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町工場の立面構成に関する研究 〜大阪府東大阪市における町工場集積地域を対象として〜

B4田島です。大変遅くなり、申し訳ありません。夏合宿での前期論文を投稿します。

1.序論
1-1.研究の背景
大阪府東大阪市は、日本でも有数の工業都市として知られている。工場数は全国4位となる6016箇所あり、工場密度においては東京都や大阪市をしのぎ全国1位である。東大阪市では、特に製造業において、有機的な分業システムと地域間ネットワークを構築しており、下請けのみならず横請けという仲間同士が気軽に連携する企業間取引が有効的に機能している。しかし近年、経済構造の大きな変化によって、事業所数や従業者数、製品出荷額の減少傾向にあり(図1)、分業システムやネットワークの崩壊、産業空洞化が懸念されている。さらに、製造業に対する若年労働力の不足や従業員の高齢化、後継者不足といった問題が挙げられている。

図1 事業所数(青軸) 従業者数(茶軸)

1-2.研究の目的
このような現状の東大阪市の町工場において、住工併用建築の立面構成を調査することで、住居と工場の共存の仕方を明らかにすることを目的とする。また、普通の住宅地とは異なる町工場において、住工併用建築が地域にどのように分布しているか、そのデザインはまちの景観にどのような影響を及ぼしているのかを明確にする。さらに、東大阪市で特に町工場が集積している2つの地域において、立面構成の違いや分布の偏りを分析することで、地域別特性を明らかにし、住工混在地域の仕組みを探る。
2.調査概要
2-1.対象地域
東大阪市の中で、町工場の集積率の高い高井田地域と長瀬地域を調査対象とする。
2-1-a.高井田地域
高井田地域は、市内で最も工場集積密度が高く、広域幹線道路へのアクセス、大阪市内へのアクセスの利便性が非常に良い、地域である。金属・機械をはじめ多様な製造業の業種が存在し、特に金属加工技術が優れている。
2-1-b.長瀬地域
長瀬地域は、比較的小さな町工場が密集している地域で、自治会のまちづくりを通して、縦割りの組織ではなく、「丸」を基本とした組織を形成しているため、それぞれの町工場が協力して事業を行っている。
2-2.調査方法
高井田地域、長瀬地域において現地調査を行い、住工併用建築に焦点をあて、各住戸の立面写真を撮影する。同時に、撮影した建物の位置を把握するため、地図上にプロットしていく。高井田地域で73住戸、長瀬地域で43住戸を調査対象とし、これらをデータベース化したものをもとに、分析を行う。
調査期間:2013年6月10〜12日
3.タイプ別分析
3-1.大分類
集めた立面写真をもとに、住工併用建築の立面を構成している要素を抽出し、住宅型、工場型、マンション型、長屋型の4つの型(タイプ)に分類する。
・住宅型:工場の要素より住宅の要素が強く、一見普通の住宅にみえるもの。家型であることや、玄関や窓の大きさなどから判断する。
・工場型:一見すると工場のように見え、住宅の要素がみられないもの。建物の規模や窓の大きさから判断する。
・マンション型:建物の規模や開口などから多数の住戸が入っていると予測されるもの。
・長屋型:住宅と工場で1セットになっている建物が長屋のように横に並んでいるもの。
3-1-a.高井田地域
73住戸を調査対象とした高井田地域においては以下の結果となった。住宅型が多いが、規模の大きい工場型、マンション型もみられた。

住宅型

工場型

マンション型

長屋型

51

12

3-1-b.長瀬地域
43住戸を調査対象とした長瀬地域では以下の結果となった。マンション型と長屋型はほとんどなく、高井田地域に比べると工場型の割合が比較的高い。

住宅型

工場型

マンション型

長屋型

30

11

3-2.小分類
3-1で分類したものをさらに細かく分類することで、住居と工場がどのように共存しているかを分析する。
・住宅型
3-1で住宅型と分類された建物の立面構成をさらに以下のA~Eのタイプに分類して、住宅の中にどのようにして工場が組み込まれているかを分析する。
○住宅Aタイプ:1階が工場、2階が住居で、切り妻屋根のタイプ
○住宅Bタイプ:1階が工場、2階が住居で、陸屋根のタイプ
○住宅Cタイプ:工場と住居が別棟で隣接しているタイプ
○住宅Dタイプ:住居がセットバックしているタイプ
○住宅Eタイプ:1階の一部が工場のタイプ
・工場型
3-1で工場型と分類された建物の住居専用の玄関の有無によって住居の数や入り方を予測する。
○工場Aタイプ :住居専用玄関有り
○工場Bタイプ:住居専用玄関無し
・マンション型
3-1でマンション型と分類された建物は、共用玄関のあるマンションタイプと外部階段から直接各住戸の玄関へアクセスするアパートタイプに分類する。
○マンションAタイプ:外部階段あり共用玄関はない
○マンションBタイプ:共用玄関がある
・長屋型
3-1で長屋型と分類された建物を全て同じ大きさ・形をしているタイプとそれぞれは異なる形状をしているタイプに分類する。
○長屋Aタイプ:大きさ・形が揃っている
○長屋Bタイプ:大きさ・形がバラバラ
3-2-a.高井田地域
・住宅型(51住戸)
住宅A:13、住宅B:21、住宅C:1、住宅D:3、住宅E:13
・工場型(12住戸)
工場A:4、工場B:8
・マンション型(3住戸)
マンションA:1、マンションB:2
・長屋型(7住戸)
長屋A:1、長屋B:6
3-2-b.長瀬地域
・住宅型(30住戸)
住宅A:4、住宅B:15、住宅C:3、住宅D:4、住宅E:4
・工場型(11住戸)
工場A:6、工場B:5
・マンション型(1住戸)
マンションA:0、マンションB:1
・長屋型(1住戸)
長屋A:1、長屋B:0
3-3.考察
3-1の結果から、町工場における住工併用建築の立面構成は大きく4つのタイプに分かれることが分かった。この中でも、住宅型とマンション型のように“家”らしいもの、工場型と長屋型(貸工場)のように“工場”らしいものがあり、これらは正反対の顔をしているが、どちらも実際の機能としては住居と工場が混ざっている。また、3-2の結果から、住居と工場の共存の仕方は様々であることが分かった。
4.地域別分析
4-1.分布
3-1で4つに分類した建物の地域別分布をみる。
・高井田地域:MAP T-1~T-3
・長瀬地域:MAP N-1,N-2
4-2.考察
高井田地域は全体的に大きな工場が多くあり、その中に今回調査した住工併用建築がまだらに配置されている。住宅街のようなものは少なく、比較的粒の大きい建物が多い。
長瀬地域は比較的小さい建物が密集していて、駅近くに小中学校があるため、住宅街が多い。住工併用建築は住宅街とは少し離れたところに密集している場合が多く、その中で住宅型と工場型は混在して配置している。
5.結論
5-1.総括
今回の調査・分析を通して、町工場における住工併用建築の立面を構成している要素が明確になり、住居と工場がどのように共存しているかが分かった。また、都市スケールでみると、地域によって工場の大きさや密度に違いがあり、住工併用建築の立面構成のタイプの割合は地域によって異なることが分かった。
5-2.展望
今回の調査・分析の結果は、これからの町工場建築において、どのように住居と工場が共存するべきかを考えるきっかけとなった。立面構成だけでなく、町工場における建築のあり方の提案や住工併用建築のプロットタイプの考案に結びつけられるかもしれない。

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