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再開発事業地周辺における空地の分布とその変容に関する研究

再開発事業地周辺における空地の分布とその変容に関する研究
     -六本木、玉川、東品川をケーススタディとして-

 

0. 背景と目的
 都市空間は、即物的な解釈に従えば、建物と建物が建っていない土地によって構成されている。建物が壊され、その土地が空地となり、また建物が建てられるという繰り返しによって、都市空間は変容し続けている。都市空間における空地は、次に新しい建物が建てられるまでの準備段階にある土地であると捉えることができ、発生と消滅を繰り返している。
 空地の発生と消滅を把握する上で、市街地再開発事業地の周辺地域に注目する。市街地再開発事業は、事業地における土地の高度利用を目的として実施されるが、事業地だけでなく、周辺地域の土地利用や地価に対しても影響を与える。地価が上がると、土地の所有者は、テナントによる収益率を上げるために容積率を増やし、高層ビルが多く建てられるようになる。また、所有者が土地を手放すと、建物が建っていた土地は空地となり、未利用地として放置されるか、駐車場として使われるようになる。市街地再開発事業によって、都市空間がどのように変容するのか、事業地周辺も含めて把握することは、重要であると考えられる。
 市街地再開発事業に関する研究は、敷地内を対象とした研究が多く、周辺地域を対象とした研究はまだ少ない。周辺地域への影響に関する研究として、紙野1)は、大阪府の再開発地区において、土地の利用用途、容積率、建物延床面積の変化傾向について考察した。また、加藤2)は、千葉県柏駅前の再開発地区において、新築建築物の階数・用途の変容過程、駐車場の発生年代について把握した。
 土地利用の変化に関する研究として、長岡3)は、熊本市の中心市街地において、空地化型、空地建設型など、土地利用の変化パターンを考察することにより、地域ごとの特性を把握した。また、後藤4)は、名古屋市中区の中心市街地において、空地の利用形態を分類し、その利用変遷について分析した。
 本研究では、市街地再開発事業地周辺において、空地の発生と消滅を把握することで、都市空間の変容について明らかにすることを目的とする。空地の発生と消滅を把握する上で、市街地再開発事業地に隣接した地域のうち、六本木、玉川、東品川の3地域をケーススタディの対象地とする。研究方法としては、空地の属性として、[空地(用途あり)]と[空地(用途なし)]を区別し、1985年から 2009年までの25年間において、空地の分布とその変容を記述する。地域ごとに空地の数と面積、土地の履歴と交替数を求め、用途ごとに空地の規模分布と寿命分布を求め、分析・考察する。

 

1. 調査について

1-1. 調査概要
 本研究では、空地を「建物が建っていない土地。建物(住宅、マンション、商業施設など)に付属する駐車場、庭、公開空地などは含まない。」と定義し、調査対象とする。
 調査に関しては、空地の属性として、[空地(用途あり)]と[空地(用途なし)](以下、[用途あり]と[用途なし]とする。)を区別する。空地の対象としては、[用途あり]には、駐車場、資材置き場を含め、[用途なし]には、未利用地、建設予定地を含める。[用途あり]に関しては、未利用地に駐車場などの機能を付与し、経済活動の一環として利用しているため、建物が壊され、また建てられるという繰り返しの中で、次に新しい建物が建てられるまでの準備段階にある土地と捉えることができる。
 都内23区における市街地再開発事業のうち、多くは、1990年以降に都市計画決定・事業計画認可され、2000年以降に着工・竣工されている。1985年から2009年まで調査することで、計画前、計画決定期、工事期、竣工期、竣工後の経過について、分析することができる。また、景気の変動として、1986-1991年のバブル期、1991年以降のバブル崩壊との相関関係についても、考察することができる。
 以上の理由から、1985年から2009年までの25年間において、住宅地図に空地の分布をプロットした基礎データを作成し、空地の分布とその変容について、多角的に分析・考察する。

