修士2年の島田です。研究の途中経過を投稿致します。
序章 研究の概要
0.1研究の背景
大都市圏を中心に、ホテルの開発計画が相次いで浮上している。その背景には訪日外国人数の増加があり、日本政府観光局の目標値によると2020年の訪日外客数4,000万人に達する。その影響により、東京のホテルのマーケットでは2016年時点の既存ストックの31%である約3万室の客室が供給されても3,500室程度不足すると推計される。2017年から2020年までに供給される客室数は既存ストックに対し38%、都市別では、東京は31%、大阪は42%、京都は 最も多い57%に相当する供給が見込まれている
最近では、オフィスビルを都市型ホテルに転換する事例が、都心部を中心に急増している。しかし、森トラストの発表によると、東京23区におけるʼ18年の大規模オフィスビル供給量は147万m2となり、過去20年間で4番目の高水準となった。また、2012年以降オフィスの空室率は下落傾向にあり、2018年オフィス空室率は東京で2%を切った。
0.2研究の目的
オフィスビルの空室率が下がり供給率が増える一方で、オフィスビルをホテルにコンバージョンする動きが見られることにどのような背景があるのかを明らかにする。このような問題意識に基づき、以下の二点を目的として研究を進める。
1)所有の仕組みや事業計画などの観点も含め、オフィ スビルが宿泊施設にコンバージョンされている背景を明らかにする。
2)オフィスビルから宿泊施設にコンバージョンする際に生じる障害となる点や困難を克服する設計手法を明らかにする。
0.3研究の位置付け
オフィスビルから宿泊施設への用途転用に関しては、近年急速に増加しつつあるものの、顕著な事例が未だ少なく、研究対象として十分に認知されていない。こうしたことから、本研究ではオフィスビルから宿泊施設への用途転用事例を対象とし、事業の活発化の背景を明らかにする。また、設計論・計画論的な観点から分析を行い、生じる障害となる点や困難を克服する設計手法を明らかにする。
0.4研究の方法
1)事業及び所有に関する分析
事業のプロセス及び事業形態を明らかにする。①法制度の調査②所有の仕組みの分析③事業者へのヒアリングを通して、オフィスビルから宿泊施設のコンバージョン事例が増加している背景を明らかにする。
2)設計手法の分析
オフィスビルの用途転用やホテルへの用途転用の基礎研究を踏まえ、各種図面、写真、解説文を参考に設計上の障害克服方法を①平断面計画、②動線計画、③壁(内壁、外壁)、天井高、窓など特徴的部位の空間利用の④構造体や設備の4点から分析を行う。また、宿泊施設のオフィスビルからではない建物からのコンバージョンとの差異に関しても明らかにする。
1.オフィスビルのコンバージョンの実態
1-1法制度
建築基準法の一部を改正する法律案要綱により、建築確認を要しない建物の範囲が拡大され、用途に供する特殊建築物のうち確認を要するものを、当該用途に供する部分の床面積の合計が100m2から200m2へと変更された。しかしながら、コンバージョン事例には200m2よりも大規模な計画が多くこれらの法改正は影響していないのではないかと考える。
1-2所有の仕組み
オフィスビルから宿泊施設にコンバージョンされた物件の所有は大きく3つに分けられる。①所有直営方式、ホテル事業者が土地・建物を所有し、ホテル開発・運営を行う②リース方式、所有者から土地や建物を借り、ホテル会社が一連の運営を担う③マネジメントコントラクト方式、ホテル所有者と経営者が運営の全てをホテル会社に委託する所有の仕組みは様々であることから、様々な業務形態からも参入できる土壌が整っている。
2.基礎的考察
2-1 分析対象
日本全土を対象に「新建築」「商店建築」「近代建築」「日経アーキテクチュア」に取り上げられている宿泊施設及び、不動産会社や設計事務所のウェブサイトに掲載されたオフィスビルから宿泊施設への用途転用された物件を扱う。
2-2 分析対象の基礎的考察
事例1.ビスポークホテル
築47年の新宿柴田ビルという、オフィスビルをコンバージョンしたホテル。現在の立地環境からオフィスよりホテル事業性が高いと判断しコンバージョンがされた。
事例8.トーセイホテルココネ上野
トーセイホテルココネ上野は、事業にしであるトーセイが運営する二件目のホテルである。建物のスケルトンを生かしながら、収益を最大化するために基準階のない建物のため、客室の形状は35タイプもある。
