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CFD解析シミュレーションを用いた環境共生型学校建築の設計-両義的な壁を用いた豊洲小学校新築計画

0.1研究の背景

 近年、コンピューターの普及により様々な解析シミュレーションを行うことができるようになってきた。解析シミュレーションを用いることにより、風や熱や光などの複雑で予想し難い挙動を可視化し把握することができる。このことにより、実際に設計された空間が環境的に意図されたものになっているか検証し、その結果をもとに改善することによってより適切な環境を実現することができる。

 学校建築は、学校形態や理念の変化などから、様々な取り組みがなされている。まず、空間の可変性、連続性、開放性を実現する形態としてオープンプラン・スクールが注目されている。オープンプラン・スクールは、教室が完全に独立したものになるのではなく、パーテーションなどで仕切り、開放的で可変性のある形態である。オープンプラン・スクールでは様々な諸室の空気が一体となっており、環境的にお互いに影響を与えやすい。つまり、通風や音、視線が他の空間に伝わりやすい繊細な形態であるといえる。そのため、学校建築で用いられる壁は、これらを調停する役割として非常に重要な役割を担う。

また近年では、環境問題などを背景に機械に頼らず、自然通風などのパッシヴ型の環境制御が重要である。通風の良い建物は子供の五感に刺激を与えること、機械の利用を減らすこと、環境教育に活かすことなどの利点が有り、これから積極的に取り入れていくべきである。一般的に壁が多くなるほど、視線や音といった問題は解消され、様々な空間を計画学的に適切に配置しやすく、子供のための多様な居場所を確保することができる。しかし、壁が多くなればなるほど、通風の効率が落ちてしまう。このように壁の配置の仕方により、計画学的な合理性と環境学的合理性は必ずしも一致せず、場合によっては対立することもあり得る。また、学校のように多くの壁が存在する建築では風の流れを予想することは難しい。そのため、学校建築の壁は、計画上の要求と環境計画上の要求を同時に満たすような壁を実現することは難しい。

0.2研究の目的

CFD解析シミュレーション用いて、風の複雑で予想し難い挙動を可視化し具体的に風の流れを把握しながら設計を行う。その過程で、計画学的合理性と通風の合理性が満たされているかを見極めながら設計を行い、最終的に両者を満たすような壁の在り方を提案することを目的とする。そして設計過程を記録し、環境的側面と計画的側面から考察を行い、解決策を示し改善を試みる。また、最終的には通風のみならず、光や音などの総合的な環境計画に配慮した小学校を提案することを目的とする。

0.3研究の方法

本設計では、酒井研究室の協力のもと、フローデザイナーを用いて設計を行う。まず設計を行ったものに対して解析をし、考察を行う。考察で得た知見を次の設計に反映させ改善を試みる。本設計では、この作業をを3回繰り返し、4回目の提案を最終的な提案とした。

1.敷地について

敷地は、東京都江東区豊洲5丁目21を選んだ。豊洲は近年人口増加によって小学校の建設が必要となっている地域である。またこの地域は湾岸からの恒常的な風が吹き、夏は南南西、冬は北北西の風が吹き、この風を利用した小学校を設計する。

 

 

2.Phase1

2.1設計提案

地域に開くような施設計画を行った。1階部分に図書館、体育館、特別教室、管理室などを配置し、児童が利用していない時は外部の人が利用できる。夏場にテラスを開放し、外部と一体となった授業を行える。テラス、教室などがオープンスペースに対してでこぼこに配置し、様々な居場所を作るように計画した。以下に設計提案、解析結果、考察を示す。

 

 

2.3考察


1)
教室周辺は、海からの風の向きと壁の向きが違うため、風が吹く部分と吹かない部分が発生している。そのため、風の流れと同じ方向を向くような形態にする必要がある。


2)
体育館付近にはビル風が入ってきており、この風を利用することができる。


3)
隣地に存在する病院の影響で、メディアルームまで風が入っていない。風向きを調整してメディアルームまで風が入るようにする工夫が必要である。


4)
建築上部には強い風が吹いている。この風を取り入れることで、効果的に風を取り入れられる可能性がある。

 

 

