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東京都中央区月島三丁目再開発計画 -路地空間の継承と発展-

修士2年の小林です。遅くなりましたが修士設計の成果を報告致します。

 

【研究編】

0.序

0-1.研究の背景と目的

日本には数多くの木造住宅密集地域(以下、木密地域)が存在する。木密地域の特徴として、狭い路地が挙げられる。路地は私道であるが、周辺住民達の交流の場であった。しかし、近年、建物の老朽化や火災等の災害時に緊急車両が通れないといった安全面においての問題が浮き彫りとなった。その際に路地の狭い幅員が問題視され、建て替えの際に、道路が拡幅されたり、高層マンションが建設されたりと路地空間は徐々に消滅している。以上を踏まえ本研究では、研究編において、1)月島の路地の成り立ち及び現在の利用実態を明らかにすること、2)集合住宅の「路地的空間」を対象にコミュニティを醸成させる工夫やそれを実現するための設計手法を明確にすることの2点を目的とする。さらに、研究編で得られた知見をもとに、設計編では月島三丁目を敷地として、既存の路地空間を継承しつつ将来に発展するための具体的な設計案を示す。

0-2.研究の方法と対象

研究編では月島地区の成り立ち、現状の問題点、路地空間の特徴と路地空間を計画地とした再開発計画事例の分析を行う。また、「路地的空間」を持つ集合住宅の事例に対して、設計者の意図、共有空間と専有空間の関係性、通路と建物のD/H比(D:路地的空間の幅員、H:沿道建物高さ)の関係、空間像に関する特徴をまとめ、設計手法および空間構成の分析を示す。

 

1.選定敷地の情報

1-1.東京都中央区について

中央区の人口は現在増加傾向にあり、区内に計画されている2020年の東京オリンピックの選手村が会期後に住宅に転用される予定で、今後も人口は増えていくと予想される。

 

1-2.月島地区の変遷

月島の町割りは横120m×縦60mの格子状の街路によって構成されている。6間(10.91m)と3間(5.45m)の通りに挟まれた街区内には幅員が1間(1.8m)から1間半(2.7m)の路地が5、6本配置されている。

1-3.月島地区の問題点

災害時の安全性、住人の高齢化、旧耐震制度時に建てられた木造住宅が未だ数多く存在していること等の問題が挙げられる。

1-4.月島地区の路地空間の特徴

2016年8月に月島三丁目の路地の目視調査を行い、各路地への生活物のあふれ出しをプロットした。幅員が狭く車が通るのが困難なため、主な移動手段は自転車である。そのため、路地に駐輪しているケースが多く見られた。各住戸を区切る塀は無く、代わりにプランターなどの植栽が大量に置かれ塀の役割を担い、路地が半私有地化していた。また、路地に向けて開口が大きく空けられていることによって、住民の存在が感じられる。以上より、月島の路地は住民にとって共有の庭のような空間であることが窺えた。

1-5.再開発の事例

路地空間を後世へ残そうとする試みを行っている(1)大阪の法善寺横丁と(2)京都の袋路再生事業の2事例を対象として分析を行った。路地の形式だけしか保存されずに、いわば元々あった路地空間のレプリカ品のような空間になってしまっている。

 

2.集合住宅における路地的空間

本研究では、集合住宅の廊下、敷地内通路、窓先空地である空間で、コミュニティを促進させている空間を「路地的空間」と定義付ける。分析対象となる事例は雑誌「新建築」に掲載された集合住宅の中から、「路地的空間」を持つ26事例とする。

図面と写真を収集し、図面の「路地的空間」に色付けをして、住戸空間との関係を明らかにしていく。その上で、集合住宅の「路地的空間」の位置付けとして、廊下型、敷地内通路型、コモンスペース型の3つに分けた。さらに、その中から廊下型を、「路地的空間」が住戸の間を立体的に広がっていく①立体路地型、②中廊下型、③片廊下型に、敷地内通路型を月島の路地の型式を抽出して④貫通路地型、⑤行き止まり型、⑥枝状路地型に、コモンスペース型を「路地的空間」に庭が付属している⑦中庭型と、計7つの小分類を設けて分析を行う。

今回取り上げた事例で意匠的および計画的に工夫している点を以下に挙げる。1)「KEYAKI GARDEN」や「田中西春菜町の集合住宅」などの、「路地的空間」に面している建物が平屋建の場合、路地的空間の幅員を壁の高さと同等かそれ以上確保することによって圧迫感を軽減し、ゆとりある空間にしている。2)D/H比が小さい路地的空間を持つ事例は、「成城タウンハウス」などの事例は、「路地的空間」に面している壁に大きな開口を空けたり、「spread」のように外装材に光沢のあるものを使用し、光の反射を起こすことによって実際よりも広く感じるような工夫をしていた。3)「青々荘」のように「路地的空間」に電柱を配置するなどの操作で一般的な道路と見立て、集合住宅でありながら1戸1戸が独立しているように感じさせている。

 

3.研究編のまとめ

3-1.研究編の総括

1.では月島地区の路地の成り立ちと現在の路地の特徴を明確にした。路地には出窓やベランダや階段が飛び出し、自転車などの生活物が溢れだし、塀の代わりに植栽を設けている。下町のアイデンティティであるそれらが失われると、地元コミュニティや愛着が無くなり、それに伴って防犯・防災意識が薄まってしまう危険性を帯びている。2.では「路地的空間」を持つ集合住宅の事例の分析を行うことによって、設計への足掛かりを明らかにした。近隣コミュニティが希薄化してきている現代において、「路地的空間」が持つコミュニティ醸成作用は重要である。