1-2.  調査対象地の概要
 敷地面積が5ha以上の大規模な市街地再開発事業を選定し、事業地と隣接している地域のうち、港区六本木七丁目、世田谷区玉川二丁目、品川区東品川四丁目の3地域を調査対象とする。
 各地域の概要は、以下の通りである。
(1)港区六本木七丁目(図1-1)
 六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館に囲まれたアートトライアングルと呼ばれる地域となっている。六本木ヒルズは、1995年に都市計画決定、1998年に事業計画認可、2000年に着工、 2003年に事業が完了した。東京ミッドタウンは、2004年に着工、2007年に竣工、国立新美術館は、2007年に開業した。
(2)世田谷区玉川二丁目(図1-2)
 1985年に閉園した二子玉川園跡地を中心として再開発が行われている。2000年に都市計画決定、2005年に事業計画認可、2007年に着工、現在も事業が進行している。
(3)品川区東品川四丁目(図1-3)
 日本たばこ産業品川工場跡地を中心として再開発が行われ、品川シーサイドフォレストというショッピングセンターなどの複合施設が竣工された。1998年に都市計画決定、1999年に事業計画認可、2000年に着工、2004年に事業が完了している。

   

図1-1. 港区六本木七丁目(1985,2009年)

   

図1-2. 世田谷区玉川二丁目(1985,2009年)

   

図1-3. 品川区東品川四丁目(1985,2009年) 

 

2.  地域ごとにみた空地の数と面積

2-1.  空地の数
 [用途あり]と[用途なし]の数、空地の総数を求め、その変容について分析し、地域ごとに特性を捉える。
 六本木は、1986年から1991年までのバブル期、事業完了後の2004、2008年に空地数が増加している。景気の変動や再開発事業による影響により、地価が上昇したことが要因と考えられる。玉川は、再開発事業が計画決定された2005年の前後に、[用途なし]の数が変化している。[用途なし]であった土地に新しく住宅やマンションが計画されたことが要因と考えられる。東品川は、空地数にほとんど変化が見られない。

2-2.  空地面積
 [用途あり]と[用途なし]の面積、空地の総面積を求め、その変容について分析し、地域ごとに特性を捉える。
 六本木は、2004年以降に空地面積が大きく変化している。再開発事業が完了したことにより、地価が上昇し、大規模な建て替えが計画され、[用途なし]の面積が増加したと考えられる。玉川は、2004年以降に空地面積が減少している。再開発事業が計画決定された2005年の前後に、新しく住宅やマンションの建設が計画され、[用途なし]の面積が減少したと考えられる。東品川は、景気の変動や再開発事業による影響をほとんど受けていない。

2-3.  地域ごとの比較
 地域相互に比較するために、空地の総面積を街区の総面積(道路は除く。)で除した空地率を求める。空地数と空地率、それぞれの変容について分析し、地域相互に比較する(図2-1、2-2)。
 六本木は、1986-1991年のバブル期に空地数が増加し、1990年以降は、3地域の中で最も空地数が多い地域となっている。事業完了後の2008年は、空地率も3地域の中で最も高くなっている。玉川は、事業計画決定後の2006年以降に空地数が減少し、空地率も3地域の中で最も低い地域となっている。東品川は、空地数も空地率も一定して、ほとんど変化していない。空地率は、2008年を除くと、3地域の中で最も空地率が高い地域となっている。
 以上のことから、六本木と玉川は、景気の変動、再開発事業の事業完了や事業計画決定の影響を受けやすく、空地の数と面積が変化しやすい地域であり、東品川は、それらの影響をほとんど受けず、空地の数と面積が変化しにくい地域であると言える。

 

図2-1. 空地数の比較                          図2-2. 空地率の比較

 

3.  土地ごとにみた履歴と交替数

3-1.  土地の履歴
 IDをつけた土地ごとに、土地利用の履歴を記述する。空地は[用途あり]と[用途なし]を区別し、建物については、用途に関係なく、建物が建っているか、建っていないかを調査した。空地の発生と消滅の繰り返しについて分析することで、地域ごとに特性を捉える。
 六本木は、空地の発生から消滅までの期間が短く、空地が発生してもすぐに建物が建てられる土地が多い(図3-1)。玉川は、六本木に比べると少ないが、空地の発生から消滅までの期間が短い土地が多い(図3-2)。東品川は、空地の発生から消滅までの期間が短い土地が多く、[用途あり]が多く存在する地域である。(図3-3)。

3-2. 空地の平均寿命
 3-1.で記述した土地の履歴から、[用途あり]と[用途なし]の期間を読み取り、合計寿命を発生した空地の総数で除した平均寿命を求め、地域ごとに分析する。
 [用途あり]の平均寿命は、六本木で9.42年、玉川で10.48年、東品川で12.38年であった。[用途なし]の平均寿命は、六本木で3.13年、玉川で3.40年、東品川で3.53年であった。どの地域においても、[用途あり]に比べて[用途なし]の寿命が短いことがわかる。

