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素材から見たアルヴァ・アアルト ~夏の家のレンガに着目して~

B4の布施です。春期の研究内容を発表させていただきます。

序章
0-1 研究の背景、目的
Alvar Aalto(1898-1976)はフィンランドのモダニズム建築家である。アアルトの作品では戦前は白スタッコ、1950年代はレンガ、1960年代以降は大理石が多く用いられている。 1953年に建てられた夏の家はレンガ時代の始まりの作品である。また、フィンランドではこの時期セメントや鋼材の資源に乏しかったためレンガを主体構造に用いなければならなかった背景もあるが、MITベーカーハウスの設計の際に工業化された均質なレンガではなくあえて手作業でレンガを焼く工場からレンガを仕入れていたという話からもアアルトが素材にこだわりを持っていたことがわかる。アアルトの夏の家からレンガに着目し、素材と建築の関係について分析、考察を深めたい。
研究目的は大きく二つに分けられる。
第1にアアルトの用いる素材から建築全体の設計意図を探ること。
第2にアアルトがどのような目的を持って実験していたのかを探ること。
これらを探りたい。

0-2 研究の位置づけ
アアルト夏の家のレンガのパッチワークはその当時手に入れられる材料の耐久性や壁面効果をテストしていた。また、夏の家に限らず住宅作品を実験の場にしていたということが「Alvar Aalto Houses -Timeless Expressions アルヴァ・アアルトの住宅-その永遠なるもの」で述べられている。
「アルヴァ・アアルト エッセイとスケッチ」によると夏の家の実験において
第1段階の実験では
1.     レンガ・磁器タイルの壁面効果の実験
2.     レンガ・磁器タイルの耐久性の実験
3.     違う構造の壁面の実験
4.     屋根構造の実験
この4つの実験が、
第2段階の実験では
1.     基礎の無い建物の実験
2.     自由な柱の位置の実験
3.     自由な形態を持つレンガ構造の実験
壁の形態を自由な曲線で作り出せる単一のレンガの型を見つけ出すこと。つまり、時代の要求にそった組み合わせ可能な規格品のレンガを得る試み。
4.     太陽熱暖房の実験
この4つの実験を行っていたと述べられている。

本論では
1. レンガ・磁器タイルの壁面効果の実験
2. 自由な形態を持つレンガ構造の実験
壁の形態を自由な曲線で作り出せる単一のレンガの型を見つけ出すこと。つまり、時代の要求にそった組み合わせ可能な規格品のレンガを得る試み。
これら2つの実験が行われていたのか、記述にはない実験がなされていたのではないかということについて探る。

研究の調査対象・方法としては夏の家の中庭で実験されているタイルやレンガを写真を元に図面に書き起こし、それぞれのレンガを分析し、実際の作品にどのように用いられているのかをリンクさせ、考察する。

第1章
1-1 レンガの寸法について
フィンランドでは270 x 130 x 75 mmのレンガが標準とされている。厚さを1とした時の各辺の比は3.6:1.73:1となる。

1-2 レンガの積み方、タイルの貼り方について

基本的なレンガの積み方の名称、夏の家で使用されているタイルの貼り方の名称は以下の図の通りである。レンガの積み方で用いられることは少ないが、夏の家ではレンガも通し目地で積まれているものがある。

レンガ 積み方名称

 

第2章
2-1 夏の家について

始めにアアルトの夏の家について説明したい。
フィンランド、ユヴァスキュラのムーラツァロ島に建つ。森の中にそびえたっており、現在は島から入ることもできるが当時は湖からアプローチするよう考えられていた。アアルトはボートでこの別荘を行き来していたと言われている。中庭の中央にはファイアープレイスがあり、それを囲むように壁立っている。中庭は正方形の形をしており、壁に開口部がある面が南面となっている。
この夏の家は別名ムーラツァロの実験住宅、コエ・タロとも呼ばれている。コエ・タロはフィンランド語で実験住宅の意である。別名からもわかるようにこの夏の家では様々な実験を行っていた。(0-2参照)

中庭に面する壁に見られるレンガのパターンは50種類のパネルにわけられていると言われるが(アルヴァ・アアルト エッセイとスケッチ」より)、写真を元に立面図を作成し、レンガの特徴を厳密に見ていくと50以上あるとも考えられる。
本論では写真から得られる情報のみでの分析になる。また、それぞれのパネルで使用されているレンガが違うと思われるが、個々のレンガについての情報はほとんど得られなかった。したがって写真から明らかにわかるレンガ自体の違い、積み方の違いによってパネルを分け、50のパネルによってこのパッチワークが形成されているとした。便宜のためパネルに番号を付けた。

アアルト夏の家 中庭展開図

2-2 夏の家のレンガ・磁器タイルのパッチワークについて

レンガに関しては
・積み方
・目地とレンガの関係(目地とレンガ面がそろっている、目地が少し奥まっている、目地が奥まっている、目地がかなり奥まっている)
・目地間隔、縦横それぞれ(大、中、小)
・色(濃、中、淡)
・縦横比(大、中、小)(中は標準的なレンガに近い)
・その他の情報
で評価

磁器タイルに関しては
・貼り方
・形状
・目地間隔、縦横それぞれ(大、中、小)
・色
・その他の情報
で評価

これらをそれぞれのパネルで評価し、比較した。

第3章
3-1 結論

夏の家の中庭での実験では
1. レンガ・磁器タイルの壁面効果の実験
2. 自由な形態を持つレンガ構造の実験
壁の形態を自由な曲線で作り出せる単一のレンガの型を見つけ出すこと。つまり、時代の要求にそった組み合わせ可能な規格品のレンガを得る試み。
これら二つの実験が行われていることが確認できた。

1. レンガ・磁器タイルの壁面効果の実験では
・異なる形状のレンガの壁面効果の実験
・異なる色合いのレンガの壁面効果の実験
・目地間隔の差による壁面効果の実験
・従来使用されてこなかった方法によるレンガの壁面効果の実験
・既製品のレンガを用いた新たな曲線表現の実験
・目地の奥まりによるレンガの立体感の表現の実験
・異なる形状の磁器タイルの壁面効果の実験
・異なる色合いの磁器タイルの壁面効果の実験
・レンガの代わりとなる磁器タイルの実験
これらが行われていたことがわかった。

2. 自由な形態を持つレンガ構造の実験ではNo.2のパネルのみがこれに当てはまる。

3-2     今後の展望

本論では写真から夏の家を分析した。
今後は夏の家やレンガが使われている他のアアルトの作品を実測し、正確な数値で評価することでアアルトのレンガによる設計の狙いが導きだされるのではないかと考えられる。
また、アアルトの使用している他の素材に関しても興味深い。
レンガだけでなく木や大理石などアアルトの用いた特徴的な素材についても研究したい。

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