B4の丁佳蓉です。春学期の研究内容を発表させていただきす。
序章
1−1.研究の背景と目的
特殊な地理的・歴史的要因によって、上海には西洋の文化と中国の伝統文化が混在し、共生している。1843年開港以来、租界時代に欧米各国の様々な建築様式の建物が建てられ、西洋建築と中国伝統建築が融和した「中洋折衷の建築」の景観が形成した。社会状況の元に上海における都市の主要な構成要素となる「里弄」が発生していった。2010年に「石庫門“里弄”建築の建造技術」は中国政府から国の無形文化遺産に認定された。
1990年代に入り、都市基盤の整備や都心部不良住宅の更新が新しい段階に入り、里弄住宅が一時大量に取り壊され、面積は下降傾向にある。しかし、里弄住宅は旧市街地の各行政区においてその比率が依然高く、如何に里弄住宅のストックを合理的に再生するかがますます重要な課題になっている。
旧市街地再生一つの事例として、新天地は高い評価された。新天地の成功は都市の再開発はどうあるべきかを考えるとき、多くの示唆を与えてくれると思う。
本研究では、石庫門の歴史と文化価値把握した上で、新天地のリノベーション手法と文化的、経済的な価値を明らかにする。さらに、これから旧市街地の保存と再生の方向性を探ることを目指している。
1-2.研究の対象と方法
既往研究、各種文献及び図面などを用い、上海石庫門住宅の歴史、文化、芸術要素などを把握し、石庫門の文化価値を明らかにする。老朽化した旧市街地に建てられた石庫門里弄住宅を利用してリノベーションした新天地事例を研究対象として、設計者の設計主旨から全体のアプローチを把握する。各種文献、図面を集めて、新天地改修の事例を現地調査行う。各事例における里弄住宅の保護と再生する手法を研究する。
1-3.研究の位置づけ
本研究は歴史的に文化価値がある石庫門住宅のリノベーションを計画・意匠的視点に基づいて論考するものである。石庫門里弄住宅の建築価値、文化価値及び、新天地リノベーションにおける空間の設計手法を明らかにする。さらに、旧市街地改造の価値とこれから里弄住宅のストックを合理的に再生する方法を再考する。
第2章 里弄住宅の定義と分類
2-1.里弄住宅の定義
里弄住宅は、上海の租界時代(1846-1945年)に建設される始め、租界の拡張に伴って大量に建てられた中国人を対象とした中洋折衷の低層集合住宅である。1949年以後は政府に移管され、公共賃貸住宅として市民に提供されてきた。
2-2.里弄住宅の分類
1)旧式石庫門里弄、2)新式石庫門里弄、3)新式里弄、4)花園里弄、5)公寓里弄
2-3.里弄住宅の分布と規模
図1 1993年上海市里弄住宅の分布状況
1949年頃最盛期には、里弄住宅は9000か所ぐらいに増えて、上海の住宅の60%を占めた。住宅単元20万軒以上。1990年代に入り、里弄住宅が一時大量に取り壊され、現存の石庫門里弄は1900か所しかない。その中で、比較的無傷で保存されてきたのは173か所しかない。住宅単元約5万軒残ってある。
第3章 折衷主義時期における上海石庫門住宅の発祥と発展
3-1.折衷主義の概念
中国近代建築史の流れに19世紀から20世紀始め頃は折衷主義(Eclecticism)時期である。半ば植民地的、半ば封建的な中国は西洋建築文化の影響を受けて、中国の伝統的建築様式に西洋的デザインの手法を取り入れる。そのような折衷主義的な建築観が主流である時代。
3-2.上海石庫門里弄住宅の概念と起源
住居平面及び配置は当時のイギリスのテラスハウスと、中国の江南地域の伝統的農家住宅の特徴を取り入れたものと言われている。木とレンガの混構造で、セットバック、中二階及び渡り廊下などの特徴的な手法が見られ、外観は窓、門、ペディメント、手すりなどのデザインが華洋折衷である。特に中庭への入り口の「石庫門」と呼ばれる上部に装飾が施された石造りの重厚な門構えが特徴である。
3-3.折衷主義時期における石庫門住宅の特徴
3-3-1.空間構成
外から見るとかなり閉塞的な構成は、強い地域性、共通認識、そして安全性を生じさせ、里弄地区に統一感をもたらしている。そして、里弄地区ではむしろこのような構成が、良い近隣関係とコミュニティを作り出している。公道と総弄は住人たちが公共的活動を行うための、そして支弄はより近しい隣人を半公共的活動へ誘うための場所となっている。良いご近所付き合いはこのような住空間の下で形成されており、多くの住人たちは里弄から離れたがらない。
3-3-2.石庫門と中庭(天井)
石庫門と中庭(天井)は石庫門里弄住宅のもっとも代表的な空間要素である。
3-3-3.芸術要素
