修士2年山口陽平です。修士論文の2013年08月28日時点での中間報告を掲載致します。
0.序章
0-1.研究の背景
新宿区大久保および百人町は外国人居住者、特に韓国、中国、タイなどアジア系の居住者が多く、多文化が共生する都市として知られている。単一の文化があ
る地域で発達した外国人街は世界中に数多く存在するが、異なる文化が混在する都市は少ない。そのような都市の例としてトロント、メルボルン、サンパウロなどが挙げられるが、これらの都市はそれぞれの文化ごとにゾーニングされており、本リアのように狭いエリアで明確なゾーニング無しで混在するケースはきわめて稀である。本エリアを実際に歩いてみると異なる国籍を有する店舗が隣接していたり、一つの建物の上下階、あるいは同一階に入居するといった事例が散見され、国籍が壁一枚、床一枚で仕切られている状態となっている。また同じ国籍を背景とする店舗でも飲食店や雑貨屋など業種も多岐に渡り、こうした国籍、用途の違いの重なり合いが混沌とした風景を生んでいる。その風景の構造は容易には捉えきれず、アジア圏特有の雑多な雰囲気といった曖昧な結びつきのみでなんとか街としての全体像を形成しているかの様である。一方で、無数の独立した建築群が作り出すその混沌とした風景はきわめてトーキョー的な風景であるともいえる。ヨーロッパ的なゾーニングによる都市計画が混在を可能にしているのであれば、同じように混在の成立しているこのような雑多な風景のなかにこそヨーロッパ的ゾーニングに代わる独自の方法論が潜んでいる可能性があるのではないだろうか。しかしその圧倒的様相を前に、雑多な都市空間という以上に踏み込んだ理解がなされていないのが現状である。
0-2.研究の目的
以上の様な問題意識に基づき、本研究では本エリアの風景を形成するエスニック店舗を調査し分析を加えることで、その分布から独自の都市構造とも呼べる何らかの秩序や、異国籍間、異業種間での棲み分けや混在の有り様や形成過程を明らかにすることを目的とする。
0-3.研究の位置づけ
大久保の外国人居住を扱ったものとして稲葉佳子の一連の論文がある。これらが外国人の居住の特徴や居住者の実態についてデータやアンケートを用いて数値的に明らかにしているのに対し、本論では商業施設の用途や混在の有り様を空間的に明らかにすることを目指す。大久保の商業施設の立地を空間的に明らかにする論文として大森庸生のものが挙げられるが対象を建物の一階部分に限定し、店舗の平面的な立地傾向を明らかにすることに主題が置かれている。本論では立体的に分布するエスニック店舗全てを対象とし、大久保という都市の特異性の詳細な記述を試みる。
1.研究の概要
1-1.研究の対象
対象エリアは、特定の国籍を有する商業施設の立地が目立つ、JR山手線新大久保駅を中心とし南を職安通り、東を明治通りなど主に幹線通りに囲まれているエリアとする。エリア内のエスニック店舗を調査対象とする。
1-2.研究の方法現地でフィールドワークを行いエスニック店舗の入る建物を調査・記録する。すべてのエスニック店舗を国籍・用途分類表に基づき分類、国籍毎に色分けし可視化した図と用途毎に色分けし可視化し
た図を階層別に作成することで本エリアのエスニック店舗の立体的な立地特性を分析する。また、指標を用いた混在度の定量化、ゼンリンの住宅地図の別記や3年分の詳細のデータを用いてどのエリアでどの
程度の都市の変容が起きているか、その混在の形成過程の解明など時間軸的な研究を行う。
2.現状把握
2-1.国籍から見た店舗の立体的分布
調査の結果2011年の時点で364のエスニック系テナントが確認された。調査データを元に、B1から6Fの各層の国籍別分布図と各階の店舗数をグラフにした階層別国籍構成比や国籍別階層構成比を見ることで立体的な店舗の配置を記述する。また、各階のエスニック店舗の国籍ごとに色分けした各階国籍別分布図を作成する。図より、大久保通りと職安通りとその2道路を南北につなぐ細い路地に多くエスニッック店舗が散在していることがわかる。また、韓国籍の店舗は新大久保駅より東側のエリアに多く、西側では中国をはじめとし、いくつかの国籍の店舗が混在していることがわかる。用途に関しても同じように各階用途別分布図と階層別用途構成比を作成し分析を行う。
2-2.各階分布図を用いた分析
さらに異国籍間や異業種間での関係性などに着目した詳細な図、商業施設以外の施設との関係に着目した図の作成や分析を行う。図は日用品とサービスという業種の近接に着目した図で、このエリアの住人向けの店舗は隣接する傾向にあることが見て取れる。
3.混在度
この章では前章で浮き彫りになった混在の有り様について掘り下げていく。まず指標を用いた混在度の定量化を行う。また、混在の特に激しい所についてよりミクロな視点での研究をおこなう。
国籍の混在の最も顕著な例として一つの建物に2カ国以上の国籍が混在するケースが挙げられる。本エリアには2011年の時点でエスニック店舗の入居する建物は全231件あり、2つ以上エスニック店舗の入居する建物は94件である。そのうち2カ国以上の国籍が混在する建物(国籍混在建物)は31件で単一の国の店舗が同居するたてものが63件という内訳になっており、エスニック店舗の入居する建物における国籍混在建物の割合は13.4%である。国籍混在建物31件のうち2013年現在も混在が認められる建物22件について混在の種類、ビルディングタイプ、共有部分、看板、立地の観点から詳細な評価を行った。まず、混在しているテナントの国籍と業種をみてみると、一階に韓国の飲食店が入居している建物が8件ということがわかる。これは図3の階層別国籍構成比で示した一階における韓国店舗の占める割合からみると少ないといえる。また、台湾、ネパール、モンゴル、ベトナム、インドなどのエリアにおいてマイノリティな国籍も多く見られた。日用品店も6件とエリア全体で17件しないことを考慮すると国籍混在建物に多く入居していることがわかる。
さらに国籍混在建物31件を混在の種類で大きく2分した上でビルディングタイプと共有部分の組み合わせから13の類型を導いた。階をまたいで混在するパターンでは国籍間での共有部分を持つものが3件に対し持たないものが12件と特徴的な偏りが現れた。必然的にフロア間の移動を伴う類型であるため、意図的かは定かではないが、個別の階段が設けられた物件を選ぶ、共有階段に対してなるべく複数の国籍が重複しないよう配慮するといった傾向が結果的に見られた。一方同一階において混在が起きているパターンにおいては共有部分をもつものが4、持たないものが3という結果になった。階をまたぐ
パターンに比べ距離感が近いため共生の意識もつよく、共有部分の有無があまり問題にならないのではないかと推察される。ちなみにこれら7件の内、5件はタイと韓国の組み合わせであり、共有部分をもつ4件はすべてこの組み合わせである。
4.形成過程
新大久保の歴史を見てみると戦後間もなくから外国人居住があり、多文化都市としての素地がつくられているものの現在の様な街の形成にはバブル崩壊後の劇的な変容が関わっていることがわかる。そこで、ゼンリンの住宅地図の別記を用いて過去にさかのぼり、どのような過程を経て多文化が混在した都市を形成するに至ったのかを研究するまたコリアンブームの凄まじい3年分の変容も詳細データを用いて研究を行う。
5.予想される結論
現地調査と分布図の作図、そのつぶさな観察により無秩序に見える店舗配置に何らか規則性があるのか否か明らかになる。混在度を見ることによって大久保の特異性を記述するとともにその混在を成り立たせている仕組みを明らかにする。時間軸の研究によりその混在がどのように形成されたかを解明する。