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漁業集落の都市化に伴う道庭の変容と継承-千葉県浦安市猫実・堀江地区を対象として- 

B4の塚本です。春学期に行った研究について掲載させていただきます。

序論
0-1 背景と目的

 現代における公共空間の私的利用、私有地の共用は生活空間を住民が能動的に創り出す上で重要視されている。また、このような生活空間を共用する様子は、その地域の特徴が現れる要素である。一方で防災の観点や法的な規制、コミュニティの減少により生活空間の共用は見られなくなってきている。そこで、1970年以降に漁業集落から郊外住宅地へと変化した千葉県浦安市元町(堀江・猫実)地区にて生活空間の共用が見られる道庭という空間に注目し、集落形成における生活空間の共用の変遷と現在へ継承できる可能性を考察する。

図1 漁業集落時の浦安
図2 現在の浦安

0-2 研究の位置づけ
千葉県浦安市元町(堀江・猫実)地区の道庭については、岡田ら(1974,2006)が1971年と1985年の道庭の空間構成について変容過程を示し、佐々木ら(1984)が当時の道庭の機能や分布、それに伴う住空間の変化を分析している。また、窪田ら(2015)が浦安市元町地区をエリア分けし、路地空間についてアクティビティによる分類を行っている。一方で、1985年以降の道庭について研究を行っているものや、漁業集落時から2021年までの道庭の空間的変遷を市の区画整理事業などの歴史と照らし合わせ、所有の変化とともに分析したものはない。以上を位置づけとし研究を行う。

0-3 研究方法
文献調査として、既往研究や住宅地図、紙公図、浦安の歴史に関する書籍をもとに漁業集落時の道庭の分布や様相を整理する。加えて現地調査として対象地域にてフィールドワークや1960年代から浦安に住んでいる方へのヒアリングを行い、現在の道庭の分布や様相を整理する。

0-4 道庭の定義
本研究にて、道庭という用語は、岡田ら(1974)と佐々木ら(1984)が各論文の中で述べている定義を引用することとする。岡田ら(1974)は道庭を「住居相互の間にある道とも庭ともつかない特殊な外部空間」と述べ、佐々木ら(1984)は、「私有地のみで構成され、車さえ侵入できない土地所有形態のうち、アクセス路の性格に加え作業場や干し場という私的な庭の性格を備えるもの」と述べている。両者の道庭の定義をもとに、本研究では道庭を「公的な道の性格と私的な庭の性格を備え、かつ私有地である外部空間」と定義する。

第1章
1-1 対象地の概要

 本研究の対象地である千葉県浦安市元町(堀江・猫実)地区は、1713年からノリやアサリも養殖する漁業集落として発展した場所である。(図1)昭和30年代から漁場汚染や護岸整備開発により1962年7月には漁業権の一部を放棄、1971年7月には全面放棄を行いその後郊外住宅地へと変化した。1978年には、過密都市買収事業により、未接道により建て替えのできない土地を私有地化し、狭あい道路拡幅事業により新築建て替え時の後退が促進された。さらに2014年には堀江・猫実B地区土地区画整理事業が行われ地区を縦に貫く新中通が開通した。
この地域では、漁業集落コミュニティの形成とともに所有関係を越えた公共空間、私有地の共用が見られ、道庭として現代も空間が残っている。

1-2 漁業集落時の道庭の機能
岡田ら(1974)は漁業集落時の道庭の機能を次の5つに分類している。
①居住環境維持スペース(通風・採光)
②戸別的生活を処理する場(洗濯・物干し・共同の井戸・便所)
③道として(通過交通の多い道は別に独立)
④漁業のための場所(のり干・貝むき・かご作り)
⑤近隣生活の場として(子供の遊び場、主婦の交歓の場、漁業関係の情報共有の場)

第2章
2-1 道庭の変遷(1969年〜2020年)
 
 道庭の分布について記述のある資料を参考に、漁業権が全面放棄される前の1969年から2020年においての道庭の変遷を各年代の住宅地図に加筆する形で分析を行った。(図4)
漁業集落時(1969年)に境川沿いにあった道庭は2014年の堀江・猫実B地区土地区画整理事業をきっかけに空間として見られなくなった。一方で、北側にエリアでは2014年以降に市道になった道庭はあるものの、場所として漁業集落時のまま残るものが多く存在する。

図3 対象地域

2-2道庭の分類
1969年〜2020年の道庭分布の変遷をもとに、道庭を所有の変化から3種類に分類する。
かつて存在していた道庭から
1非道路としてそのまま残るもの
2市道になったもの
3住宅となり消滅したもの
の3分類である。(図6の数字と対応)

図6 道庭の分類(2020年住宅地図に筆者加筆)

第3章 現在の道庭の機能

道庭の変遷と分類を行い、現在も残る道庭4つをピックアップした。その道庭を調査し、現在の道庭の機能を整理する。(図7)
①居住環境維持スペース(通風・採光)
②私的な庭の共有(洗面、物干し竿、ベンチ、植栽、自転車などを置く場所。)
③住宅にアクセスするための道
④近隣住民のコミュニティスペース

結章 結論と展望
 コミュニティ形成の影響から所有によって現在に継承されている道庭の使われ方は大きく異なる。道庭があった形跡は多くあるものの、実際に機能として残る道庭は少ない。それは、漁業のコミュニティがなくなったこと、区画整理による住宅の解体、路地に面している住宅が空き家になってしまっているなど様々な要因が考えられる。しかし、場所も機能も残っている道庭も一定数あり、そこでは現在も頻繁にコミュケーションが行われ、つながりをつくる空間として生き続けている。そこは機能が失われてしまった道庭とは異なる空間形態や歴史の変遷がある。これは、過去から現在も残り続ける道庭における住人のニーズであり、今後も都市空間に必要なスペースである。今後は実際に道庭を利用する街の人々にヒアリングを行うなどして現在により必要とされる道庭の提案を行う。

参考文献
1) 浦安市市史編さん委員会:浦安市史 まちづくり編 2) 岡田威海・横掘肇他「固有な媒介空間の考察、環境サーヴェイ西陣・浦安」(建築1971年11月号)) 3) 岡田威海(1974)「漁業集落の外部空間について(千葉浦安の道庭):住居群の集合形態に関する研究・2」日本建築学会大会学術講演梗概集・計画系
4) 岡田威海(1987) 道と庭―住環境の屋外空間
5) 佐々木知子ら(1984)浦安における住居集合の変化過程に関する考察(既成住宅地の集合性に関する研究その2)
6) 岡田威海 環境の構造に関する基礎的研究 – 日本民家集落の場合の考察 東京大学博士論文 . 2006
7) 窪田亜矢(2015) 漁村から住宅地に変容しつつある浦安において継承すべき住文化
8) 安藤理紗 福島秀哉 (2018) 現代公共空間の私的利用にみる生活空間の共用に関する地域特性の継承

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