―横浜市内のバス停留所をケーススタディとして―
B4の池田です。春学期に行った小論文を掲載させていただきます。
序章 研究概要
1-1.研究の背景・目的
本研究の目的は、都市におけるエレメントの接続と切断(3-1.語彙の定義参照)に関する考察である。
都市は様々なエレメントで構成されている。例えば、公園はベンチや遊具、手洗い場や花壇等のエレメントにより構成されている。しかし、各エレメントは必ずしも公園を構成するエレメントであるのみならず、場合によって道路を構成するエレメントにもなり得る。例えば、公園のエレメントある花壇に、道路を歩く人が腰を掛けた場合、花壇 は道路のエレメントである、といえる。このように、都市におけるエレメントとの結びつきは弱く、絶えず変化している。
本研究では、全国各地に設置され、市民の足となるバス停留所に着目する。適切なバス停留所空間が確保されていない箇所が多く存在している一方で、様々な制約の中でも、人々は工夫を凝らしてバス待ちをし、周辺の都市の一部を利用する場合がある。バス停留所を構成するエレメントの接続・切断に関する研究を通して、バス停留所と都市のあり方を再発見する。
1-2.研究の位置づけ
本研究では、都市環境を構成するエレメントを、日常の人々の行為から分析すること目的としている。
日常における都市を分析するという試みは、ベルナール・チュミによる「マンハッタン・トランスクリプト」の中で出来事の記述、移動の記述が行われている。橋本圭央は「都市の表記法に関する研究」のなかで、日常的行為・行動に着目し記述を行っている。
第2章 研究の対象と方法
2-1.研究の対象
横浜市内にあるバス停留所7か所を研究の対象とする。横浜市では1日平均70万人以上がバスを利用しているにも関わらず、起伏に富む地形上、急坂や狭路が多く存在しており、バス停留所と都市が複雑に絡み合っていると考えられる。
2-2.研究の方法
対象地におけるバス待ち行為の現地調査を、日時・天候を変えて複数回行う。現地調査で得られた人々の行動から、エレメントの接続・切断の実態を明らかにする。
第3章 バス停留所について
3-1.語彙の定義
バス停が所有するエレメントを「バス停エレメント」、バス停が所有しないエレメントを「都市エレメント」、都市エレメントのうち、バス停のエレメントに転換しうるエレメントを「半都市エレメント」と呼ぶ。
バス待ち列の最大範囲内をバス停留所の「周囲」と呼ぶ。
公園はベンチや遊具、手洗い場や花壇等のエレメントにより構成されていると仮定する。公園のエレメンでトある花壇に、道路を歩く人が腰を掛けた場合、花壇は道路のエレメントとなった、つまり花壇というエレメントが道路と「接続」したという。対して、腰を掛けていた人が立ち上がりその場を離れた場合、道路との接続は切れ、「切断」されたという。
3-2.全体概要
各バス停留所周辺における全てのエレメントを表1に示す。
第4章 調査結果・分析
現地調査で得られた、各バス停留所の代表的なエレメントの接続を以下に示す。
A:シャッターに沿って並ぶ
B:住宅の塀をベンチの背もたれとして利用する
C:花壇に座る・荷物を置く
D:閉業している店舗のシャッターに寄りかかる・荷物を置く
E:電話ボックスの陰に立ち道路を見る
F:コンビニエンスストアの商品の前に並ぶ
G:ヘアカット店の椅子に座る人に話しかける。
4-2-1 バス停留所Bについて
バス停留所周辺には店舗と住宅が建つ。建設事務所と店舗が入る建物の軒が広がっており、プランターや緑のカーテンなどが設置されている。住宅においては、一階段部分がセットバックしている箇所がある。歩道には街路樹が植えられ、ベンチが4か所設置されているなど、様々なエレメントがある。
4-2-2.現地調査の結果
バス停案内表示板前に設置されているベンチ(以下、ベンチ①とする)に座り、住宅の塀に寄りかかる様子が複数見られた。軒下のベンチ(以下、ベンチ②とする)に座る場面でも同様に、店舗の外壁に寄りかかる様子が見られた。その他、ベンチ①・②や自動販売機のそばに立つ人、柱に寄りかかる男性がいた。雨天時には軒下で雨宿りをする。
また、一時的に街路樹とプランターのそばで女性が鞄の中を探る様子が見られた。
柱に寄りかかる男性とベンチに座る人
街路樹・プランターに接近していく女性
4-2-3.エレメント分析と考察
近接・接触していたベンチ①、ベンチ②、自動販売機、柱は半都市エレメントであるといえる。同様に、一時的だが接近していったことから、街路樹とプランター群も半都市エレメントであると考えられる。
全体として、対象地のバス待ち中の人々には自由な活動・行為が見られた。その要因として、低い軒や園芸ネット、複数のプランターや葉が生い茂った街路樹等により囲われた印象を抱き、ある種の安心を感じるためだと考えられる。また、点字ブロックがバス停案内表示板からベンチ・住宅の塀へ伸びていることも、バス停空間の広がりを感じさせ、様々なエレメントの接続を誘発していると考えられる。
終章
5-1.まとめ
7つのバス停留所の調査・分析から得られたエレメントの接続・切断を次に示す。
図1 各バス停留所の写真およびエレメント構成図
□:都市エレメント ○:半都市エレメント 無印:バス停エレメント
――――――― 所有関係 – – – – – – – - 人の行為によって接続 - ― – ― – ― 近接・接触
5-2.考察
分析結果・エレメント構成図から、エレメントに関して以下の3つの考察を得た。
①エレメントがツリー状に関係しているよりも、セミラティス状に展開しているバス停留所にて多様なエレメントの接続が見られた。しかし、多様性とバス待ち行為の発生頻度との関係性は薄い。
②半都市エレメントの数と、特徴的なバス待ち行為との間には関連性が低い。開店している店舗前では都市エレメントの影響を受け、バス停エレメントと接続する半都市エレメントが減少する。一方、閉店している店舗前では半都市エレメントの接続が増加する。また、今回の調査では、休業している店舗にてその傾向が強まった。
③半都市エレメントが分散しているバス停空間では、多様な接続・切断が見られる。
5-3.課題と展望
今回の研究では、エレメントが接続された場面の調査・分析をする割合が高かったため、今後はエレメントの切断に対して調査・分析を進めていくことで、得られた考察を深める。
また、各エレメントの特徴に言及ながら分析を進め、エレメントの名称を超えた新たな類型が発見されると考える。
参考文献
1)クリストファー・アレグザンダー,形の合成に関するノート/都市はツリーではない,鹿島出版舎,2013
2)橋本圭央,都市の表記法に関する考察:〈常習性の実践〉としての歩行にもとづく都市空間の記述,環境芸術11(0), 65-70, 2012
3) 『建築家のドローイングにみる<建築>の変容 −−ドローイングの古典、近代、ポストモダン』 14,note,若宮和男, https://note.com/kazz0/n/nab863a776b62