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東京山手における住宅地の商業化過程と住居系建築物へのテナント進出の様態に関する研究 -中目黒・代官山・原宿をケーススタディとして-

0-1.研究の背景と目的

都市の変容を捉える上で大規模な再開発の影響だけでなく、その周囲の小さな変化にも注目する必要があると考える。

東京山手にはかつては木造の戸建住宅やアパートが建ち並んでいた閑静な住宅地であったが、バブル崩壊(1990年)以降に商業化が進行し、住と商が混在した状態となっているエリアが存在する(図1)。それらのエリアは大規模な再開発ではなく、住宅が商業ビルに建て変わる建物そのものの更新や住居系建築物に商業用途が進出することで住商混在の街へと変容している。特に商業用途が進出する住居系建築物においては用途とハードウェアのミスマッチングが起きている(図2)。しかし、これまでの研究では用途ごとの分布様態以上に踏み込んだ研究が成されておらず、住居系建築物がどのようにして商業用途を受容しているのか、また従前の閑静な住宅地がいかにして住商混在の街へと変容したのかについては詳細に述べられていない。以上のような問題意識に基づき、本研究では以下の2点を目的とする。

①住居系建築物へのテナント進出の様態を明らかにする。②住宅地の商業化過程を明らかにする。

図1,2

 

0-2.研究の位置付け

住居系建築物へのテナント進出に関する研究は少ない。和田らの研究1)では青山と表参道の2地域について、鈴木らの研究2)では表参道と代官山の2地域について商業用途が進出する戸建住宅の数と分布様態を明らかにした。住宅地の商業化過程に関する研究も少ない。高橋らの研究3)、林らの研究4)、大野らの研究5)では元々住宅地であったエリアの土地利用の変化を明らかにしたが、建物単位で調査したものは見当たらない。

本研究では建物単位で調査を行う。テナントが進出する戸建住宅と集合住宅を分析し、どのような業種がどのフロアに進出しているのか、その度合いはどのようなものか、さらに住居系建築物をどのようにカスタマイズしてテナントを受容しているのかを明らかにすることを目指す。また過去23年間の状況も調査し、住宅地の商業化過程を明らかにすることを目指す。

 

0-3.研究の方法

まず初めに対象地域の基本的な情報の整理を行う。次に現地でフィールドワークを行い、対象地域の現状を明らかにする。さらに過去のゼンリン住宅地図を用いて、対象地域がどのようにして現在に至ったのかを明らかにする。最後に総合的な考察を行う。

 

1.調査について

1-1.調査対象地の概要

調査対象地は東京山手にある住宅地のうち、バブル崩壊以降に商業化が進行し住商混在の街となっている中目黒、代官山、原宿の3地域とする(図3)。

図3

 

1-2.調査方法

2014年6月5日から2014年11月13日の間のうち、19日間現地でフィールドワークを行い、対象エリア内の全建物の外観目視と写真撮影を行う。さらに建物名、テナント名称とその階数、テナントの業種を記録する。看板、表札、郵便受け、店内の目視により特定するが、特定が難しい場合はヒアリングを行う。

 

2.ビルディングタイプからみた調査対象地

2-1.ビルディングタイプの分類

はじめに、調査対象地内にどのような建物が存在するのかを探るために調査データと3地域の最新の土地・建物用途別現況図(以下、現況図)を用いて、建物のビルディングタイプ(以下、BT) について整理を行う。

①戸建住宅やマンション、アパートを「住居系建築物」。さらに、戸建住宅の用途に供するものを「戸建型建築物(以下、戸建型)」、マンションやアパートの用途に供するものを「集住型建築物 (以下、集住型)」と分類する。②上記①以外のもの(店舗、テナントビル、オフィスビルなど)を「非住居系建築物」とする(図4)。

図4

 

2-2.ビルディングタイプの構成

2-1.からBT別分布図(図5)を作成し建物ごとにみたBTの構成比を求めると、中目黒は「住居系建築物」が55%と多く、特に「集住型」が多い。代官山は「非住居系建築物」が53%と多いが、「戸建型」が多い。原宿は「非住居系建築物」が多い。

図5

 

3.用途からみた調査対象地

3-1.用途の分類

対象地域には様々な用途が混在している。調査データと現況図を用いて、建物の用途を「商」、「住」、「事」、「住+商」 、「商+事」、「住+事」 、「住+商+事」に分類する。

 

3-2. 用途の構成
3-1.から用途別分布図(図6)を作成し建物ごとにみた用途の構成比を求めると、3地域とも「商」を含む用途が60%以上 であり、住宅地の商業化が進行している。

図6

 

3-3. ビルディングタイプと用途の対応

各BTにどのような用途が対応しているのかを明らかにする。住居系建築物に着目すると「商」または「事」を含む用途が30%以上みられ、本来居住用として造られた住居系建築物に商業系または事務所系テナントが進出している状況が明らかになった(図7)。