里弄住宅は住宅の一つの種類として、大同小異な空間構成を持っているが、独特な装飾はそれぞれの里弄地区を区別するための標識である。代表的な要素は破風、戸口、路地の入口、花窓がある。
3-4.石庫門民居の現状と発展
3-4-1. 里弄住宅の現状
1)人当たりの居住面積狭い
2)住宅老朽化、保護を無視されている
3)生活施設不十分、隠された危険の存在
4)住宅の財産権混乱、管理するのは難しい
3-4-2. 現存の石庫門里弄住宅の再開発プロジェクト
第4章 上海新天地における石庫門の保存と再生
4-1.開発に関する評価と新地方主義
古代の芸術を真似て作ることではなくて、直接的か間接的に地方特徴的な元素と符号を引用して、地方文化を表現する。作品に隠喩した地方文化を人々に体験してもらう。開発のNSIによると、新天地開発は新地方主義を基づいて展開されていた。
4-2.敷地における配置計画
北側のブロックでは、馬当路に面する西側にオフィスを配置する以外は既存の建物を多く残すこととし、それらをレストラン、ショップ、バー、ライブミュージックハウスなどの商業施設として再利用している。南側のブロックは、行政からの要求もあり、「一大会址」への配慮として興業路に面した街路のファサードを保存する要求があった。一方、ブロックの内側は、中央にプラザを作り、それを囲むようにエンターテイメントセンターを新設した。敷地の最深部まで、客を導入することにより、この地域全体のポテンシャルを高める狙いである。
4-3.事例分析
事例1. Va Beneレストラン
事例2. Nancy’s Gallery
事例3. Green & Safe
事例4. Estado Puro
4-4.新旧結合のデザイン手法
4-4-1.解体した外壁の外構
既存の建物の外壁は「青磚」と呼ばれる中国伝統的な炭灰色のレンガと、「紅磚」と呼ばれる西洋風の赤レンガ、屋根は炭灰色の「蝴蝶瓦」、門は「銹石」という花崗岩で作られている。解体した建物のこれらの外装材は可能な限り再利用した。中でも「青磚」は外構の仕上げ材として使用したが、これは再利用という目的ではなく、デザインの調和にも効果的であった。
4-4-2.新たな内部空間
建物の中に入ると、時代の変遷が感じられる。伝統的な里弄住宅と比べると、部屋は明るく風通しが良い現代都の人々の生活リズムに合わせて、新しい設備が充実している。より住みよく快適な空間にリノベーションしている。広い空間を作るために一部の壁を徹去した。
5章 価値と評価
5-1.価値
5-1-1.文化価値
パブリックな空間からプライベートな空間まで、すなわち公道、総弄、支弄、中庭という異なった性格をもつ里弄の断片をプラザに露出させることで、人々に里弄を体験してもらう。
5-1-2.経済価値
地価の面では、新天地建設前の1999年の平均して1平米あたり8,000元〜10,000元から建設完了時の2004年までに1平米あたり平均20,000元に高騰した。2017年9月現在では1平米あたり約110,000元(約189万円)となっており、これは品川区のおよそ2倍の価格である。
5-2.評価
新天地の改築は歴史的に意味のある建物を保存した上で新しい設計手法を取り入れており時代の変遷が感じられる。新旧文化の交替と経済グローバル化の背景で積極的な意味がある。日々成長する上海の独特な海派文化が革新性、コンバーチブルな面、冒険心を内包する新天地を生み出した。外国人からも、国民からも高い評価を得ている。一方でマイナス評価もある。経済的な面で周辺の地価を高騰させる思惑から新天地の開発が行われているという面もあり、必ずしも文化的保護という観点が優先されていない。しかしながら、新天地再開発は一つの成功例として、これからの旧市街地の保護と再生に示唆がある。
結章
6-1.結論と展望
・住宅の更新は、住水準の向上を目的とすることから、土地利用を変更するなど、都市の発展にともなって変化している。石庫門里弄住宅は地域特殊な伝統住宅として、文化的、建築的価値がある。無形文化遺産として保存すべきである。
・新天地は、ディテールや壁面、舗装の材料をもとのイメージに従って計画した。外壁を補強するための技術や古い風合いの素材の使用により、「整旧如旧」(老朽化した建物をもとのイメージに基づいて改修するという意味)とも呼ばれ、保存という視点からもっとも成功した一つの事例と言われている。
・本研究では歴史的価値の有する建築をただ文物として保存することを擁護するではなく、保存を開発と結びつけ、新旧融和な再生方法は今の時代に適していることを支持するものである。歴史的な建物を再生させて、新しい時代で新たな役割を演じる。現存の再開発プロジェクトを参考した上で、これから里弄住宅のストックを合理的に再生する方法を探る。