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賃貸型集合住宅のリノベーションにおける外部空間の設計手法に関する研究

0.序

0-1.研究の背景・目的

賃貸型集合住宅のリノベーションが注目されて久しい。こうした集合住宅の多くは、供給することに主眼が置かれた団地型住宅や工業化住宅であり、現代の多様化した生活に対応できず荒廃し、近年では様々な手法を用いてリノベーションされている。集合住宅のリノベーションは公的集合住宅での蓄積が多く、約30年の間で間取りの変更といった再生からエレベーターや階段といった共用部を含めた建築全体の再生へと手法が進歩している。このように手法が進歩する中、近年ではウッドデッキの付加や、広場の形成といった外部空間を設計対象にしたリノベーションが、住環境全体の再生を図り、地域コミュニティとしての役割や都市景観向上に寄与している。

こうした外部空間への手法は、リノベーションにおいて可能性を感じさせるが、その手法がどういった意図や効果を持つのか、リノベーションの評価として不明瞭である。そこで、本研究では、賃貸型集合住宅の外部空間へのリノベーション手法を明らかにし、さらに手法の評価を行うことで、外部空間の設計手法における視座を提示することを目的とする。

その際、「外部空間」を外構と建築が一体的に構成するものと定義し設計手法の評価を行う。例えば、「外部空間」といえば、外構における印象が強いが、それを取り囲む外壁も空間の印象に大きな影響を及ぼすと考えられ、外構だけの評価で外部空間を評価べきでないと考える。このように「外部空間」を外構と建築による構成と定義することで、これまで捉えきれなかった集合住宅のリノベーションにおける新たな知見が得られると考える。(図1)

外部空間 イメージダイアグラム1

図1 外部空間 イメージダイアグラム

 

 

 

 

 

 

0-2.研究の位置づけ

本研究は集合住宅のリノベーションを計画・意匠的視点に基づいて論考するものである。集合住宅のリノベーションにおける研究では構法、マネジメントの視点での蓄積は多いが、意匠的視点に基づく研究は少ない。意匠的視点での研究では、住宅ストック先進国である海外事例を参照し、その可能性を探るものが多いがどれも、建物に着目したもので、外構と建築を一体的に評価したものは少ない。

以上のような研究の成果を踏まえ、本研究は集合住宅における外部空間を「外構」と「建築」との一体的な構成の評価から、集合住宅のリノベーションにおける「外部空間」の設計手法を明らかにすると共に、今一度、建物と外部空間の関係を再考するものである。

0-3.研究方法

本研究では建築メディアから公営、民営を含め賃貸型集合住宅、かつ外部空間に対し意図的な更新が見られた15事例を引用し、研究対象とする。これらの事例からは現代の住環境における外部空間を計画する上での有用な知見が得られると考える。対象事例の現地調査を行い、改修前後の変化を3次元の情報として把握した上で分析を行った。上記の調査からリノベーション手法を抽出し、それらの手法と事例における設計者の言説から外部空間の設計意図の考察を行う。そして、設計意図を基に手法の組み合わせから、外部空間を評価することで外部空間の設計手法における視座を提示する。

 

1.集合住宅におけるリノベーションの変遷

公的な集合住宅のリノベーションにおける手法の変遷と制度の関係をみる。公的な集合住宅では、1970年代から部分的改修が始まり2000年の「公営住宅ストック総合改善事業」を契機に総合的改修へとシフトした。改修規模が大きくなった一方で、依然として機能や管理的な観点での改修に終始していた。しかし、近年では民間企業とのコラボ—レーションから、付加価値の形成を目的としたリノベーションへとシフトしている。

 

2.外部空間の基礎分析

2-1.調査と調査方法

集合住宅がどのような手法によって再生されたのかを把握するために基礎的な分析を行う。調査には2014年10から2015年1月に行い出来うる限り、事例に訪れリノベーションの手法が見られる箇所の目視と撮影を行った。また、内観や原則立ち入れない部分へは補完的に建築メディアから写真等を引用している。

2-2.AURA243 多摩平の森

建築に対し、外壁の塗り分けが見られた。共用部は白く塗り、残りの大部分を青く塗る事で劣化した印象を刷新していた。外構には、その大部分を農園に変え、遊歩道を付加することで外構の整理を行い、緑豊かな環境を形成していた。また、小屋のようにデザインされた倉庫や、駐輪場の付加が確認出来た。(図2)

 

スクリーンショット(2015-03-16 19.50.31)

図2 AURA243多摩平の森 分析

 

