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日本と中国の比較から見た北京の現代集合住宅に関する研究


0.1 研究の背景

 1949年の建国から現代に至るまで、中国の集合住宅建設は、長年の努力でストックの確保と居住水準の向上が着実に実現している。ただし、近年の高度経済成長と共に、建設業界が非常に繁栄している一方、バブル経済による投機的な建設も様々な問題を招いている。2011年の半ばから、中国政府は不動産業における景気の過熱に対し、抑制政策が次々実施した。北京が代表する中国の大都市は、約10年間で続いた集合住宅の大量建設が緩やかになり、質を求める時代への転換期に入った。

 北京の現代集合住宅における問題は以下の3点てある。1.著名な建築家が集合住宅の設計に関与するようになり、世界中から注目を集めるようになったが、中国の集合住宅の特徴が、単なる印象論で語られており、調査や客観的な事実に基づき、論じたものが少ないこと。2.建設ラッシュの混乱の中、住宅の供給が優先され、しっかりとした品質の検討や議論がなされていないこと。3.1979年から実施された独り子政策の影響で形成された中国の3人家族が、独り子世代の独立によって将来若者と老人の2人家族へと二極化することが予想される。こうした社会構造の変化に備えた設計ビジョンがないこと。

 

0.2 研究の目的と方法

 上記の問題意識に基づき、本研究では以下の3点を目的とする。1.北京の現代集合住宅に固有の特徴が見られるのか、またあるとすれば、どのような特徴か、明らかにすること。2.事例の分析を通じ、計画・設計の評価を行い、問題点を抽出すること。3.日本の集合住宅との比較から、将来の社会構造の変化に備え、設計のビジョンを模索すること。本論では、現地調査、図面の収集、事業主へのヒヤリングをもとに上記の目的を明らかにする。

 

0.3 研究の対象

 中国の現代集合住宅は、「住宅商品化」改革が完了した1999年からのものと定義する。本研究では、1999年から、北京にある高品質集合住宅を研究の対象とする。また、日本は中国より30年も早く大量建設が完成し、品質重視及び少子高齢化社会に対応する集合住宅を開発している。集合住宅の発展を予測するために、本研究では、対照事例として日本の集合住宅を研究の対象とする。

 

0.4 既往研究

 過去の研究は住戸計画を中心に行われている。周燕珉ら1)の研究では、日中の住戸計画の比較によって中国の住戸計画における改善の方向を提示した。配置計画に関する研究は少ないが、趙文凱ら2)の研究では、配置計画の発展過程を総括した。また、これらに代表される既往研究では、北京の現代集合住宅を扱ったものは少なく、広州と深センの集合住宅が多い。マクロスケールの視点で配置・住棟計画を中心とする研究は数少ない。

 

1. 中国集合住宅の歴史


1.1 建国後の発展

 建築計画は、建国初期にソ連のドーム・コムナをもとに確立され3)、90年代から日本と欧米の経験を参考するようになった。1999年から住宅は商品として売買が可能になり、従来の供給制のものより遥かに改善されてきた。

 

1.2 現在の都市部の居住形態

 現在、中国都市部の住宅ストックは概ね伝統住宅(北京の四合院など)、集合住宅と戸建住宅の三つの類型がある。高所得者は郊外にある戸建住宅、あるいは都心部にあるハイクラス集合住宅やリフォームされたハイクラス伝統住宅に住む。中所得者は、ミドルクラスまた一部のハイクラス集合住宅に住む。低所得者は、雑居のロークラス伝統住宅とロークラス集合住宅に住む。

 

2. 調査と事例の概説


2.1 現地調査

 2010年夏・2011年春・2011年夏の三回の現地調査を行った。21件の事例の中で、17件の調査を行った。

 

2.2 事例の概説

 中国の高品質集合住宅の計画は海外設計者と関連しているのが多い(C01~C12)。対照事例として、大量建設の計画(C13、C14)、中国の南の都市に位置し、伝統様式(C15)と伝統空間(C16)を活用した計画がある。日本の事例は著名な建築家による集合住宅である(表1)。

 

表1 事例のサンプリング

 

