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フィンランドにおける伝統的都市木造建築の予備的研究

B4の児玉です。春学期に取り組んだ研究内容について報告いたします。

0.序章

0-1研究の背景・位置づけ

 フィンランドは日本と同様に国土の大半を森林におおわれており、住宅には伝統的に木が用いられている国であり、18・19世紀の建築物、特に住宅の用途として用いられたものがその街並みを残している都市が多く存在する。

 具体的に伝統的木造建築群を持つ都市としては、Pikisaari Raahe Neristan Naantali Pietarsaari Kristiinakaupunki Rauma Uusikaupunki Naantali Turku Ekenas Porvoo Loviisa Hamina が主に挙げられ、このうちRaumaは世界遺産に登録されている市街である。

 このフィンランドの伝統的木造住宅建築に関する国内の調査・研究としては、長谷川清之氏による「フィンランドの木造民家 」(井上書院)にまとめられているが、これは主に農村部の伝統的民家建築に焦点を当てたものである、農村部と都市部両者の建築を比較すると、主要な構造の原理や直列的な平面プランといった点では共通点も見られるが、農村部では散村・分棟配置がみられることに対し、都市部ではより密集した配置や一棟での完結、外装材の色彩の違いといった差異があり、都市部における伝統的木造住宅建築に関する研究は十分ではないといえる。

0-2研究の目的

 フィンランドの伝統的都市木造住宅群に着目し次年度の現地調査に向けた予備調査を主な目的とする。取り上げる12都市についての基本的な情報、範囲や成立年代等を基本的な情報を取得する。

 得られた情報からフィンランドの伝統的都市木造住宅群の成り立ちやその傾向について比較分析をする。

0-3研究の対象

 先に述べた研究の背景から、本研究ではフィンランドという国に注目して調査を行う。その主な理由としてはフィンランドがその多くの都市に伝統的な木造住宅建築の街並みが残る地区を持つことが挙げられる。それぞれ独自の街路や平面・エンパイア様式の外装パネル・その保存方法などの特徴がある。

 この木造住宅建築は住宅として用いられるだけではなく、ショップやホテル・レストラン・博物館など様々な用途転用によっても維持・利用がなされていることや、周囲の地区との関係性の面などでも特徴を持っている。

0-4研究の方法

  文献調査によって数多くあるフィンランドの都市木造建築群についての詳細な調査を行う、具体的にはその範囲、街路計画、ヴォリュームの配置計画、平面プランの特徴、構法、転用用途とその手法、農村の木造民家との比較、を図面や海外の研究等の収集によっておこなう。

1対象都市の文献調査

2伝統的木造都市の歴史的背景

2-1大火による焼失

 フィンランド・ノルウェー・スウェーデンでは歴史的に木造の街で発生する火災に見舞われている。この小論文で取り上げている12の都市のいずれにおいても大火によって街の大半を失う過去を持つ。

大火の原因

 木造都市で歴史的に大火が起こった原因として挙げられる要因は主に2つ挙げられる。

1つ目は建築物の密度である。伝統的な木造都市では、副次的建築物も含めて、高密度な都市が形成される。また副次的建築には牧草やタールなど可燃物が保管されている場合が多い。これらのことが延焼のしやすさの一因となっていると考えられる。

2つ目は屋根の素材だ、木造建築では伝統的に板葺きや茅葺・芝の屋根が一般的であった、板葺きの屋根を禁止する政策も取られたがあまり普及しなかった。

大火の減少

 1800年代から1900年代にかけて大火の発生件数は減少傾向となった、その要因として都市計画と屋根材の変化が挙げられる。  都市計画では道路の幅を広げ、区画を拡大することで密度を下げ、緑によって街を分割することで火災の抑制

を行った。これに伴って多くの都市でグリッド状のプランが導入されることとなった、グリットプランや敷地の拡大が導入されず中世の街路パターンを残している木造都市はPorvoo Rauma Naantaliのみである。木造の2階建て建築も防火の観点から多くの都市で禁止された。

2-2戦争の影響

 フィンランドは国体の激しい変化を持つ国家であり多くの戦争を経験している。

 主な戦場はフィンランドとロシアの国境付近であるカレリア地方である。その他にもフィンランド内線ではヘルシンキとタンペレ、でラップランド戦争ではラップランド地方が戦場となり被害が発生している。

3フィンランド伝統的木造都市の比較・分析

3-1街路形態とその成立時期による比較

 フィンランド伝統的木造都市の街路パターンは、グリッド状のものとそれ以外とで大別することができる。

 グリッド状街区は1600年代後半ごろから、防火政策を主な要因として計画されていった、グリッド状により広い大通りを確保し、1街区の大きさを拡大することで火災の拡大を防ごうとした。

