参道を軸とした二対の建築を媒体に、地域の新しいコミュニティ空間を作る提案。
1.背景—雑司が谷という街—
―古い街並み、生い茂る緑、モノで溢れた路地空間、子育の神・鬼子母神。―
都心にありながらも閑静な住宅街が広がる雑司が谷。歴史あるこの街のコミュニティは、伝統行事の御会式や手創り市などの地域イベントや路地空間を介した近隣住民との日常的な挨拶・会話など多方面にわたり築き上げられてきた。
特に街の中央に位置する鬼子母神堂では、御会式などのお祭時には多くの人で賑わい、日常では観光客や散歩する高齢者、学校へと向かう小学生の姿などが見られ、この街の人にとって親しみのある場所であり、地域コミュニティの象徴的存在とも言える。
そんな雑司が谷ではいま、再開発やグローバル化の影響で、子育て世代や外国人留学生などの新しい移住者が増えている。この街のコミュニティに新たな要素が加わろうとしている。
2.問題意識—既存のコミュニティの限界—
古きを大切にする雑司が谷のコミュニティは、新しい居住者に対して対応しきれていない。彼らの住まいである新築の集合住宅もまた、外部との関りを断つような建てられ方をしており、コミュニティの希薄化を促進している。
既存のコミュニティの象徴とも言る「鬼子母神」を着目し、そこを中心に新しい街の要素も内包した、これからの雑司が谷のあるべく地域コミュニティを作ることはできないだろうか。
3.提案—ポテンシャルの再編—
既存のコミュニティの核である鬼子母神を中心に、新しい街の要素を取り込み、再編成する。(図1)
図1 提案ダイアグラム
これは現在進行形で変化を続ける雑司が谷の未来を見据えたコミュニティを模索するとともに、お寺や境内を都市空間として街にどう還元していくのかを提起するものでもある。
4.手法—参道を軸とした二対の建築—
鬼子母神の参道は境内を跳び出して街へと展開されている。街の接点を持つこの参道を設計の糸口とし、“寺“と“街“二つの対となる敷地を選定。寺側に既存のコミュニティのための機能(学童、デイサービス)を、街側に新しい街の要素のための機能(シェアハウス)を配置することで、参道を軸に両者の間に新たな関係性を生む。(図2,3)
図2 手法ダイアグラム
図3 1階平面図
5.空間構成—街に開いた中間領域—
5-1.街のリビング
シェアハウスの一部を街のリビングとして開放。そこは街の人の溜まり場であったり、学校に向かう小学生と留学生が顔を合わせる場所になったりもする。休日には留学生がカフェを開き、縁日などの地域イベントにも街のリビングを通して、住人が街の活動へ参加する。そこは住民と街の人が関りを持つきっかけとなる場所である。(図4)
図4 街のリビング・パース
5-2.複合施設
鬼子母神への軸線を強調した水平に長い庇の下では、子供の遊び場になったり、お年寄りの集会所的な存在になったりと、多世代の交流促すものである。さらに縁日時には軒下に屋台が並び、内部は開放され、街のプログラムと建築が一体となって展開される。またそれに呼応する形で様々なアクティビティが行われる。(図5,6)
図5 複合施設外観
境内入口から鬼子母神堂を背景に見た風景。
図6 複合施設内観
6.結—参道に重なる街のレイヤー—
中間領域を介して両者の活動は参道へと延長される。新と旧、日常と非日常、街の様々な要素がレイヤーとなって参道で重なり、参道は単純に「神聖なモノ」からコミュニティ形成の場へと生まれ変わる。
ここにおいて、これからの雑司が谷のあるべく地域のコミュニティが示されおり、それは参道から街へと展開される。