序論
0-1研究の目的と背景
「川底下村」は北京市西部から約90kmに位置する伝統的集落である。南西側に傾斜した地形に沿って、ひな壇上に四合院の住戸群が約76戸あまり配置されている。「川底下村」は、宿場、防衛拠点として栄えていたが、近代化の折に主要な交通網から外れてしまったために、現在も当時の建物の姿が残っている。村は歴史文化名村として保護され、住民は生活を営んでいる。集落は「地形」「水」「建物」「道」の要素で構成されており、それぞれの構成要素と時代ごとの社会的背景が影響しあいながら集落が形成されている。これらの構成要素の中でも特に「地形」に強い影響を受けながら集落が形成されたと考えられる。そこで、本研究では集落の「地形」に着目し、「川底下村」の空間構成を明らかにすることを本研究の目的とする。
0-2本研究位置づけ
北京川底下村に関する選考研究としては「北京川底下村–レベル差が生む集合形態と空間特製の研究」でなされている。地形と集落の空間構成の詳細な分析はされていない。また、「北京古山村川底下」では、細かい実測調査のデータが記載されている。本研究では、大いに参考にするところだが、データは10年以上前に出されたものなので、実測しなおす必要がある。四合院の研究、山間部集落の研究を大いに参考にする。
0-3研究方法
本研究では①文献・資料収集②現地調査、③調査のまとめ分析、の三段階で進める。①文献・資料収集:四合院住居の文献調査、「北京古山村川底下」など参考にする。②実測調査:現地調査では、実測調査、住民へのインタビュー、動画・写真の撮影を行う③調査のまとめ分析:調査で得た結果をデータ化し、分析を行い、地形と集落の空間構成の関係を明らかにする。
第一章 集落の構成要素
1-1 集落の構成要素について
川底下村の構成要素「地形」「水」「ネットワーク」「建物」の四つに分類し、集落の空間構成について考察を行う。それぞれの要素は、図1のような関係性で、お互いに影響をしあい集落全体を構成している。次章より本研究での着目点である「地形」と他の各要素の関係性について考察し、地形の集落の空間構成に対する影響を明らかにする。本章では、各要素の特徴、傾向について述べる。また、これらの要素のほかに宗教、風水、時代ごとの社会的な背景も集落の空間構成を決定していく要因であるので、それに留意しながら考察を行う。
1-2 「地形」
川底下村は、山の傾斜地に位置している。そのため、地形は集落の空間構成を決定する大きな要因である。地形は、石垣を利用し造成され建築物を建てられる環境を作っている。
1-3 「水」
川底下村の左右には数か所の水の湧き出る穴を有する山脈がある。泉の水は村の溝をゆっくり流れる。水路の前に半月形の地段を開拓し、栽培に利用します。半月形の耕地の東、南西の側に、それぞれ井戸を設けている。また、排水システムが道や建築物クラスターを決定づけている。
1-4 「ネットワーク」
集落には、大小さ様々な道でネットワークが形成されている。街路の作られ方は時代ごとに異なり、明時代、街路が斜面に対して水平に伸びている。また異民族の侵攻から、隣り合う住戸間で避難、情報伝達用の経路が形成されている。清の時代になると、防衛的観点よりも、商業的利便性が優先されて街が形成され、街路は斜面に対して垂直に伸びる。
1-5 「建物」
住戸は基本的に四合院の形式をもつ。建物の平面形式に関しては、第五章で詳しい分析を行う。プログラムは、住宅、飲食店、お土産屋、ホテルなどがある。また、集落には、大関廟と、娘娘廟などの宗教施設がある。
1-6 その他の空間構成の決定要因
村の位置は風水上良いとされる位置である。また風水の傾向から集落の全体構成が決定づけられている。形成された時代ごとに街路・建物の配置の仕方が違う。明の時代のエリアは異民族からの防衛的観点で都市が形成されている。清の時代のエリアは、商業的な観点で形成される。
