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ルイス・バラガンの空間構成手法に関する研究-奥行性を持つ絵画的空間の集合体としての建築-

はじめに

◇研究の背景

ⅰ)バラガンの建築は「光」や「色彩」について印象論的に語られることが多く、その空間構成を理論的に分析記述している著書・論文等がほとんどない.

ⅱ)バラガンの空間のイメージからは、1枚の抽象絵画を見ているような印象を受ける。このような空間の特徴に着目することがバラガンを理解する上で不可欠である.

ⅲ)その背景として、バラガンはスケッチによる設計を行っていたこと、非常に「写真」に拘っていたこと、様々な画家に芸術面の影響を受けていたということが挙げられる.

◇研究の目的

ⅰ)三次元である空間に、絵画的なシーンを構築していたとして、バラガンの建築を絵画的空間の集合体と再解釈すること.

ⅱ)絵画的空間とはどのような特徴を持った絵画であり、どのような方法論により構築されたのかということを明らかにすること.

     

二次元的なイメージ

◇バラガンのスケッチ

ⅰ)バラガンは正式な建築図面を描かず、イメージスケッチによる設計を行い、そのスケッチを元にアシスタントなどが図面を描いたとされている.

ⅱ)バラガンにとってプランによる理論的な構成は重要でなく、空間の美しい“見え”が重要であったことが分かる.

◇作品のメディア化

ⅰ)建設後に撮影した写真を見て検討した結果、計画の変更を行うほど、実際の空間と同様に写真にこだわっていた.

ⅱ)中期以降はアルマンド・サラス・ポルトゥガルという一人の写真家を指名し活動していた.

⇒彼の空間の発想の原点が二次元の枠取られたイメージをもとにしているという理解ができる.

   

絵画からの影響

◇ジョルジュ・デ・キリコ

ⅰ)形而上絵画を生み出したイタリアの画家であり、彼の絵画に大きな影響を受けた.

ⅱ)謎と幻惑に満ちた構成を取り入れることで、自身の作品に時を止めるような抽象性、絵画性を構築した.

絵画的空間の基礎分析

◇分析対象と分析方法

ⅰ)バラガンの建築空間において印象的な構図を選定し、その特徴を抽出していく基礎的な分析を行う.

ⅱ)後期の主要な作品であり言説及び図版等が十分に得られ、且つ現地調査を行うことが可能であった8作品を取り扱う.

基礎分析の一例

◇バラガン邸書斎

ⅰ)大きな特徴として、階段面と天井の小梁の反復操作が挙げられる.これらの要素が、パースの同一軸上に反復していくことにより、奥行性が強調されている.

ⅱ)二つ目として、壁面に“スキ”を設ける操作が挙げられる.天井と壁の間に隙間を設けることで、隣接する空間を想起させるのと同時に、空間の連続性が生まれる.

◇プリエト・ロペス邸リビング

ⅰ)特徴として大梁や壁による重層的な空間となっている。空間が段階的に切り取られていくような、奥行を強調する操作が行われている.

ⅱ)この視点からは、次室の最奥に配されたキリストの像が見える.遠景としてのアイストップとなり、距離感を意識させている.

各技法の分類と分析

◇分析の方法

ⅰ)基礎分析で抽出した特徴・技法は、いくつかのシーンで重複・類似しているものがあり、これらを関連するもの同士で分類する.

ⅱ)分類した技法について、一つずつ該当するシーンと共に横断的な分析を行い、技法の特色とその効果について考察を行う.

技法分析の一例

◇同一要素の反復

ⅰ)同じ意匠の空間構成要素を繰り返し反復することで、奥行を強調する操作.

◇近景の演出

ⅰ)「遠景と近景」を強調するために、壁面を近景として、額縁のように扱い、奥の空間を切り取る重層性を強調する操作.

◇隣接面の配色

ⅰ)隣接する面同士の色を塗り分けることで、面相互の独立性が保持され、面としての構成が強調される操作.

技法の体系化

各技法を分析した結果、バラガンの絵画的な空間構成技法として以下のように体系化できる

技法は大きく3点に分けられ、その特色として、「遠近感の誇張」については壁・その他空間構成要素における操作、「重層性」についてはプランニング・配置等における操作、「面によるコンポジション」については空間を面による構成として捉える操作と分類できる.

総合的な分析

◇作品別の技法採用パタン

ⅰ)住宅作品は比較的遍りなく技法が採用されているのに対し、非住宅作品では「面によるコンポジション」の操作に偏っている.

ⅱ)住宅は室の種類によって採用する技法が異なり、そのため偏りが少ない.

ⅲ)非住宅作品は抽象的でモニュメンタルな性質に偏っており、晩年のヒラルディ邸は、それらの経験を踏まえ、住宅作品の中でも抽象的な表現になったと考えられる.

◇室の種類別に見られるパタン

ⅰ)リビング部分など一つの大きな空間は、「重層性」の技法により構成されていることが多い.

ⅱ)コリドーやアプローチ空間は、スケールを細長くするなど「遠近感を誇張」する操作が用いられている.

ⅲ)住機能との関係が希薄な空間(プール、テラス等)は、住宅の中でもその部分に限り「平面的なコンポジション」が多用されており、極めて抽象的な空間となっている。

総括と展望

本研究では、バラガンの空間の絵画的な印象に着目し、その特徴や技法を抽出して理論的な分析を行った結果、以下のことが明らかとなった.

1)影響された画家や、写真に対する考え方、そしてバラガン自身の空間を分析することにより、バラガンが三次元の建築に対し、二次元的・絵画的な視点で空間の美しさを追求していたことが分かり、バラガンの建築を絵画的空間の集合体として解釈を加えることができた.

2)バラガンの建築における「絵画的空間」とは、適切な視点からフレーミングした構図において、空間の構成要素を平面的な構成に還元し、遠近感を強調したり重層的な操作を行うことで奥行を強調する技法が成されたものであることが分かった.またこれらの技法は建築設計ではなく、絵画を描く図法と酷似している.

以上のことから、本研究で得られた結果及び知見は、バラガンの空間における解釈の一端を体系的に明らかにするものとして、バラガンの空間構成手法における理解の深度を深めることができた。今後は、分析対象をさらに広げ、シーン相互の繋がり方やシークエンス等も考慮に入れた発展的な研究が望まれる.

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