3-2.設計編の留意点

1)月島の路地の持つ空間の豊かさを集合住宅内に再現する。それにより、木密地域が無くなっても月島のアイデンティティは継承される。2)路地空間に生活物が溢れ出すことによって、住人の間に絶妙な距離感が生まれている。また、路地に対する開口の開き方、壁の高さなどが重要である。3)中央区は人口が増加傾向にある。様々な家族形態に対応できるような平面計画が必要である。

 

【設計編】

4.設計提案

4-1.対象敷地

東京都中央区月島三丁目29番地を敷地とする。敷地情報を以下に示す。

○敷地面積:653.7㎡

○建蔽率:80%(ただし防火地域指定により100%に緩和)

○容積率:464.7%

○最高高さ制限:13〜35m

○商業地域・第二種住居地域

(月島地区は地区計画により道路斜線制限と容積率制限が緩和される。)

敷地がある月島三丁目28〜30番地は、再開発事業の対象エリアに指定されており、組合が設立されようとしている。区役所へのヒアリングによると、ディベロッパーやゼネコンに依頼し、高層マンションを建設する可能性が高いとのことであった。近い将来に路地空間が失われることが予想されるこの敷地を対象とし、高層マンション案に対するオルタナティブを提案する。

4-2.既存住戸の調査

不動産登記を確認し、現在の土地と建物の所有者の関係を明らかにした。敷地にはオーナー住戸が14戸、賃貸住戸が3戸ある。既存の住戸は建て替えの際に専有面積が増えるように計画する。

4-3.プログラム

現在住んでいる人の住戸と新しい入居者のための賃貸住戸を計画する。オーナー住戸が14戸、賃貸住戸が20戸の計34戸の集合住宅を計画する。路地空間が賃貸住戸・既存住戸の両方に介入していく関係性を持つように配慮する。

4-4.配置計画

既存の路地の幅員は防災上の問題があるので、道路幅員4mまで壁面をセットバックする。研究編で述べた通り、月島の基本の街区構成は1街区内に複数の路地空間が配置されている。その部分を継承し、敷地内に複数の路地空間を付加させる。幅員は1.8m〜2.7mの間とする。

路地空間は均一な幅員とするのではなく、部分的に広い部分をつくる。これにより、溜まり場が各所に生まれる。

4-5.オーナー住戸の平面計画

月島地区の既存の住戸は1層ないし2層の長屋型が大半を占めている。本計画では路地空間に対して比較的オープンな形で、人を呼び込んで会話をすることができる空間(Semi-Private Space)を設ける。それによって住戸空間内に路地空間が、逆に路地空間に住戸空間があふれ出すことによって従来のコミュニティを持続させていく。また、寝室や水廻り空間(Private Space)は路地空間から離れた場所に設けることにより、必要なプライバシーを確保する。

4-6.賃貸住戸の平面計画

年々、中央区の人口は増加してきている。都心にアクセスが良いこの土地には働き盛りの年代が多く流入すると予想されている。従って、一人暮らしから家族暮らしまで様々な入居者に対応できるよう、専有面積が30㎡〜100㎡の様々な住居プランを取り入れ対応していく。

4-7.断面計画

低層部に現在のオーナーが住むための14戸を配置し、その上に賃貸住戸が積層する断面計画とする。賃貸住戸の住民が各住戸にアクセスする際には、必ず路地空間を通ることになるので、必然的にオーナー住戸の住民と視線を交わすことになる。同じ集合住宅内に住んでいる意識が強められ、一般的な集合住宅に多く見られる住民間のコミュニティの希薄化問題を防ぐことが出来るだろう。さらに、路地空間を断面的にも広げる。住戸間を蛇腹のように配置された路地空間は、ひとつづぎになっており、展開すると一本の長い路地空間になるように計画する。オーナー住戸の住民は、近隣の人を家に招き入れる場合がある。このため、玄関に付属して土間的空間を配置する一方、寝室などのプライベートスペースを上の階に設けることによってプライバシーを確保する。

4-8.構造計画

構造は鉄筋コンクリート造のラーメン構造である。開口の大きさや間仕切りの位置の自由度が高いため、多様なプランが計画できる。また、路地的空間に対して大きく開口が空けられるのも利点である。

4-9.「路地的空間」の計画

2種類の「路地的空間」を計画する。敷地の前面道路に対して平行方向に配置し、月島三丁目の路地の配置を写像した「路地的空間」は、月島の既存の路地のように等間隔に配置し、幅員を2.7mにすることで、建て替えの際に元の幅員を失った路地を演出している。それに対して直交方向に配置した「路地的空間」は、住戸への動線としての機能的なものである。

 

5.最終成果物

最終成果物

6.結

6-1.総括

本研究では東京都中央区月島地区の徐々に消滅の一途をたどっている路地空間の有能性に着目し、現在の路地空間を継承した集合住宅の提案を行った。研究編において、月島地区の変遷や現状を調査・分析を行うことによって、抱えている問題点を明確にすることができた。また、敷地内通路や住戸間の廊下などコミュニティを醸成する路地的空間として計画する設計手法を見出した。そして、設計編においては、研究編で得られた知見をもとに、中央区に新しく住む人達と元々住んでいる人達を繋ぐ空間として、立体的に広がっていく路地空間のモデルを提案した。

6-2.課題と展望

本研究では月島三丁目の一部分を敷地とし、既存の路地空間を継承した立体路地のモデルを提案した。この提案が月島にマクロに広がっていくことが出来ると予想される。しかし、月島以外の木密地域の路地空間も徐々に消滅しつつあり、本研究の成果が他地区にも転用可能かどうか検討する必要がある。それが、路地空間を継承した木密地域の建替え手法に対し、新たな可能性を示すことにつながるだろう。

 

 

 

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