3. 外部空間を構成する手法の抽出と設計意図の把握

本項では2.の地調査から明らかにした改修前後の変化を手法として体系化を行い、手法の横断的な分析と設計者の言説の分析から、外部空間に対する設計意図を考察する。

3-1.設計手法の分析   集合住宅の変化から27の手法が抽出できた。(表1)

手法 抽出っT

表1 手法の体系図

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3-2.設計意図の分析

手法と言説による分析から設計意図の把握、体系化を行った。設計意図は景観的視点と機能的視点の2つに分けられ、全部で9つの意図に分類できる。(表2)

設計糸井と

表2 設計意図の体系図

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4.手法の評価

本項では、3.で明らかになった手法と設計意図から、事例毎の関係図を作成し、手法の評価を行う。関係図は縦軸が手法が採用される部位、横軸が設計意図を示している。手法は、その手法のもつ意図とグルーピングし図化している。

4-1-1.事例毎の評価

「AURA243 多摩平の森」(以下「AURA」)では図7の関係図から以下のことがわかる。「フェンスの付加」「遊歩道の付加」、「開口部の変更」の組み合わせが、住戸に専用庭を形成し、庭から住戸にアプローチする構成へと住戸をリノベーションしている。また、「畑の付加」「フォリーの付加」「外壁塗装」の組み合わせは、青の外壁と豊かな自然環境を風景として重ね合わせることで、海外の庭園のような環境を生み出している。(図3)

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図3 手法と意図の関係図

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4-1-2.外部空間の設計手法におけるモデル化

スクリーンショット(2015-03-16 20.03.55)

図4 手法のデザインパタン

以上のような、定性的分析を15事例で行い外構と建築の構成における設計手法のモデル化を行う。

機能的な手法では①戸建ての演出②アクティビティの連続、等のデザインパタンが見られた。①「外構の占有化」は「AURA」「CUT」のように、「フェンスの付加」「遊歩道の付加」「開口部の変更」のパタンを採用し、接地階に戸建ての演出を行う手法である。

景観的手法では、「自然環境の獲得」と「現代性の獲得」から5つの手法が見られた。「自然環境の獲得」では、①「面の付加」②「開口部の変更」及び「外壁塗装」③「外壁塗装」といった外壁における手法の違いから手法が差別化され、外構の「植栽の付加」「畑の付加」「ウッドデッキの付加」といった手法に付随して、豊かな自然環境を形成する。例えば③「外壁塗装」では 「AUAR」のように、外壁を青く塗装することで外構と同調し一体的な関係を構築している。「現代性の獲得」では、①「舗装材の変更」及び「外壁塗装」②「舗装材の変更」及び「面の付加」といった手法が見られる。①は「CUT」のように外壁と外構が共に抽象的な表現として同調することで、周辺環境と対比したような外部空間を構成している。②はストライプ上のデザインを外構、外壁に施している。(図4)

 

4-2.手法と費用の相関

坪単価を評価指標として、総工費の情報が得られた5事例から手法と費用の考察を行う。

「AURA」のリノベーションでは、「外構の占有化」と「自然環境の獲得」の手法の採用に加え、農園が地域のコミュニティとしても機能しており機能、景観共に評価の高い事例である。一方で、建物と施行床(建物と外構)の坪単価の比較から、「AURA」の坪単位が最も低く(図5)この手法は、費用対効果の高い手法であるといえる。これは「外壁塗装」が手法として簡易であり、事業性の面でも優れていると考えられる。このように、外構面積が大きな事例では、「自然環境の獲得」が採用しやすく、郊外といった立地での有効な手法といえる。

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図5 事例毎の坪単価

 

 

 

 

 

 

 

 

5.結論

1)リノベーションにおける外部空間の設計手法は、機能的な観点において「専用庭」や「農園」を形成し、新たな住まい方を提案する。

2)デザインパタンより、外部空間に対して、建築と外構の手法を一体的に組合わせることで、建物の機能や景観を大きく改善することが可能である。

以上、外部空間のリノベーションは、外構と建築における関係の再構成と言える。これまで集合住宅が「地」として見捨ててきた「外部空間」を「外構」と「建築」の関係から「図」へと再生することで、新たな住まいの提案や、街並の再生に寄与しているといえる。

 

出典・参考文献:

1)田口陽子、山崎範子、是永美樹:住宅団地バイルマメーア再生における外部空間の差異化-第2次世界大戦後に開発されたオランダ住宅団地の再生に関する研究 その1-   2)日本建築学会:集合住宅のリノベーション 3)松村秀一:団地再生考 4)WOLFGANG KIL :ライネフェルデの奇跡

 

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