5-1 外装変更
5-1-1 設計上の障害
外装の変更に関しては開口部、外壁に関する変更が見られた。これらが行われる背景としては、オフィスビルでは床面積に対して1/20以上の開口部が必要になることに対して、ホテルでは客室面積の1/8以上の開口部が必要になることがあげられる。
5-1-2 設計手法
設計手法としては、4つの方法が見られた。(図表1)
図表1 外装設計手法分析
1つ目は、既存の壁に穴を開け開口部を新設する手法である。2つ目は、既存の開口部をホテルの客室に合わせるためにカバー工法という工法を用いて窓のサッシなどに変更を加え流手法である。3つ目は、カプセルホテルなどに多く見られる方法であり、開口部自体を新設せず開口の制限を持たないドミトリーという宿泊施設の形態にすることで開口部の不足に向き合う手法である。4つ目は、ドーミーイン後楽園(図8.9)に見られ、他の事例とは反対にガラス張りなどの開口部の多いオフィスに対して、一面しか開口部はないため開口部に合わせ大きな部屋を作る手法である。
5-2 内装変更
5-2-1 設計上の障害
内装の変更に関してはスラブの改修(吹き抜け)、天井の改装、床の改装、間仕切りの新設や撤去が見られた。
これらが行われる背景としては、先にあげた開口部の必要面積が異なることやオフィスとホテルでは必要設備が異なることが原因として挙げられる。また、オフィスはホテルに比べ天井高が高いことも背景の一つである。また、ホテルはオフィスと異なり特殊建築物に該当することも背景の一つである。
5-2-2 設計手法
それらのことから、ビスポークホテルでは開口部を増やすためにスラブを抜き、吹き抜けの新設が行われた。また、オフィスはホテルよりも天井高が高い事例が多いことから設備配管を天井に入れるケースが多く見られた。ホテルはオフィスと異なり特殊建築物に該当し、防火の対策が必要となる場合がある。事例11のホテルカンロ京都では、大きな室内をホテルの客室に分割するための間仕切り壁に関し耐式防火防音間仕切りを利用し、防火の対策を行なっている。
5-3 動線変更
動線の変更に関してはエレベーターの新設、スロープの新設、遊歩道の新設、階段の増築が見られた。
5-3-1 設計上の障害
これらが行われる背景としては、ホテルのエントランスに関する法律がある。「玄関やロビーの一部にレベル差を設ける場合、身障者用車椅子、客のパッケージ運搬等のためのスロープを併設する。」また、オフィスビルでは1階は駐車場になっていたりすることもありロビーとなる空間に段差が出てしまうことは少なくない。
5-2-2 設計手法
分析対象の事例いくつかには、1階から2階へのエレベーターの新設やスロープの新設が見られた。
それらは、ロビーのバリアフリー対策として必要となったため新設または撤去されたと考えられる。
5-4 設備変更
5-1-1 設計上の障害
設備の変更に関しては、受水槽の新設、設備配管の改修及び新設が見られた。これらが行われる背景としては、オフィスビルに比べ宿泊施設では利用される水の量が違うことが挙げられる。また、その中でも受水槽は建築基準法に準拠し、六面点検ができるように設置し、周囲600mm以上、天井面より1m以上、床面より600mm以上の空間を設けることが義務付けられている。
6 予想される結論
オフィスビルからホテルへのコンバージョンが増加した背景として、①ホテル需要の増加が急激であり、より早い開業が必要であり工期を短縮する必要があったと考えられる。②また、所有のしくみが多様で多くの業種から参入ができることも背景の一つであることがわかった。
オフィスビルとホテルなどの宿泊施設では必要設備が異なることだけでなく、防火対策や防音対策、並びにバリアフリーや必要開口面積など異なる点が多く見られた。また、それらに対しての設計手法には様々な手法が見られた。ホテル建築に関してはほとんどの事例で開口部の不足が大きな問題として挙げられた。また、それらに対してホテルではなくカプセルホテルやドミトリーという施設形態をとることで法律上の課題を解決する事例も多く見られた。
4-2展望
コンバージョンを行う際に設計上の障害になる点を洗い出したが、まだ防火及び防音に対しての調査や設備面に対する調査が不完全であり今後はさらにそれらの調査を深めたい。
また、設計手法の分析に関して資料の不足から読み解くことのできない場所が多い。実際に設計を行った人へのアポイントメントを取りながら分析を深めていきたい。