3.Phase2

3.1設計提案

 Phase1を受けて,変流板としての壁と視線を防ぐための壁を配置した。変流板としての壁は、風の流れを図書館やメディアルームの方向に変えて、風が施設全体にいきわたるように計画した。視線を遮る壁は、視線を適切に遮り、授業効率を高めることを意図している。視線を遮る壁は、高さを低くし、壁の上に風が流れるようにした。以下に設計提案、解析結果、考察を示す。

 

3.3考察

1)トイレや階段などのコアが風の流れを邪魔している。コアの配置を改善することで大きな風の流れを作ることができる。


2)3F
2Fで風の流れる量に差がある。これは屋根からの通風の影響であると考えられる。立体的な風の流れを考える必要がある。


3)
変流板としての壁により、風の流れが図書館まで通るようになった。


4)
視線を遮る壁は教室における視線の問題を解決するために配置したが、結果として教室に吹く風は弱まってしまった。この両者を満たすような壁を考える必要がある。

 

 

4.Phase3

4.1設計提案

 風向きに合わせた配置にし、教室の角度を振った配置としたため、敷地形状との齟齬から面積的に配置が難しくなってしまった。そのため、オープンスペースを一つの部屋とみなし、そこに教室を配置した。その後、Phase2より効果的である風向きを変える壁と風向きに沿った壁の2種類で構成することを試みる。結果としてできた細い空間や広い空間を利用し、多様な授業形態を可能にするオープンスペースやワークスペースの配置を試みた。学年ごとに吹き抜け、煙突を用いて上下間の風の流れを構築する。また、吹き抜けからは自然採光を取り入れる。冬場の風を防ぐ曲面状の壁を北に配置した。以下に設計提案、解析結果、考察を示す。

 

 

 

4.3考察

1)平面全体に意図した風の流れを実現することができるようになった。さらに屋根を含めた立体的な通風、採光のシステムを提案する必要がある。


2)
全体的に風が流れる一方を、壁に対しての提案が希薄で、風の合理性が支配的であり、計画的な提案の余地がある。


3)
冬場の風が、体育館の北面に集中して吹いている。受け流す形態にする必要がある。


4)
外構のデザイン、グラウンド、子どもの遊び場、植栽計画が外部空間の設計を行う必要がある。また、湾岸沿いを利用した計画の可能性がある。

 

 

5.Phase4

Phase4で最終提案である。以下に設計提案、解析結果などを掲載する。

 

Phase4では、壁を一体的に扱い、層状の壁とした。層状の壁は、Phase2、3で得た通風に有利な形状で構成されている。

 

 

壁の詳細

 

 

層状の壁には様々な壁のキャラクターが与えられ、表情を壁にそって連続的に変化していく。この壁は、例えば本棚、机、椅子、黒板などに変化し、計画学的要求にこたえる壁となっている。

 

Plan(1学年)

 

層状の壁。壁に沿って様々な行動が起こる。

 

 

 

教室の様子。大きなテラスが隣接され、教室と一体的に使え、外部で授業を行うことができる。

 

 

2F Plan

 

 

 

外観写真

 

 

 

立面パース

 

環境ダイアグラム

 

 

通風システム

 

 

 

解析結果

 

 

上部のみの通風。風は緩やかに取り込まれる。風が強い日には上部のみ開口し、調節する。

 

 

 

 

 

6.結論

 Phase1からPhase4にかけて通風性能が上がり、また形状も大きく変化していった。このことから、計画的に解いた場合と通風の合理性を考慮し設計を行った場合では大きな差があり、通風について設計初期から考慮した計画が必要である。また、近年の学校建築は計画学的合理性が支配的で、環境的価値が高まっている現代において、通風のみならず環境的合理性について考えた場合に学校の在り方が変わっていく可能性がある。

 

設計を終えて

 

課題が多い設計であったが、環境についての可能性が大きく感じられたことが収穫であったと感じた。特に学校の様に主に計画学について考えて計画される建物では、より環境について考える必要がある。また講評会では通風だけでなく、熱、水流、放射能の拡散の仕方のシミュレーションなど、CFD解析シミュレーションには通風のみならず様々な設計の応用の仕方があり、今まで設計ではどうしようもなかったことが扱える可能性があるということを指摘された。実際フローデザイナーではそれらのシミュレーションを行うことができ、後輩にはぜひチャレンジしてほしいと感じた。

 今回の設計では研究室の垣根を越えてたくさんの人にお世話になった。関わった皆様方に大変感謝いたします。

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