保する必要もあり、この対立する要求を設計者はいかにして解決しいているのか。
以上の問題意識を背景とし、本研究の目的を以下の3つとする。

  1. 個別のSWSについての設計者の言説を整理することで、国内のSWSに対する設計者の思想とその主題を明らかにする。
  2. SWSの所有形態や建ち方などの全体の構成とそれに対する空間の対応を明らかにする。
  3. SWS内部のプランニングから、ワーカー同士の交流とプライバシーの保護という対立する要求を解決する設計手法を明らかにする。

0-2.研究の位置付け
コワーキング及びコワーキングスペースに関する研究には、有元らによる国内におけるCWSの類型化と日誌調査やインタビュー調査から利用者の働き方を整理した研究や、渡辺らによるウェブアンケート調査により場の選択要因を検討した研究などがあり、豊富な蓄積がみられる。しかし、これらの研究はミクロな視点から利用者の実際の活動を観察する計画学の研究や、運営の仕組みなどのソフトを明らかにしているものであり、設計手法にまで言及しているものはない。また、宇田の研究では歴史や他のワークプレイスとの比較からCWSの定義づけを行っているが、あくまで経済学的な立場から解明したものであり、空間的な考察はなされていない。以上より本研究では、建築家により設計された国内のSWSを対象とし、言説と空間を分析することにより、設計者の思想とその設計手法を明らかにすることを目指す。

1.SWSの概要
1-1.SWSの定義
近年増加しているSWSは、シェアオフィスやSOHO、CWSなどそれぞれの名称は異なるが、ワーカー同士の交流とプライバシーの保護など同様の条件を持っている。したがって、本研究では従来の細分化した建築類型に捕らわれることなく、横断的に対象を選定する必要があると考える。よってSWSの定義は『複数の個人又は組織が共有し、働くために用いる施設、またはその全体』とする。
1-2.分析対象について
1-1.で示したSWSの定義に従い、『新建築』及び『シェア空間の設計手法』に掲載されている44事例を対象とする。図面は上記の書籍から収集し、設計者の言説は新建築に掲載されたものを対象とする。

表1_対象事例

2.SWSについての設計者の言説
ここでは、SWSを設計する際に何を意図し、設計を行ったかを設計の主題とし、設計者の言説から抽出、分類を行う。それを元にどのような空間が目指されたか、またどのような設計手法があるかを考察する。

2-1.ワークプレイスの主題

まず、作品の解説文から設計上の主題としている部分を抽出した(図1)。さらに、その意味内容をKJ法を用いて分類・整理すると、大きくは4つの意味内容のまとまりを見出すことができた。以下、4つの主題ごとにその内容について考察する。

図2_ワークプレイスに関する主題の意味内容の関係図

 

2-1-1.《コラボレーション》
〈交流のための空間〉は、人びとが集う空間を用意する重要さを示すものである。〈交流のためのシステム〉は、空間だけでなく仕組みによって、交流を生み出そうとしているものである。〈交流による創造〉は、交流が新たな創造を生むことを期待したものであり、〈偶然性〉は、交流がインフォーマルな対話を契機に生まれることを期待したものである。
2-1-2.《空間の接続》
〈一体化〉は、ワークプレイスが連続した一体的な空間としてつくることを意図したものであり、〈都市との連続性〉は、その繋がりが街に対しても開くようにつくることを意図したものである。
2-1-3.《空間の分節》
〈共有と専有〉は、共有部と専有部を隔てて空間をつくることを目的としたものであり、〈緩やかな境界〉は、共有部と専有部の境界を緩やかにすることによってそれぞれが影響を与え合うような空間を目指したものである。〈多様な場〉は、小さな場所をたくさんつくることにより多様な場所の選択性を与えることを目指すものである。
2-1-4.《インフォーマル化》
〈脱ワークプレイス〉は、従来のオフィスとは異なる空間性を目指すものであり、〈既存の尊重〉は、元々ワークプレイスとして使われていなかった建築を既存がもつ空間性を尊重しながらコンバージョンを行うものである。〈ライフスタイル〉はワークプレイスを従来の働く場から生活の場に近づけることで価値観の転換を目指すものである。
2-2.小結
前節で導き出された4つの主題の中で、《空間の接続》は建築の内部又は外部である都市との繋がりを、《コラボレーション》はワーカー同士を繋げることを目指している。つまり、“接続”に対して建築というモノと、そこでの交流などのコトの両面を重視していることがわかる。また、《インフォーマル化》は従来のワークプレイスからの脱却を図り、インフォーマルなコミュニケーションを生むための主題とも捉えることができ、ワーカーの交流を育む仕掛けとも捉えることができる。
《空間の分節》では共有と専有を区別し、その境界を緩やかに繋げることで関係をつくることを目指しているものと、多様な場を用意することで住み分け可能にすることを目指しているものがある。つまり、“分節”においては予めある境界を緩やかにつくるものと、多中心的な場をつくることで住み分けを実現する2つの方法があることがわかる。

