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鎌倉峯山エリアにおける小規模林業の可能性とその検討―森林資源を生かした地産地消建築の創造に向けて―

B4の五島です。2023年春学期に取り組んだ研究内容について報告いたします。

1. 研究の概要

1-1. 研究の背景

鎌倉は豊かな自然や都会へのアクセスの良さなどから住宅地としての人気が高く、昭和35年頃から行われた宅地造成によって多くの緑が失われた。風致・歴史・植物学などの視点から見ても価値のある鎌倉の緑を守ろうとたくさんの人が反対運動を起こし、古都保存法など様々な法律や条例が定められて現在まで多くの緑が守られてきた。しかしその緑は現在手つかずの状態で荒廃し、倒木や土砂崩れなどのリスクが高くなっている。森は適度に人の手が加わり循環することで健全な状態を維持することができる。林業の持続可能な在り方を考え、日本に存在する貴重な資源である木材を有効に使い森林を循環させる必要がある。日本はかつて里山を多様に活用しながら共存してきたがその文化は薄れ、多くの人が里山と切り離された生活を送っている。かつて里山と共存していたころの知恵や技術を参考にして、現在における里山との共存の在り方を考える必要がある。

1961年~1969年              2019年

1-2. 研究の目的

本研究の目的は、鎌倉の森林の現状から必要な手入れとそれによって得られる材料を調査し、その供給に合わせた材料の利用を行うことで森林の循環を促し、森林の保全を促すことである。オーストリアなどの林業先進国の林業やまち・住民との関係などの仕組みを参考に、鎌倉における小規模林業や都市林のありかたを考える。また、日本には多種多様な植物が育ち、それぞれ特徴にあわせて多種多様な使われ方をしてきた。材料の特性やかつてどのように使われてきたのかなどから、材料の特性を生かした用途を、現在の技術なども踏まえて幅広く考える。かつてのように、自然の恵みを受け取りながら共存することを現在の生活や技術をふまえて考え、提案する。

1-3. 研究の位置づけ

鎌倉は歴史あるまちであり、まちづくりや緑地保全など様々な条例が定められており、まちづくりや歴史に関する研究も多くされている。『歴史まちづくり法に基づいた事業計画の実態と課題』では市街地形成に関わる緑地を重点区域の対象とすることで保護することを検討している。しかしこれは自然の保護に関するものであり保全ではない。また、いくつかのボランティア団体が緑地の保全活動を行っているが、鎌倉に多く存在する緑地のほんの一部しか出来ていない状況である。本研究では自然に適度に手を加え保全する仕組みを建築の材料の観点から考える。

1-4. 研究の方法

鎌倉で緑地保全活動を行っているボランティア団体「鎌倉みどりのレンジャー」や「鎌倉峯山の会」の活動、様々な保存計画などを定めている「みどり公園課」などが載せている資料や、実際に訪れることで調査する。具体的には植生、生えている木の種類や大きさやその量、まちや住人と森林との接し方などを調査する。

2. 事例調査

2-1. オーストリアの林業

林業先進国であるオーストリアにおける以下の3つの事例を調査した。オーストリアは私有林の約半数が5ha未満の小規模所有者であり、斜面が多いなど日本と類似した条件を持つが、日本に比べて技術や形態がはるかに進歩しており、持続可能な林業が行われている。パソコンによる情報の管理や高性能の機械による効率化だけでなく、地域材の付加価値化や木材のカスケード利用など様々な工夫が行われている。また、積極的な森林教育や林業と環境教育やハイキングのインフラが共存しているなど、住民と森林の距離が近い。

(1) Zirbenshop & Sägewerk-Josef Reinstadler                                          

センブラマツを専門に挽く製材工場。樹皮や枝、カンナ屑などから抽出したアロマオイルの販売など木材のカスケード利用を行うほか、自家用水力発電も行っている。

(2) カウナグラート自然公園 

自然保護と地域復興をテーマに林業、ハイキング、環境教育、研究など様々な活動が共存している。

(3) ナラの森づくり シューバッハ森林区

光の差し込み、下層植物の繁殖などを考慮した手入れによってナラの天然更新を行う。

2-2. 国内の林業

日本においても先進的な取り組みが行われている地域はある。オーストリアへ視察に行き、日本へ取り入れたものなどもある。以下の2つの事例から、オーストリアで行われている林業には、気候や補助制度など様々な条件が異なる日本においても取り入れることが可能な方法や仕組みが多くあることが分かった。