 その他のパターンとされている街区は、前述の動き以前の中世の都市の形態を残しているものであるRauma Porvoo Ekenas Naantaliと、ルネサンスの理想的な都市モデルに基づく放射状街区を持つHaminaの2つである。中世の都市の形態を残している都市では曲がりくねった街路や細い路地などが残されているという特徴がある。しかし、グリッド状街区に変更されなかった都市においても大通りの拡幅などの防火対策のための街路改造が部分的に行われている場合が多い。

グリッドパターンと中世の形態を残す街路パターンの例 Raahe(左)とRauma(右)

2-2現存建築の建設年代による比較

 ほぼすべての伝統的住宅建築は18世紀から19世紀の間に建てられたものである、この年代の建築が多く残されている理由として、定期的に大火に見舞われ燃え落ちてしまっていた建築が、都市計画の再編や屋根材が金属板などの燃えにくい材料に変化していったことによって、火災による被害がこの時代に減少したということが考えられる。

2-3地形(立地・高低差)による比較

 対象とした都市の立地の特徴としては、沿岸部にその都市が多くみられることが挙げられるいずれの都市も海岸からおおむね2km以内に位置しており、水運業によって栄えた都市が多く残っている傾向があるのではないか。

 フィンランドは非常に古く安定し氷河の影響を受けた土地に位置しているため、最高地点は1328mと大半が平坦な地域であり、都市も平坦な場所に置かれていることが多い。その中で起伏の比較的大きい地域ではグリッド状街区が設定されにくい傾向がみられる。

3-4 都市の繁栄に寄与した産業

 ~19世紀頃に主要な産業となりその都市の発展に寄与した産業をまとめると上の表のようになる。NaantaliとHaminaを除けばいずれも貿易や海運業にかかわる産業を主として発展している都市であることがわかる。しかし現在ではいずれの都市においても造船や海運業は衰退・消滅している傾向にある。

Nanntaliは修道院と教会を中心に都市が発生し、巡礼やそこから発展した観光業によって発展した。Haminaは要塞を主目的として都市計画が策定され、駐屯地や兵舎などが立ち並んだ。

3-5配置計画と平面構成による比較

 今回対象とした都市には、1区画が建物とそれに囲われて閉じた中庭を持つ構成の都市、とそれを持たない都市、の二通りがみられた。また区画のコーナー部分にはL字型またはそれが変形した形の平面の建築が多くみられる都市とそれらがまったくみられない都市が存在する。

中庭を持たない都市(Loviisa)と中庭を持つ都市(Pietarsaari)
L字型平面の建築を持つ都市Rauma

4まとめと展望

今後への展望

1,現在Googleなどの翻訳システムを用いて論文の読み込みを進めたが、建築の専門用語など正しい訳語を調査し、フィンランド語論文の正しい訳文を理解する必要がある。

2,調査の中でみられたルネサンス都市計画や古典主義建築、グスタヴィア様式、ネオルネサンス様式などのさまざまな建築様式や思想についての知見を深める。

3,今後の実地調査においては、文献調査において多くの情報を得ることのできなかった建築の細部における特徴や差異、そして伝統的建築のリノベーションなどによる転用の手法について分析する必要があると感じた

参考文献

1)木のヨーロッパ 太田邦夫 著 彰国社

2)フィンランドの木造民家 長谷川清之 著 井上書院

3)フィンランド国土地理院マップビューアーhttps://kartta.paikkatietoikkuna.fi/?lang=en

4)フィンランド博物館庁(Museovirasto)による重要建築文化環境目録 rky.fi

5)ELISA EL HAROUNY:HISTORIALLINEN PUUKAUPUNKI SUOJELUKOHTEENA JA ELINYMPÄRISTÖNÄ Esimerkkeinä Vanha Porvoo ja Vanha Raahe 2008.

6)Aino Hirvilammi:Piharakennuksen suunnittelu Kokkolan kulttuurihistorialliseen ympäristöön 2022.

7)Samuli Paitsola:Täydennys- ja laajennusrakentaminen suomalaisissa puukaupungeissa 2014.

8)Liisukka Oksa:Puukaupunki rakennussuojelun näkökulmasta 2016.

9)M. Caruso L.García-Soriano:OLD RAUMA (FINLAND): LIVING AND RESEARCHING VERNACULAR ARCHITECTURE 2020.

10)Seija Malmsten:Tonttijaon laatimisen erityispiirteitä suo-jellussa rakennusympäristössä – case Naantali 2021.

11)Hanna Räsänen:LUKIOKATU 6-8 – RAKENNUSHISTORIASELVITYS EMPIRE-PORVOOSSA 2009.

12)Risto Suikkari:Wooden Town Tradition and Town Fires in Finland

13)UNESCO World Heritage Centre  Old Rauma:https://whc.unesco.org/en/list/582/

14)Google Map   Rauma

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