3.全体構成における基礎的考察
ここではSWS及びその施設全体がどのような構成で成り立っているのかをいくつかの項目から分析を行うことによって傾向を掴む。
3-1.所有形態と建ち方の分類
3-1-1.所有形態について
全事例の所有形態を調べると、物件の所有者が直接施設の運営を行う[オーナー型]とテナントが運営・サービスを行う[テナント型]の2つの種別があることがわかった(図3)。全44事例を分類すると、[テナント型]が13件、[オーナー型]が28件、不明なものが3件だった。
3-1-2.建ち方について
建ち方には、建物の一棟すべてを使っている〈全体〉と、他の施設と建物を共有して使っている〈部分〉の2つの種別がある。全44事例のうち、〈全体〉が22件、〈部分〉が22件だった。
3-1-3.考察
所有形態と建ち方から整理を行うと表2のようになった。Aは最も多く18例。企業の自社ビルや他の機能と複合しているものが多くみられた。Bは10例。他の機能との複合や所有している物件の一部をSWSとして活用し、他の部分をレンタルオフィスなどで貸しているものが多くみられた。Cは最も少なくわずか2例である。期間限定でのSWSと、集合住宅と複合したものであった。Dは11例であった。多用途との複合はみられず、規模が小さいものが多くみられた。

図3_所有形態の種別

図4_建ち方の種別

表2_所有形態と建ち方による分類

 

3-2.他用途との複合
3-2-1.複合する用途について
SWSと複合する他の用途として住居、商業、事務所、貸しスペースなどがみられた。
3-2-2.考察
住居系との複合が10件にも及ぶのは、2-1-4.でも示したように働くという行為が生活に近づいていることを示している。商業はカフェなどの飲食店が多く、共用部などに配置されているものが多い。事務所は特に積層型に多く見られ、SWSが入居する階と異なる階に企業の専有のワークプレイスやレンタルオフィスとしてあるものが多い。貸しスペースは事務所と同様の配置が多いが、一部、SWS内の空間を時間によってイベントスペースとして使っているものもみられる。

図5_SWSと複合する用途

 

4.空間の分節・接続
ここでは、プランニングに対しスケール横断的に分析を行い、平面構成のモデル化と設えにおける手法の抽出、さらに手法の意図や効果に基づき、体系化を行い、SWSの設計手法について考察する。
また、プランニングにおいて平面構成を決定づけるものを「大きなプランニング」、家具や素材などの設えをつくるものを「小さなプランニング」と名付け、平面図等から家具や設えの状態がわかる33事例を対象に分析を行う。
4-1.大きなプランニング
ワーカー同士が共同で作業をしたり、交流を深めるためのコモンゾーンとワーカーが1人で作業を行うためのプライベートゾーンという2つの種別で平面内のゾーニングを分析し、それらを施設全体での配置計画と室という2つのスケールで整理を行った。この分析は、座席形態を指標としており、カウンターやブース、デスクはプライベートゾーンとし、テーブルや会議室はコモンゾーンとして、同じ座席形態が近くにあるものを1つのまとまりとして分析を行った。

図6_大きなプランニングの分析例

 

4-1-1.室の配置計画と用途
はじめに、SWSの配置計画について整理を行う。対象の33事例を建物共用部からSWSへ直接アプローチが可能な室単位でみると51件となる。51件のうち、コモンゾーンのみのものが14件、プライベートゾーンのみのものが2件、どちらもあるものが35件となった。また、施設単位でみてもプライベートゾーンのみのものが1事例しかなく、このことからもコモンゾーンがSWSにおいては必要性が高いことがわかる。
また、1つの施設のなかに複数の室をもつものが12事例あり、そのほとんどが階を跨ぐ積層型であり、同じ階で複数の室が置かれた並置型は少なく、このことから同一平面内では室の分割は避け、できるだけ大きな室をつくっていることがわかる。

図_室の配置の分析図

表_室の配置計画

 

