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地域差を考慮した自然光による建築空間設計手法の研究

修士2年 鈴木将平

0.はじめに
建築の設計において、考慮しなければならない事項は非常に多岐にわたっている。法規や必要とされる条件のようなはっきりと満たす/満たさないの判断が比較 的容易で、設計者が客観視することが可能な事項がある。その他に気流や照度、温度といったものも、最近ではコンピューターのシュミレーションによってある 程度の数値化・視覚化が可能になり、これも建築設計を客観的に行ううえで非常に有用である。以上のように、建築設計において人間の感覚によらない部分はあ る程度制度化し、設計者がクライアントとの間で数値を媒介としたコミュニケーションが可能になった。とくに現在では技術の発達も進み、オフィスなどでは建 築空間を電子制御により常に設定した環境に保つことが可能になっていることからも明らかである。
このような観点から考えると、現代建築はモダニズム以降地域差が少なくなっているように考えられる。以前は気候や風土にハードとしての建築自体が対応する ようにつくられる必要があり、そこから多種多様のヴァナキュラーな建築が発生していた。それはテクノロジーに頼らない時代の建築であることは確かだが、現 在においても学ぶべきことは多いと考える。

 

1-1. 研究の目的と背景
建築空間において、その質を決定づけるもののひとつに「光」がある。特に自然光に関しては古くから建築の一部として考えられてきた。そしてそれは建築の形態にも反影されていたと考えられる。
特に自然光環境に関して、北欧の建築や北欧出身の建築家らは「北欧の特別な光」を使いこなし、良い空間をつくり出すことに定評があるといわれることが多 い。実際に北欧ではその緯度の高さから光の角度や日照時間など世界の中でも特異な側面を持っている。しかしながらその一般的にいわれる「北欧ならではの 光」と「北欧の建築設計」の関係は明らかにされているとはいいがたい。
従って、本論では北欧の近現代建築が特殊な自然光環境に対し実際にどのような設計手法をとっているかを分析により明らかにすることで、自然光の地域差と建 築との関係を明らかにすることを目的とする。また、対象の建築家を一人に限定せず、北欧で活躍する複数の建築家の作品を取り上げることでその間に何らかの 共通性や、北欧ならではの光のデザインを抽出する。

1-2. 研究対象
北欧の光に関する記述は多く、また多くの場合地域性や気候とともに語られる。本研究ではフィンランド、デンマーク、スウェーデンを中心とした北欧諸国の主に住宅の開口部や空間形態に関する分析を行う。

1-3. 研究方法
対象となる北欧の建築の他に、しばしば特殊な地域性を持ち、ヨーロッパなどで活躍したるル・コルビュジェの住宅が存在するインド、緯度的にはあまり多くの特徴を持たない、比較的中間地点であり身近な日本の住宅を比較対象として分析する。
光の地域性を明らかにしたうえで、対象建築を分析し、地域間の比較を行い差異を見出すことにより光の地域特性と建築との関係を明らかにする。

1-4.研究の位置づけ
小泉による「ALVA AALO作品における自然光デザインのタイポロジー」ではアアルトの主要作品における採光方法に関して体系的に研究がなされている。しかしながら単一の建 築家の作品分析のため分析結果が地域差による物なのかあくまでも作家性によるものなのかは明らかにされていない。作家性は育つ地域により育まれるものでも あるがそれが直接建築デザインと結びつくとは言い切れない。本研究では北欧における自然光と建築空間の関係性を、複数の建築家によるデザインを統合的に分 析することで、作家性を超えた地域性が生み出すデザインを明らかにすることを目標とする。

 

2光が持つ地域差と建築

2-1地域における光環境の違い
光と地域の関係においては緯度がその特性を決定づけるにあたり大きな役割を担っている。例えば図1の日照時間のグラフで示したように北緯60度10分のヘ ルシンキ(フィンランド)と北緯28度のニューデリー(インド)では大きな違いがあることが分かる。日が短い北欧では光に対する認識も変わる。気温も低い ので基本的には光は受け入れるものとして建築の設計に反影されるが、例えばインドなどでは日照時間が長く気温も高いため、光は遮る物として認識される。こ れはそのまま人間の体の進化にも関係しているため、光の乏しいヨーロッパでは目の色素が薄く、私たち日本人をはじめとした人々は色素が濃い。長い歴史の中 で人間も建築も徐々にその地域にあわせて適応されてきた。
このように地域により光環境に違いがあるのももちろんだが、当然のようにそこに住む人々の光に対する認識も大きく違っているため、人間が設計する建築にも違いが現れると考えることは自然な対応である。

2-2.歴史的変遷
B・ルドフスキーが『建築家なしの建築』のなかで言及している通り、歴史的に見れば土着的な建築はその地域の気候に則してつくられるのが当然であった。そ れは地域の気候に対して適切につくられていたオリジナルのため、基本的には改善する必要がないとされていた。しかし、技術の発達などにより世界中がコミュ ニケーションをとるようになると電気などのインフラや建築工法などが共有されるようになり、地域差は減少したと考えられる。このことから考えると、土着的 な建築から近現代の建築に共通点などの可能性を見出すことができれば、建築デザインにおける真の地域性を抽出することができる。
2-3建築家が持つ地域差への認識
国際的な活躍をする建築家の中には、気候条件が大きく異なる場所に作品を残す者も多くいる。例えばモダニズムの代表的建築家ル・コルビュジェ(Le Corbusier 1887-1965)はヨーロッパでの活動の他にインドなどでも設計を行っている。そこでは地域の特性を取り入れた建築を残している。またルイス・カーン (Louis Isadore Kahn 1901-1974)も基盤としていたアメリカの他にインドやバングラディシュに作品を残している。北欧に限ったことではないが地域ごとにおける光の環境 に対する建築家の考えや設計手法を分析する場合、さまざまな地域で活動した建築家の作品を分析するのはヒントになり得ると考えている。

 

3.北欧

3-1.北欧の建築家
北欧を代表する建築家として以下の4人があげられる。
アルヴァ・アアルト(Alva Aalto 1898-1976 フィンランド)、グンナール・アスプルンド(Erik Gunnar Asplund 1885-1940 スウェーデン) 、シーグルト・レベレンツ(Sigurd Lewerentz 1885-1975 スウェーデン)アルネ・ヤコブセン(Arne Emil Jacobsen 1902-1971 デンマーク)。上記の建築家の中ではとりわけアアルトの光の設計に関して言及される場面がおおい。

3-2.北欧の採光方法
北欧の住宅では短い日照時間に対して最大限光を取り入れることができるように考えつくられる場合が多いが、気温が低く、レンガ造の住宅が多いため、壁は厚く、開口は少なくなっている傾向がある。
そのためアアルトは公共施設等において積極的に自然採光するための装置を導入したりしている。
また図2のようにハイサイドライトやトップライトを多用するのも特徴の一つである。これらは北欧の乏しい光を効率よく利用し、さらに豊かな光の質を生み出すためのものだと思われるが、研究を進めるうちに更なる特徴を見出すことを目標とする。

予想される結論
光と建築の形態を地域別に分析し体系化してゆくことで、作家性を超えた地域性としての光の建築デザインが明らかになってゆく物と考えている。

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