図7

 

4.住居系建築物へのテナント進出の様態

3-3.から3地域とも住居系建築物に商業、事務所用途が30%以上進出している実態が明らかになった。ここでは、どのような業種がどのフロアに進出しているのか、さらに住居系建築物をどのようにカスタマイズしてテナントを受容しているのかを明らかにする。

 

4-1.テナント数と床面積の関係

3-3.で述べた商業系、事務所系テナントの数と床面積に着目して分析を行い、それぞれの特徴を明らかにする。

調査データと東京都デジタルマッピング地図「TkShade」からテナントごとの総数と床面積を求めると、中目黒は「事務所系」のテナント数が51%と多い。代官山と原宿はともに「商業系」のテナント数が80%以上と多く、床面積では90%以上を占める(図8)。1テナントあたりの床面積については、3地域とも商業系に比べ事務所系の値が小さい(図9)。

図8,9

 

4-2. テナント進出の類型

フロア別にテナントの占有率をみた場合、どのような進出の仕方が見られるのか。ここでは調査データからテナントが進出する住居系建築物を1階とその他の階に分けた図を作成し分析を行う。1階は接地階であり他の階に比べて商業的なポテンシャルが高いと考え、1階とその他の階に分けて図を作成した。建物ごとにテナント進出の様態をみると、図10のように分類できる。

建物ごとにみたタイプ別構成比(図11)を求めると、戸建型、集住型ともにタイプCが多い。戸建型において代官山はタイプCが75%と多い。集住型において中目黒はタイプCが54%と多い。また3.で述べたように代官山は戸建型、中目黒は集住型が多いことから、代官山は商業化または事務所化した戸建型が多く、中目黒は商業化または事務所化した集住型が多いことがわかる。

図10,11

タイプCをさらに詳細にみると、戸建型においては図12のようにタイプ別に分類できる。建物ごとにみたタイプ別の構成比(図13)をみると、3地域ともタイプC-1が多い。これは集住型に比べ戸建型は床面積が小さいため、複数のフロアを貸借するためだと考えられる。タイプC-2は代官山と原宿にみられる。

図12,13

 

4-3.業種の立体的な分布

4-2.で述べたテナント進出をより詳細に記述する。調査データから4-1.で述べた「商業系テナント」を「飲食」、「物販」、「サービス」の3つの業種に分け、「事務所系テナント」は「事務所」として、それぞれの業種がどの階に進出しているのかを明らかにする。

テナントごとにみた業種の分布をみると、中目黒は2階以上に「サービス」と「事務所」の進出が多い。代官山と原宿は1階から2階に「物販」の進出が多い。「飲食」と「物販」は1、2階に進出することが多い。「サービス」は2階以上にも進出がみられる。事務所系テナントは2階以上に進出することが多い(図14)。

図14

 

4-4.テナント進出の詳細

本来居住用として造られた住居系建築物を店舗や事務所として使用する場合、何らの不具合が生じると思われるが、それを解消するために何かしらのカスタマイズが行われているのではないか。ここではどのようにしてテナントを受容しているのか、その詳細を明らかにする。

調査データから建物の外観の変化について整理を行うと(図15)、①外部階段の増築、②エントランスの増築、③オーニング,庇の増築、④小屋の増築、⑤立面の装飾の5つの増改築が行われており、図16のように分類できる。

図15,16

増改築の手法ごとにみた総数(図17)を求めると、戸建型は「オーニング,庇増築型」が最も多く、集住型は「エントランス増築型」が最も多い。戸建型、集住型ともに「立面装飾型」が多い。「外階段増築型」は代官山と原宿の戸建型に多くみられる。これは4-2.で述べたように上下階で異なるテナントが入居しているタイプが多く、外部階段の増築により上下階の動線を分離する必要があるからだと考えられる。「オーニング,庇増築型」は戸建型、集住型ともに原宿が他の2地域に比べ最も多い。これは、「オーニング,庇増築型」が前面道路に品物を陳列し公道を私有化しているため、道路幅員が広く車の通りが多い中目黒では品物を陳列しにくく、道路幅員が狭く車の通りが少ない原宿のほうが品物を陳列しやすいためだと考えられる。「外階段増築型」と「小屋増築型」は非常に少ない。これは、庭もしくは空地がないと外階段または小屋を増築しにくく、「小屋増築型」に関してはある意味で違法な増築でもあるためだと考えられる。

図17

 

5.住宅地の商業化過程

過去のゼンリン住宅地図と現況図を用いて、住宅地が商業化されてゆくプロセスを明らかにする。対象エリア内の商業建物を開業5年目以内、5年目以降に色分けした開業年別分布図を1991年から2014年までの5年ごとに作成し分析を行う。1991年からとしたのは、3地域ともバブル崩壊以降に商業化が進行したからである。

