B4の釣井です。
前期の研究を報告します。
1.序論
1.1.研究の背景
建築分野において資源やエネルギーの消費で排出する二酸化炭素の割合は産業分野が排出する割合の約40%である。これは、建築において資源やエネルギー消費などは環境負荷が大きいので環境配慮など社会に要求される義務を果たさなければならない。
技術の加速的な発展が20世紀の大量生産や大量消費を促進した。1987年に国連のブルントランド委員会が発表した「我ら共有の未来」の中で「サスティナブル・ディベロップメント」の言葉1)を用いた。それ以来サスティナビリティの概念は20世紀末葉の最も重要なパラダイムの一つになった。そして、2002年には建築環境・省エネルギー機構がCABEE(Comprehensive Assessment System for Building Environmental Efficiency)と呼ばれる建築物の総合環境性能評価ツールが発表された。
アトリウムは、商業建築や事務所建築など多様な建物に用いられることが多い。アトリウムは「1980年代以降ガラス屋根などにより十分な自然光を取り入れた広場状の空間」2)と定義づけられ、採光や緑化が行われ、さらに、アトリウム内部の空間を人工環境とすることで外部と内部を分離している。またアトリウムは大規模な空間を必要とするため建物の環境性能や環境負荷に深く関係してくる。
アトリウムに関する既往研究としては、小川ら3)や横山ら4)が挙げられるが、アトリウム空間の接続方法などの意匠的観点からの分析である。
1.2.研究の目的
建築物の環境に大きく関与するアトリウムが環境装置として建物にどのように作用しているのかを分析することである。また、アトリウムの建物内での位置関係や規模が環境配慮にどのように寄与しているのかを明らかにする。
アトリウムを内包する建築は数多く存在するため、その中でも、作業効率、生産性や快適性が重要視され、なおかつそれが要求されるオフィス(事務所、研究所や庁舎)に焦点を当てる。対象とする建築作品は、建築専門誌(新建築1980~2012年)に掲載され、解説文や図面にアトリウムと記載があるものを対象とする。店舗を含んでいるオフィスやアトリウムが二つ以上存在するものは対象外とする。ただし、自社ビルに限り飲食店、食堂または喫茶店が存在する作品は研究対象とする。
1.3.研究対象作品について
1.3.1.研究対象の作品数
新建築の1980~2012年の33年間の中から研究対象となる作品は、51作品であった。各年代では、1980年代8作品、1990年代20作品、2000年代20作品、2010年代3作品である。
2.アトリウムの分類
2.1.分類方法について
分類方法は、環境装置としてのアトリウムを正確に捉えるために行い、分ける項目は「平面形」「方位」「断面形」「吹抜け層数」「気積」の5項目に分ける。
2.2.平面形による分類
平面形は「端型」「中庭型」「貫通型」「重合型」「付加型」の5項目に分ける。建物内でのアトリウムの平面形を把握するためである。
2.3.方位による分類
方位は「東」「西」「南」「北」「中央」「南北」「東西」の7項目に分ける。アトリウムの位置を知ることで日中の活動や建物負荷を意識したものか知るためである。
2.4.断面形による分類
断面形は「全層サイド型」「全層ミドル型」「全層ロー型」「部分層ハイサイド型」「L型(全層+部分層)」「部分層ローサイド型」「部分層ハイ型」「部分層ロー型」の8項目に分ける。建物内でのアトリウムの断面形を把握するためである。
2.5.吹抜け層数による分類
吹抜け層数は「3層以下」「4~6層」「7~9層」「10層以上」の4項目に分ける。吹抜けの規模の傾向を理解するためである。
2.6.気積による分類
研究対象作品の平面図と断面図からアトリウムの気積を概算する。その結果を用いて、アトリウムの規模の変化を知るためである。
2.7.竣工年による分類
竣工年から年代の傾向を探るためである。
3.分類表
分類表は、縦軸に作品名、横軸に6項目の分類として表を作成する。
表3-1.研究対象作品の分類
4.アトリウムの分析
4.1.分析方法について
分析には、分類表を用いる。方法として「平面形と方位」「断面形と吹抜け層数」「吹抜け層数と気積と竣工年」の関係からグラフを作成して現代のアトリウムの傾向を見出す。
5.結論
5.1.総括
今回の研究では、「平面形と方位の関係」「断面形と吹抜け層数の関係」「吹抜け層数と気積と竣工年の関係」の4つの観点からアトリウムを分析した。
アトリウムの平面形では中庭型や重合型が多く、建物がアトリウムを囲っている。
また、アトリウムの断面形では、全層ミドル型や全層サイド型が多く、アトリウムが建物内で求心的な位置づけなので、空調装置として大きく寄与していると言える。
そして、アトリウムの気積は徐々に縮小傾向にあることが分かった。
5.2.展望
分析では、分類表を用いて項目ごとに整理することで、アトリウムの傾向を知る手掛かりになった。アトリウムを年代でみると、1990年代と2000年代では、アトリウムを使用した建築が量産されていたと思われる。
現代のオフィスビルにおいてアトリウムの規模は縮小傾向にあり、原始的な環境装置であるアトリウムは姿を消しつつあると考えられる。そして、建築の環境性能は設備やコンピューターの発展に支えられ今後とも向上していくと思われる。また、十分に環境配慮した開放的で人々が集いたくなる良好な環境のアトリウムは残り続けるだろう。新建築を用いたため、海外作品も多少あったが国内の建築作品が多数を占め。国内の動向を掴むことが出来たのではないだろうか。また、今後海外作品を取り扱えば海外のアトリウム事情を把握出来ると思われる。