3. 求心性と方向性


3.1 「里坊の制」の踏襲

 北京の都市計画は中国古代の「里坊の制」からの影響が強い(図1)。この影響は東西・南北の都市軸によって構成されたグリッドと、「坊」を単位にするスーパーブロックに見ることができる。北京の集合住宅における「里坊の制」の踏襲は、住棟が敷地の境界線に沿って配置され、敷地の中心部に空きを設けるという中庭型の配置計画による求心的な空間形態に見られる(図2)。

 伝統的な空間を踏襲した北京の集合住宅は、都市空間を閉鎖的にさせている。一方、日本人建築家が設計した北京の集合住宅では、完全な中庭型は少なく、踏襲の意識が弱い。これらの計画は、北京の都市空間の変容を積極的に促す可能性がある(表2)。

 

図1「里坊の制」           図2 北京百子湾家園(C13)の計画

表2 「里坊の制」の踏襲

 

3.2 都市軸への従属

 北京は基本的に古代の東西・南北の都市軸で構成され、建築は都市軸に合わせて配置されている。しかし、都市の拡張と共に、従来のグリッド状街路は交通渋滞を招き、斜めの都市軸が加えられた。その結果、都市の外側の新たに開発された地域では配置計画上、新たな斜めの都市軸に合わせるか、従来の南北に合わせるか、混乱が生じ、設計の判断も一致していない。

 新たな都市軸を無視して従来の都市軸へ従属する意識が見られる。その原因として、中国の「風水」の理論が方向に対するこだわりがある一方、南に面する配置計画による日照の追求も考えられる(表3)。

 

表3 新・旧都市軸への従属

 

3.3 日照の追求

 中国の集合住宅は日照基準によって「住宅」と「公寓」に分かれている。一般的に日照基準を満たされてない「公寓」は「住宅」より質が落ちていると認識されているため、日照は中国の集合住宅、特に冬季が寒さが厳しい北京の集合住宅にとって、最優先に確保される条件である。

 住棟計画の変遷を見ると、住棟の形と平面構成の変化は各住戸の日照を確保する努力の歴史だと考えられる。特に塔式住棟計画における工夫がよく見られる。一方、本研究で取り上げられた事例の中には、日照基準を満たしていないプロジェクトが少なくない。原因としては、海外設計者が中国における日照の重要性を十分に認識してないことが原因の一つだと考えられる。これからの海外設計者による集合住宅の計画では、日照の問題が解決される必要がある。

 

表4 住棟の類型と日照の関係

 

4. 巨大性と複合性


4.1 自立したミニ都市

 都市・建築という両極的なスケールからなる日本の都市に対し、北京は都市・スーパーブロック・建築という三段階のスケールで構成されている。「居住小区」理論によってブロックは住区の単位となるため、北京の集合住宅団地は巨大である(図3)。

 日本の集合住宅に比べ、北京では都市機能を複合した集合住宅の計画が一般的である。学校、オフィス、店舗、商業、リクリエーション施設を併設したものが多く、SOHOもある(表5)。北京の集合住宅は、その巨大性と複合性から「自立したミニ都市」としての様相を見せている。

 

図3 日中の集合住宅における規模の比較

表5 日中の集合住宅における機能の比較

 

4.2 明確なゾーニング

 住まいの「静」と都市機能の「動」は、ゾーニングの計画によって明確に分離される必要がある。配置計画における住宅区と施設区の分離(図2)、住棟計画における低層部の施設階(店舗など)と中・高層部の「住宅階」の分離がよく見られる。

 施設は基本的に街に開放されるため、外部からの侵入を防ぐために動線の計画も明確である。住宅区と施設区、及び住宅階と施設階の間に、通路が設けられることはなく、動線がある場合には、セキュリティが設置されている(表6)。

 

5. 均質性と反復性


5.1 3人家族を対象としたnLDK

 1979年の「独り子政策」の実施以降、中国の家族は3人で構成されるようになり、家族構成の標準化が進んでいる。住戸計画は、3人家族向けのnLDKが標準的になっている。その結果、住区は画一的な住戸タイプの反復によって計画され、バリエーションが乏しい特徴がある。

 

5.2 脱nLDKの出現

 近年、独立した独り子世代をターゲットとした脱nLDKの住戸計画が日本人設計者によって実現した。ワンルーム、ロフト、SOHOなど新しい計画が採用される一方、経済性を追求するために住戸ライプのバリエーションは依然として乏しい(図4)。

