修士2年の山本です。前期の修士論文の成果を投稿します。
私はイギリスにおいて教会を住宅にコンバージョンする例が増加しつつあることに関心をもちました。その上で教会らしさをどう克服・活用し住宅へコンバージョンしているのかを明らかにすることを主題としております。
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【序章】
0.1.研究の背景
イギリスでは、教会を一戸建住宅・集合住宅にコンバージョンする例が多々あり、 ロンドンだけで過去5年間で500件近く教会転用物件「Church Conversions」として売り出されている。コンバージョンが起こる背景として以下の4つが挙げられる。
①歴史的な建造物を保護する景観規制により古い建物を解体することができないこと。
②住宅の供給戸数が限られているなか住宅価格の高騰も相まって、慢性的な住宅不足が発生していること。
③1900 年代に都市部への人口流入が増大し、街中多数の教会や礼拝堂が建設されたが、多くは移転もしくは利用されなくなりコンバージョンされていること。
④若者のキリスト教離れがあること。
教会を住宅にコンバージョンする際、空間の親和性が低いため、コンバージョンのしにくさがあると考えられる。どう克服し再構成しているのかという部分に関心をもった。
(尚、コンバージョンにおいては既存用途とコンバージョン後の用途における空間の違いの距離が様々である。その距離のことを空間の親和性とし、距離が大きいものを空間の親和性が低いもの、距離が小さいものを空間の親和性が大きいものと定義づける。)
0.2.研究の目的
以下3点を目的とする。
①イギリスにおける教会から住宅へのコンバージョン手法を抽出し分析する。
②教会を住宅にコンバージョンする場合の障害となる点や困難を明確にしそれを克服する設計手法を明らかにする。
③前後の用途間の親和性が低いコンバージョンに応用可能な手法を見出す。
0.3.研究の位置づけ
教会から住宅へのコンバージョンに絞り、その親和性の低さに対する解法を設計論・計画論的に分析するものと位置づける。
【第1章 イギリスにおける現状把握】
以下の3つの側面から教会から住宅へのコンバージョンが活発に行われていることが考えられる。
① コンバージョンを取り巻く環境
税制優遇措置等の行政の支援による誘導・コンバージョン住宅を専門に扱うコンバーターの存在・登録建造物制度や保全地区制度等の存在等がある。
②住宅を取り巻く環境
集合住宅は基本的にリースホールド(所有者と管理者が別々に存在する)のためコンバージョンがしやすい環境下にある。
③教会建築のコンバージョンへの投資が盛んな理由
使用材料や構造,デザイン等において質が高い ・街の中心に位置する等により付加価値として見込める可能性がある。
【第2章 分析対象の選定】
不動産・建築家のサイトに掲載されていた集合住宅・一戸建住宅から40物件程度選定する。
【第3章 分析方法】
①教会建築の基礎研究を踏まえた上で、1)身廊の有無(バシリカ式・単廊式)2)平面形態(長方形・ラテン十字形・T字型)の組み合せから図2のように類型化する。
②教会から住宅へコンバージョンするうえでの着目点を1)平断面計画 2)特徴的部位のコンバージョン方法の2点に分けて分析を進めていく。
【第4章 集合住宅の分析と考察】
4.1. 教会建築の形態での分類
集合住宅の分析対象は、図2を参考にして教会建築の形態から図3のように分類できる。尚、赤で着色したものは小規模なものを示す。
4.2.平断面計画
共用部の形として「階段室型」「長屋型」「中廊下型」もしくは、複合型がみられる。また住戸プランとして、フラット(F)プラン・メゾネット(M)プランもしくは複合型がみられる。共用部と住戸プランの組み合せより、図4のように分類される。
以上より、平面的には分棟型を用いること、断面的にはメゾネットプランを活用することで計画に自由が利き、形態の分類にとらわれない計画が可能になっていると考えられる。また、長屋型を用いてアプローチを分散させることは、既存躯体があるコンバージョンにおいて、共用部を省略して空間を有効に活用するための解法だと考えられる。
4.3.特徴的部位のコンバージョン方法
4.3.1.塔
塔をもつ分析対象において、塔は全て正面入口の脇に計画されており双塔と単塔がみられ、図5のように分類された。既存の名残から階段に活用する例があることは必然的であり、一方で既存にとらわれずに生活空間に活用する例もみられた。
4.3.2.開口部
特徴的な開口部である「円窓」「尖塔窓」「ランセット窓」と用途の組み合せを抽出したうえで開口部と床・壁との取り合いをみる。既存開口部のコンバージョン方法は一層分で活用する「一般型」、複数階にまたがる「吹抜型」、床・壁により開口部を分割する「分割型」、開口部を埋める「埋没型」がみられた。また、「吹抜型」のなかでは、採光や通風のみを目的とし最低限の隙間を設けているものもあった。
図6より以下3点が確認できる。
①大規模な開口部で最も多くみられたのは分断型である。
②吹抜型は尖塔窓・ランセット窓をldk・共用部に活用する場合に主にみられる。
③ランセット窓・円窓の小規模な開口部は一般型が多い。
以上より、平面方向での空間分割においては既存の開口部への配慮はみられるが、断面方向においては自由に分割する例が多く見られた。以上から断面計画において開口部との取り合いは然程重視されていないことが分かる。また、上層階への採光のため屋根面に新たな開口部を設ける例が多々見られた。(図7)
4.3.3.外部空間
教会建築のコンバージョンでは外観の維持が求められるためバルコニー等の外部空間の増設が難しい。共用庭は設置可能だが、専用庭の設置が困難であると考えられる。分析により専用庭の設置方法は「テラス型」「バルコニー型」「カントリーヤード型」がみられ図8のように分析された。基本的には接地階の外部空間を活用しつつ2層以上での外部空間には減築・増築で対応しているが2層以上での外部空間は少なく、接地階の住戸のみ外部空間がある物件が多い。また特異な例として、駐車場を敷地外や教会内部に設置するものがみられた。
【第5章 一戸建住宅の分析と考察】
(保留)
【第6章 結論と展望】
6.1.予想される結論
・メリットは特徴的部位の存在により教会居住という付加価値を認識できること、デメリットはメゾネットプラン等によりバ リアフリーではないことや外部空間をもちにくいことが挙げられる。
・前後用途間の親和性の低いコンバージョンに応用可能な手法としては、分棟構成による複数用途の配置の方法や開口部にとらわれない自由な平断面計画が挙げられる。
6.2.展望
・本研究では現段階で図面が入手できたものを扱ったがより物件数を増やした分析が可能である。
・設計論・計画論以外の側面からの分析も可能である。
・他国においての分析、またそれらとの比較も可能である。
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以上が前期の成果である。
特徴的部位の考察においてより細かな分析が必要である考えられる。また、第5章の一戸建住宅の分析を早急に進めていきたいと思う。