4-1-2.室内のプランニング
次に、SWSのオフィスレイアウトについて詳しく分析した結果、6パターンに分けられることがわかった。①二分型は、コモンとプライベートという2つの種別がそのままゾーニングに現れているもので10件みられた。②分散型は、いくつかのまとまりが多中心的に空間をつくり、それらが室内全体に分散しているもので、コモンのみのものとコモンとプライベートが混在しているものがみられた。規則的な配置やランダムな配置などそれぞれの家具とその距離感には多様なものがあり、最も多い14件みられた。また、コモンとプライベートが混在しているものでは、プライベートは飛び地状に壁面を沿っているものが多くみられた。③交互型は、コモンとプライベートが交互に配置されているもので、3列のものと4列のもがみられた。④中心/外周型は、プライベートがコモンを囲むような配置のもので、連続的なものや飛び地状に並んでいるものがみられた。⑤単一型はコモンかプライベートどちらかで室内を一体的に使っているもので、どちらも2件ずつみられた。⑥単一・交互複合型は全体を2つに区分し、③と⑤が複合したものでそれぞれの特徴を併せ持つ。この中では最も少なく3件のみだった。

図8_大きなプランニングの6つのパターン

 

4-2.小さなプランニング
次に、小さなプランニングに対して平面図と内観写真をもとに分析を行い、手法の抽出を行う。抽出した手法を4-1.で行ったゾーン内の性質に当てはめ大別すると、分節と接続、またそのどちらの性質を兼ね備えるような両義的な手法という3つにまとめられた。

図9_小さなプランニングにおける操作の抽出例

 

4-2-1.分節の手法
分節の手法は、個人用のブースやカウンター上の仕切りや壁によって室の内側にさらに個室をつくるものなどがみられ、それぞれ、個人と個人を区別するものと個人と集団を区別するものと集団と集団を区別することによって、多様なワーカーがお互いに干渉されない空間を目指すものである。
4-2-2.接続の手法
接続の手法は、小上がりや不整形な机により、人の繋がりをつくりだす集団の形成と、アートや壁面の展示などのインフォーマルなものの挿入によってコミュニケーションの創発を目指すものである。
4-2-3.両義的な手法
両義的な手法は、プライベート/コモンゾーンのどちらにも属さず、その境界面に存在しているもので、袖壁やレベル差など、時として空間を分節し、空間同士を接続するような接続と分節の両義的な意味を持つ手法であり、ワーカーが自由に場所を選ぶように、場所の質を変えられる設えである。また、プライベートとコモンのどちらのゾーンにおいてもみられた可動式の家具なども、時間によって自由に空間をつくるような設えであり、これも両義的な手法であるといえる。

表5_手法の体系化

 

5.総括
本研究で得られた知見を以下にまとめる。
1)SWSの設計の主題として空間的な繋がり、仕組みによるワーカー同士の繋がり、その繋がりを生むためのインフォーマルな空間が重要視されていることがわかった。また分節においては、境界を緩やかにすることで交流を促すものと、多中心的な場をつくることで繋がりを生み出し、さらに住み分け可能にする2つの方法があることがわかった。
2)SWSの所有形態にはオーナーが直接運営を行うオーナー型とオーナーが物件を賃貸し第三者が運営を行うテナント型の2種類があることがわかった。この2つではオーナー型が多く、国内においてはまだ馴染みの薄い用途であり、テナントではビジネスモデルが提示できないことが考えられる。また、SWSは単独ではなく他用途との複合による施設が多くみられ、このことは働く場、ひいては働くという行為が生活に密接な存在になっていることがわかった。
3)SWSの設計には3つの手法があることがわかった。1つは個人と集団をそれぞれごとに区別し、ワーカーのプライバシーを守る「分節」の手法。集団が形成されることで交流を促すものや従来のワークプレイスでは重要視されていなかったインフォーマルな交流を生み出しワーカー同士を「接続」する手法。またその時々で分節と接続の両方の機能を満たす「両義的」な手法もあることがわかった。
シェアワークスペースの設計手法は、建築躯体と切り離されたインテリアにおける操作がその中心を占めていることが大きな特徴としてあげられる。これは、未成熟な機能のため固定的な操作によって空間を作ってしまい、ユーザーが使いづらさを感じてしまうことへの対処ともいえるが、多様な人が使う施設としてユーザーによって改変可能な流動的な空間像が目指されているとも考えられる。そのため、分節・接続という背反する手法だけではなく、どちらの効果も持つ両義的な手法により、使い方によって自由に空間を変化させることが重要であるといえる。
本研究では、国内の限られた事例を対象としたが、他国のSWSの事例についても分析を加え、より豊富な事例をもとに、スケールを横断的に比較・分析を行い、その理解を向上させることが望まれる。

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