 こうした単身者向けの集合住宅は、一時的な居所に過ぎないので、現在盛んに行われている分譲による販売は不適切である。将来の低所得者向きの賃貸型住宅と高齢者住宅の開発は期待できる。

 

6. 経済至上主義


6.1 住環境整備の遅れ

 開発において、商品性のある住棟は最優先に施工されるが、公共施設と外構の施工は大幅に遅れたり、計画通りに行われないことも珍しいくない。その結果、郊外の新興住宅地では、教育と医療の問題が最も深刻であり、住民とデベロッパーの紛争がよく見られる。本研究で取り上げたハイクラス集合住宅では、住環境の整備が確実に進められ、総合的な品質は将来の開発の基準になると考えられる。

 

6.2 コミュニティの崩壊

 コモンスペースの有無は、日中の住棟計画における最も大きい相違点である(図4、図5)。経済性の重視により、住戸の面積は最大限に確保される一方、共用部における住民間の出会いは非常に低下している。

 また、中国の室内空間には中間領域の概念がないため、住棟内のコモンスペースを計画しても、積極的に利用されることは考え難い。伝統居住建築では、中庭がコモンスペースの役割を兼ねていたが、現代集合住宅の室外空間におけるヒューマンスケールの消失は新たなコミュニティを形成し難い原因の一つだと考えられる(図6)。この問題を解決するために、住民のコミュニティスペースとしての中庭のデザインと、公共施設の増設が必要であろう。

 

1.脱法規的な計画によって獲得した面積

図4 北京像素(C09)の住棟計画 

 

 

1.コモンスペース 2.住民間のコミュニケイションを向上するための空間

図5 東雲キャナルコートCODAN(J05)山本棟の住棟計画 

 

図6 北京百子湾家園(C13)の中庭

 

6.3 脱法規的な計画

 より大きい床面積が獲得できるように、法規の隙間を利用する計画が散見される。天井高2.2m未満の室内空間は床面積に算入されないという規定を利用し、約5mの2層分の階高で申請し、実際は2層分のメゾネットを施工するといった脱法規的な事例も見られる(図4)。また、一部の面積が計算されないような様々なテクニックが乱用されている。

 


7.1 総括

 北京の現代集合住宅は、古代の都市計画から強い影響を受け、日本と中国の他の都市にある集合住宅に比べ、配置計画における求心性と方向性に際だった特徴があることが分かった。伝統的な都市構造の踏襲は歴史的な空間論に対するこだわりが見られるが、建築的な合理性もある。中国の社会体制は統一的な大規模開発には有利に働くため、北京を含めて中国の集合住宅は現在の日本では見られない巨大性と複合性が現れている。一方、経済効率を図るために定型の反復による住戸のバリエーションの乏しさと設計の粗さが問題として挙げられる。

 従来の集落的な居住形態はメガな住区によって破壊され、過大なスケールにおいて新たなコミュニティが形成し難くなっている。経済至上主義を方針とした過去の開発は、住民生活の支援に物足りなさが強く感じられる。本研究の事例にはこういう問題に対する改善の意欲が見られ、住環境の整備によって品質を総合的に向上させる役割が期待できる。

 フレキシブルな脱nLDKは、社会構造の変化に対する柔軟性があるため、益々重要になると考えられる。今後の集合住宅の発展には、脱nLDKに対する研究と実践が一つの方向だと予想できる。

 

7.2 課題と展望

 配置計画における機能の複合性を明らかにした一方、各機能の運営状況に対する調査と分析が行われなかった。複合的な機能の計画が住民生活の支援に如何なる効果があるか、今後の一つの課題とする。また、現在の均質的な住戸計画を多様化する前に、住民の要望を明確に把握することが必要である。住戸計画に対するニーズの調査と分析を基づくバリエーションの提案を今後のもう一つの課題とする。

 

参考文献

1)周燕珉 他:住宅精細化設計,中国建築工業出版社,2008

2)趙文凱 他:中国住区規划発展60年歴程与展望,2009

3)内田青蔵 他:図説・近代日本住宅史,鹿島出版社,2008

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