Minimum City -地方百貨店のリノベーション-
⒈背景と目的
近年、閉店する地方百貨店が後を絶たない。全盛期の百貨店は、イベントの開催や家族での買い物、レストランでの食事をするハレの場であった。その後、司法百貨店ではモータリゼーションが進行し、郊外の大型商業施設へ消費活動が以降する。また、コンビニエンスストアやネットショッピングの台頭などの影響を受け、百貨店に代表される大資本が中心市街地から撤退しつつある。そして、近代家族と消費携帯の一時代を築いたビルディングタイプが終焉を迎える。地方都市では、新たに新築する経済力が低く、跡地の利用方法は長期間定まらないことが多い。歴史性、象徴性、拠点性など様々な価値を持つ百貨店をただ壊してしまうのではなく、リノベーションして縮小社会に適した建築へ転生する。
2.敷地と対象
千葉県松戸市にある伊勢丹松戸店は、都心から電車で30分の松戸駅近くという好立地にも関わらず、2018年3月に閉店することが決まった。コンパクトシティのような都市構造をしているこの土地でも大資本の需要がなくなったのである。今回は、この伊勢丹松戸店を対象とする。
図1伊勢丹松戸店
3.プログラム
商業としての機能が不要となった百貨店を居住、文化、医療、教育を最低限担保する機能を導入する。具体的には、住居、病院、保育施設、図書館、体育館、ホール、結婚式場、納骨堂、シェア機能(食堂、風呂、ランドリー、キッチン)の9つの機能を内胞し、お金を使わなくとも生活を活性化できる施設とする。地下1階の食品売り場は既存のものをそのまま残す。究極的には、この建物内部で一生を過ごすことが可能であり、この建築は最小の都市と捉えることができる。
4.提案
百貨店のような商業建築は、内部に壁がほとんどなく、極めて開口の少ない外壁のみが耐震壁という特徴が共通している。従って、外壁には大きな操作は行えず、四周からの採光は十分に取れないため、内部にヴォイドを設けて上部から光を取り入れる。既存の柱、梁、外壁、エスカレーター、エレベーターを残し、主に内部の操作を施す。
図2採光計画
5.設計手法
都市とは、建築と道が図と地の関係を成している。百貨店の中に一つの都市をつくると考え、この図と地の関係を機能とヴォイドに読み替え、建築に当てはめる。まず、それぞれの機能に一つずつ形を与える。次に、柱を抜く空間を要する機能は上部へ、運動能力が低い人が利用する機能は下部へ配置する。機能同士が連動する中間領域となるように地の空間をつくる。
図3コンセプトダイアグラム
6.空間
都市の中で地の空間によって隔てられている機能同士だが、建築スケールまで縮小させたこの都市では地の空間がそれらを結びつけ、互いに連動する。また、住居は建物の内側に開口が向けられ、他の機能と向き合うことで、通常ありえないような関係性が発生する。外壁は大きく変化していないため、表向きには地域のシンボルとして残るが、その裏には内に開かれた小さな都市が存在している。
図4一階平面図
図5空間パース