3-3. 土地の交替数
 3-1.で調査した土地の履歴から、[用途あり]と[用途なし]、建物について、利用形態の変容を読み取り、土地の交替数を求め、地域ごとに分析する。
 各地域における平均交替数は、六本木で1.68回(最大で6回)、玉川で1.58回(最大で3回)、東品川で1.17回(最大で7回)であった。六本木は、3地域の中で最も交替数が多く、東品川は、最も交替数が少ない。東品川は、最大で7回と交替数が多い土地は存在するが、[用途あり]のままで交替数が0回の土地が多く存在するため、平均交替数が少ない。

3-4.  地域ごとの比較
 六本木は、空地の平均寿命が短く、土地の平均交替数が多いことから、空地の発生と消滅が多い地域であり、東品川は、空地の平均寿命が長く、土地の平均交替数が少ないことから、空地の発生と消滅が少ない地域であると言える。

図3-1. 土地の履歴(六本木)

図3-2. 土地の履歴(玉川)

図3-3. 土地の履歴(東品川)

 

4.  用途ごとにみた空地の規模分布と寿命分布

4-1.  空地の規模分布
 IDをつけた土地ごとに空地の面積を求め、[用途あり]と[用途なし]の規模分布について分析する。
 六本木は、[用途あり]も[用途なし]も、0~200㎡の割合が多い。玉川は、[用途あり]は0~200㎡、200~400㎡の割合が多く、[用途なし]は200~400㎡の割合が多い。東品川は、[用途あり]は1000㎡以上の割合が多く、[用途なし]は200~400㎡の割合が多い。

4-2. 空地の寿命分布
 3-2.で求めた空地の寿命を用いて、IDごとに空地の寿命を規模別に分類し、[用途あり]と[用途なし]の寿命分布について分析する。
 [用途あり]は、どの地域においても、規模が小さいほど空地の寿命が長く、規模が大きいほど寿命が短い(図4-1,3,5)。[用途なし]は、地域ごとに、規模によって違いがある。600~800㎡、1000㎡以上では、玉川の寿命が3地域の中で最も長く、200~400㎡では、東品川の寿命が最も長いことがわかる(図4-2,4,6)。

4-3. 地域ごとの比較
 [用途あり]に関しては、六本木は、空地の発生と消滅が多い地域であり、東品川は、空地の発生と消滅が少ない地域であると言える。[用途なし]に関しては、地域ごとに、空地の規模と寿命の相関関係が異なり、空地の規模が発生と消滅に影響を与えることがわかった。

 

図4-1.[用途あり]の寿命分布(六本木)                図4-2.[用途なし]の寿命分布(六本木)

 

図4-3.[用途あり]の寿命分布(玉川)                  図4-4.[用途なし]の寿命分布(玉川)

 

図4-5.[用途あり]の寿命分布(東品川)                図4-6.[用途なし]の寿命分布(東品川)

 

5.  総括
 本研究では、市街地再開発事業地周辺において、空地の分布とその変容を把握し、空地の発生と消滅について分析・考察した。研究対象地を比較すると、六本木は景気の変動や市街地再開発事業による影響を受けやすく、空地の発生と消滅が多い地域であることがわかった。また、東品川は、それらの影響をほとんど受けず、空地の発生と消滅が少ない地域であると言える。用途に関しては、[用途あり]に比べると、[用途なし]は空地の寿命が短く、空地の発生と消滅が多いことがわかった。
 今後の課題としては、他にもいくつかの市街地再開発事業地周辺において、同様の分析をすることで、市街地再開発事業が空地の発生と消滅に与える影響を明らかにしていくことが残されている。

 

参考文献
1)紙野桂人・金興官(1987):市街地再開発による波及効果に関する研究 -都市活動と土地利用の変化特性について-
2)加藤栄司・中村攻・宮崎元夫(1988):柏駅東口駅前再開発地区周辺地域における土地利用の変容過程に関する研究
3)長岡正剛・豊岡俊也・溝下重成・両角光男(2003):空地・建物の変化から見た熊本市中心市街地の空間構造の考察 -平成2年から14年までの12年間の土地利用変化に関する研究-
4)後藤修平・志田弘二(2007):都心部における空地の利用変遷に関する研究 -名古屋市栄地区のケーススタディを通して-  

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