第二章 斜面地での敷地造成
2-1 敷地造成
川底下村では、山の形式に合わせて石垣を利用し平地を造成して住環境を作り出している。敷地造成により作り出された地形は集落の空間構成を大きく決定づけている。本項目では作り出された地形を示し、高低差や、それにより生じたクラスターを明らかにし、その構成の考察を行う。
2-2 石垣
敷地造成は石垣を用いて行われている。また石垣は洪水対策として用いられるなど、集落の空間構成に大きな関係性を持つ。本項では、石垣の分布、石垣の年代や特徴、石垣の所有区分などを示し、石垣がどのように集落の空間構成を決定づけているかを明らかにする。
第三章 地形を利用した水利用(仮)
3-1 地形を利用した給排水利用
給排水の運送には地形の傾斜を利用している。排水のラインと路地に一致する部分が見られ、路地の形式の強い決定要因であると考えられる。水集落の空間構成への影響は地形のほかの要素への影響であると言える。川底下村の排水組織は、洪水を防ぐシステムと動線と強い関係性を持ち七条の排水ラインを形成する。川底下村の排水組織は屋外と屋内でそれぞれ、排水のための工夫が見られる。また、井戸に関しては耕地の東側と南西側の二つあるが、他に給水方法や、それによる空間構成の影響を現地にてインタビューを行い明らかにする。
3-2 排水経路とネットワークの関係
川底下村の排水システムは、前項で述べたように街路の動線システムと防洪システムに強い関係をもち、七条排水ラインを形成する。本項では排水ラインと集落内の動線との関係を示す。
3-3 排水経路によるクラスターと住戸形態
七条の排水ラインに対し、12個の排水区分が存在している。6区と12区以外はほぼ同面積である。排水区分により建築物のクラスターわけがされている。この項目では、クラスターごとに建築的な特徴の差がないかを検討する。また、その特徴と、地形的な特性との関係の考察を行う。また、面積、クラスターの形態の特徴を考察し、地形の関係を検討する。
第四章 ネットワークの形態と高低差処理
4-1 街路の高低差処理
街路は傾斜や敷地造成によって高低差が生まれている各建物を結びつけている。街路中のスロープ階段の位置、段差、傾斜、傾斜方向に対する道の角度を調査し、年代を考慮しながら高低差の処理の仕方について考察を行う。
4-2 アプローチ空間の高低差処理
アプローチ空間の段差と接道方法の類型と分布図を作成し他の要素と比較を行いながら、考察を行う。
第五章 地形と住戸形態の関係性
5-1 平面形態の分布と地形的特性の関係性
住戸は基本的に四合院の形式をもつ。平面タイプ分類、組み合わせ方分類、中庭の数分類,平面の類型の分類を行いその分布図を制作する。分布図と地形との関連性説明する。
5-2 特異な平面形態を持つ住戸
川底下村には複雑な地形に立つために一般的な四合院から歪められた平面形式をもつ住戸が散見される。特異な平面を持つ住居の分布を示し、特異な平面が形成される位置の地形的特徴・傾向を明らかにする。また、特異な平面型をもつ住戸を個別にどのように平面が崩れたか、分析をする。
5-3 住戸敷地内高低差処理
敷地内に高低差があり、それをつなげるために階段が作られている。本項では敷地内の段差について実測調査を行い傾向、法則などを考察する。
5-4 各住棟の高低差処理
各住棟の正面には階段がある。その階段は一般的な四合院では、奇数段存在しているが、川底下村には偶数段であったり左右非対称であったりする。ここで見られる不規則性は、複雑な地形の上に立地していることが原因であると考えられる。本項では、そこで段差の数を調査しアプローチ空間の高低差処理の仕方と合わせて考察する。
5-5 断面構成からみた住居と地形の関係
現地調査にて、集落を斜面方向に切った断面図を制作すし、住戸と地形の関係性を明らかにする。
第六章 結論