(1)高知県梼原町

町内には隈研吾が設計し、梼原町産の木材を用いた木造の公共建築物がいくつかある。ブランドではない梼原町の木材だが、FSC認定を受けることでによって売るための競争力を得た。木質ペレットや水力発電、風力発電によりエネルギー自給率100%超を目指している。

(2)岡山県真庭市

国内でいち早くペレットによる発電やCLTの製造を行うなど、オーストリアなどの先進事例を多く取り入れている。ペレットストーブによって、化石燃料の価格変動に左右されない農作物の生産を行う。

2-3. 都市林業

森林が少ない都市部においても、小さな森林や街路樹や庭木など、都市ならではの資源がある。また、都市部の森林は市民の休養の地としての役割など、様々な役割を求められる。現在の都市ならではの新たな林業や、人々の生活に近い都市の森林における森林の在り方などの事例として以下の3つを挙げる。

(1)都市森林プロジェクト

街路樹や庭木などの都市にある樹木はほとんどが木材チップになっている。材の性質からこれらの活用ノウハウを生み出し、木材として活用し街の暮らしの中へ戻す取り組み。小規模林業の可能性を示している。

(2)苫小牧研究林

日本の気候や自然の再生力を考慮した施業、研究が行われるとともに、都市部に隣接することから地域住民の休養地としての役割も果たす。エリア分けを行い、それぞれが目指す森林の姿からそのために必要な手入れを行い、多様な森林を形成している。

(3)アーバン・シード・バンクプロジェクト

里山に眠っている種を育て、都市の緑化に使うことで日本の在来植物を都市部で保護・保全し、苗木代で里山の保全活動を行う。薪を使っていた時代とは異なる、現在ならではの里山との関わり方を考える必要がある。

3. 峯山について

3-1. 峯山とは

鎌倉にある常盤山の1つで、標高98m、手ごろにハイキングを楽しめる山である。300本を超えるヤマザクラが生え、北側に野村総合研究所跡、南側に北条氏常盤亭跡がある。

3-2. 峯山での活動

峯山では現在、「鎌倉みどりのレンジャー」や「鎌倉峯山の会」などのボランティア団体が竹林整備などの保全活動を行っている。竹を伐り、日当たりをよくすることで多様な生態系を取り戻そうと努めている。

3-3. 峯山の現状

峯山が抱える問題や特徴を、実際に山を歩き見てきた。整備された場所と荒廃した場所が混在しており、人の手が加わることの必要性を強く感じた。

3-4. 峯山の植生

峯山での保全活動への参加や現地調査を行い、7つのエリアに分けてエリアごとに植生や特徴をまとめた。

4. 鎌倉における小規模林業

4-1. 得られる材の特性と用途

3-4峯山の植生でまとめた植物について、特徴や材料特性、用途などをまとめた。

4-2. 小規模林業

2-3でまとめた材料をこの地域で使うことでこの地域に利益が還元されることを考える。里山としての峯山、林業が行う択伐、製材や建築、これらがつながることで得られる供給が無駄なく活用され、この場所に利益が還元されることを考える。小規模林業では木材のカスケード利用や材の付加価値化が重要である。

5. 結章

5-1. 結論

本研究では、林業が儲からないために衰退し豊富な森林資源が生かされないだけでなく土砂災害などの脅威になっていること、その原因からこの時代、この土地ならではの林業の形を提案する。林業だけでなく、休養の地、商売など様々な用途がまざりあう林業を提案する。

5-2. 今後の展望 4-1得られる材の特性と用途をもとに、それらの材を使って建築物を建てる、つまり供給に合わせた需要をつくることで持続可能な林業を促し、適度な循環により健全な森林になるだろう。様々な用途がまざりあうことで生活の一部としてその恵みを受け取りながら共存していく里山になり、それによってさらに循環が促される。資源に乏しい日本というが恵まれた土壌と気候により森林資源は豊富にある。日本全国の森林資源を適切に使うことができれば尽きることのない豊富な資源により木材自給率だけでなくエネルギー自給率の向上にもつながるのではないだろうか。

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