 

5-1.商業建物と非商業建物の分類

2.のBTの分類を踏まえ商業建物について整理を行う。
①商または商を含む用途の建物を「商業建物」。さらにBTが住居系建築物のものを「住居系商業建物」、BTが非住居系建築物のものを「非住居系商業建物」とする。②上記①以外の建物(住宅など)を「非商業建物」とする(図18)。

図18

 

5-2.開業年別にみた商業建物

住宅地の商業化はいつ始まり、現在どのような状況なのか。5.で作成した分布図から建物ごとにみた商業建物の年別開業件数(図19)を求めると、原宿は1991年の時点で商業建物が33棟開業しており商業化が進行した時期が早い。1996年から2001年にかけては住居系商業建物の開業件数が24棟と多く、住居系建築物へのテナント進出が著しい。中目黒は2001年から2007年にかけて商業建物が24棟と最も多く開業しており、商業化が進行した時期が遅い。代官山は1991年から1996年、2001年から2006年にかけて商業建物が多く開業している。3地域とも大規模な再開発が行われた年代に商業化の進行が著しい。

図19

 

5-3.商業建物の発生場所

商業建物の発生場所に着目し、商業建物が増加する過程を明らかにする。5.で作成した分布図をみると、原宿はまず大通り沿いとその内側にかけて非住居系商業建物が建ち並ぶ。これはバブル崩壊以降の地価の上昇により住宅が商業ビルに建て替わったからだと考えられる。2001年にはキャットストリート沿いに住居系商業建物が著しく増加している。これは1996年のキャットストリートの道路指定により住宅の建て替えが可能になったことと裏原宿ブームが起きたことで、アパレル業を営む人が個性を出すために住宅を増改築し店舗にしたからだと考えられる。また現地でのヒアリングから、近年では大型商業施設の開業により個性的なアパレルは減り、古着屋を営む人が賃料を抑え利益率を高めるために住宅を増改築し店舗にしていることがわかった。中目黒は角地に商業建物が開業し、その影響が隣地に波及しており、特に駅前再開発(2002年)以降に商業建物が増加している。代官山は大通り沿いに非商業建物が開業し、アドレス開業(2000年)以降に住居系商業建物がアンコの中心から放射状に開業している。これは再開発によりビジネスが活性化し、そこに目を付けて店舗を営む人が増加したからだと考えられる(図20)。

図20

 

6.総括

①住居系建築物にテナントが進出することで、戸建型ではオーニング,庇の付加といった軽微な変更が行われ、集住型では住宅部分と動線を分けるためにエントランスの増築が多く行われる。また、上下階で異なるテナントが進出することで外部階段の増築が行われる。

②住宅地の商業化過程は大通り沿いからアンコの順に商業化する場合と、ランダムに商業化する場合がある。大規模再開発とともに住居系商業建物も増加している。

③中目黒は商業建物がランダムに開業し現在に至る。集住型が多くテナントの受容はエントランスの増築が多い。代官山は商業建物がランダムに開業し現在に至る。テナントの受容に特徴はない。原宿は大通り沿いに商業ビルが建ち並び、その後キャットストリート沿いに住居系商業建物が増加した。幅員の狭い道路が多くテナントの受容はオーニング,庇の増築が多い。

以上のことから、大規模再開発の影響が住宅地に広がることや、道路指定による建て替わりと街の流行が重なることで住居系建築物へのテナント進出が増えると予想できるが、断定するにはオーナーへの詳細な調査が必要であるため今後の課題とする。商業ビルではなく住宅を増改築して店舗にする理由は、昔は個性を出すためであったが近年では賃料を抑え利益率を高めるためであり、バブル崩壊以降の経済の一端が都市にみられる。

 

参考文献

1)和田翔太,郷田桃代:住商混在地域における商業系建築物の表層に関する研究 -青山・表参道地域を事例として-,日本建築学会学術講演梗概集,PP.389-390,2009.7
2)鈴木英倫子 ,郷田桃代:住商混在地域における建物用途と建築形
態に関する研究 -その1 表参道、代官山周辺地域の調査・分析-,日本建築学会学術講演梗概集,PP.167-168,2011.7
3)高橋輝一,平本一雄,片山健介,志摩憲寿:東京における集客型市街地の変容過程に関する考察-その2代官山の事例-,日本建築学会学術講演梗概集,pp1183-1184,2009.7
4)林和眞,平本一雄,片山健介,志摩憲寿:東京における集客型市街地の変容過程の考察-その3原宿の事例-,日本建築学会学術講演梗概集,pp1185-1186,2009.7
5)大野和音,熊谷奈央子,田中政志,末繁雄一,平本一雄:東京における集客型市街地の変容過程に関する考察-その7中目黒の事例-,日本建築学会学術講演梗概集,pp201-202,2011.7

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