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アルゴリズミック・デザインを用いた密集市街地における小規模共同住宅の設計手法の開発 -東京都墨田区地区の共同建て替えをケーススタディとして-

 

0.研究の背景

 

東京の密集市街地の多くは幅員4m以下の細街路が入り組み、公園などの公的な空地が少ない密集した住宅地である.一方、都心に近いという利便性の高さ、安定したコミュニティが存在するといった生活環境の可能性を持つ地域でもある.隙間なく建ち並ぶ住居の多くは「老朽化」、「延焼の恐れ」、「狭小」、「未接道敷地」などの問題点を抱えいる.こうした現状を踏まえ、建築的解決のひとつとして複数の地権者と一体的に共同住宅として建て替えを行う「共同建て替え」が試みられる.

共同建て替えにおける「敷地の取り方」は、賛同する地権者により様々な敷地形状が考えられる.また、その地権者数に従い「住戸数」、「容積(延床面積)の配分」などの初期条件が変動するため、共同住宅においても様々な形態が存在する.設計者がこの初期条件の変動を受けいれ、敷地の取り方と集合形態についての最適解を得るまでに膨大な量の検討が必要である.

また共同建て替えにおいてひとつの形態を決定する際、地権者全員が納得のいく様に合意形成が行わなければならない.設計者は建築設計を通し、地権者間に生じる相反する要望や利害を積極的に取り込み、それを活かす空間的解決案を見出して行くことを目指していきたい.また、そうした合意形成過程が必要である.

このように設計者は共同建て替えにおいて、「形態生成」と「合意形成」を行い共同住宅を設計していかなければならない.しかし、こうした2つのプロセスを統合して共同住宅を設計していく手法というものは明確に示されていないのが現状である.

設計手法という側面では近年、アルゴリズミック・デザイン(以下A.D.)という手法が「人間には扱いきれない複数の条件を共有可能な数値へと変換し、解答としての形態を視覚的に提示する」という有用性から建築設計において広く展開されている.しかし、この手法には依然として応用の余地が多く存在する.様々な応用を試みると共に、具体的な設計過程を記録し、評価と展望を論じていくことがA.D.の可能性を広げるはずである.

 

0-1.研究の目的

共同建て替えにおいて、建築の設計者は「形態生成」と「合意形成」を行い共同住宅を設計していかなければならない.この設計において設計者は、場所への応答、地権者間の利害など様々な点を考慮する必要があるが、それらは明確化されていない.そこで、「密集市街地における共同建て替えの設計において考慮するべき問題点を明らかにすること」が本研究の第一の目的である.またそれを受け、共同建て替えの設計においてA.D.を用いることで「設計における諸問題」を解決し、「形態生成」と「合意形成」のプロセスを統合して行うことができると考えた.そこで、「共同建て替えにおける共同住宅の設計において集合形態を生成するアルゴリズムを構築すること」が第2の目的である.これを受け、「共同建て替えにおいて、A.D.を用いた形態生成と合意形成を統合して扱う設計手法を開発すること」が第3の目的である.

 

1.共同建て替えにおける設計

「密集市街地における共同建て替えの設計において考慮するべき問題点を明らかにすること」という本研究の第一の目的に対し、以下が明らかになった.

①多様な敷地の取り方と共同住宅の形態に関するパターン検討の必要性

②住戸数の変動

③各住戸の延床面積配分の変動

④連鎖的共同建て替えの可能性を考慮した設計の必要性

⑤合意形成において地権者間の利害に対し、空間的解決案を見出す必要性

 

2.アルゴリズムの構築

1の「共同建て替えにおける設計」を踏まえ、共同住宅の設計変数として下記の各項目に還元し、アルゴリズムを構築する際の条件とすることで、 共同住宅の形態生成のためのアルゴリズムを段階的に構築した.

 

アルゴリズムのフロー図.

Grasshopper上にて構築したアルゴリズム.

 

アルゴリズムでは「敷地設定」、「住戸設定」、「集合形態生成」の主に3つの操作によって具体的な共同住宅の形態が導かれるようになっている.また、「住戸数の変動」や「延床面積配分の変動」が生じた場合は、その部分の設定のみを変えるだけで、変更の反映された集合形態が生成可能となっている。

 

3.ケーススタディ

2にて構築したアルゴリズムを用いたケーススタディを行うことで、共同建て替えにおいて、A.D.を用いた形態生成と合意形成を統合して扱う設計手法を提示した.具体的には、3地権者による共同建て替えを想定し3住戸からなる共同住宅の設計を本ケーススタディの設定とした.この際、3人の協力者を設定し、形態の評価を行う「合意形成」のプロセスをシュミレーションすることとした.以下、各フェーズにおいてアルゴリズムによる「形態生成」と「合意形成」の反復により最終形態へと至った.

Phase1

Phase2

Phase3

Phase4

 

以上、ケーススタディでは共同建て替えにおいてA.D.を用いて形態生成と合意形成を行った.形態生成においてA.D.はPhase毎に膨大な量の形態を提示し、それにより設計者は多くの検討を行うことが可能であった.また、A.D.はPhase3における住戸のユニットが分割配置された構成などの想定外の可能性を持った解答を示し、設計者が地権者間の利害に対する空間的解決案を見出すことにつながったように合意形成ツールとしても働いた.以上から、共同建て替えにおいて、A.D.を用いた形態生成と合意形成を統合して扱う設計手法が提示された.

 

4.結論

 

密集市街地における共同建て替えについて、設計者が考慮するべき問題点が明らかになった.地権者の存在が設計に与える影響が大きく、それは敷地から住戸数といった設計条件にまで渡っていることが分かった.そして、設計者は合意形成において相反する要望や利害を、積極的に取り込み活かす空間的解決案を提示することが重要であった。また、段階的建て替えなど、設計者にはより長いスパンを扱うことが求められていた.

本研究ではこうした諸問題を乗り越え、共同住宅の形態生成を行うこと、そして地権者間の利害に対し空間的解決案を見出す目的でA,D,を用いた設計手法を構築した.これにより、住戸数と延床面積の配分の変動が生じた際、少ない時間で共同住宅の形態を多く生成し設計を進めることが可能となった.また、ケーススタディでは形態生成を行うと同時に合意形成の際に、空間的解決案を見出すことが可能であった.

共同建て替えの設計においてA.D.を用いることで、繰り返し形態の検証すること、形態に対する面積との相互関係を検証することが可能であった.こうした検証可能性は、変動する初期条件を受け入れ設計すること、そして地権者と設計過程を共有することに対し有用であった.一方、アルゴリズムの構築には多くの手続きを踏なければならないことが問題点として挙げられる.また、設計の際に異なる条件が付加された場合や設計意図の変更を反映させる際には部分的に改良する必要があるなど、必ずしも柔軟性を持ち得ないことがA.D.の限界であるといえる.

今後A.D.の有用性を示すと共に、いかに建築設計の過程に用いるのかという「手続き」を体系化し、広く共有していくことが必要である.それが、A.D.の適用の幅と設計手法としての可能性を広げると同時に、建築の形態空間に対し新たな可能性を示すことにつながる.

 

以下、最終形のパースペクティブ

 

約9ヶ月間、アルゴリズムという未知な領域を扱うこと、論文としてまとめ、設計として形造ること、本当に様々な体験が得られた.自身の力量の無さから、様々な回り道をしてしまった.しかし、こんなにも長い期間建築について考えることができたと考えると、本当に素晴らしい時間だった。指導をしてくださった先生、手伝ってくれた後輩、そして相談にのってくださった先輩方、本当にありがとうございました。

 

2013.2/23.Sat.

石川北斗

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