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(仮)ルイス・バラガンの住宅作品における空間の素材感の研究

1.序論

1−1.研究の目的と背景

 人が空間を体験するとき、そのデザインや配置よりも、触感や素材感が記憶や感覚に鮮明に残っていることが多いように感じる。素材感や触感など、手触りのあるものから空間を見つめ直してゆく研究を通して、人の感覚や記憶に近い空間を捉えることができるのではないかと思う。ルイス・バラガン(以下バラガンと記す)は、インターナショナル建築に見られる、素材の統一化を否定し、その建築はシンプルで綿密で感覚的で、その素材と色彩が持つ情緒的な特性は、図面からは決して解らないと言われている。このように、素朴で独特のテクスチャを醸し出し、感覚的で情緒的な空間を作り出すバラガンの住宅作品を本研究の対象とする。

 

1−2.研究の方法

 バラガンの住宅作品の中で、“バラガン自邸”、“ヒラルディ邸”、“プリエト邸”を研究対象とし、この3作品に使用されている素材やテクスチャを文献や写真から分析し、断面図に記録する。その分析をもとに、素材が空間に与えている影響を考察する。

 

 

2.素材について

2−1.メキシコの土着性とバラガンの使う素材

 バラガンの独特のテクスチャは、少年時代を過ごしたミチョアカン州のマサミトゥラという小さな田舎の村や、メキシコでの小さな村や古い廃墟を訪ねる旅に大きな影響を受けている。そこでは、土地の石が床や外壁に使われ、木も石もあるがままに、素材感そのものを剥き出しに使われていた。たびたび使われる白いモルタルの壁やラフで黒い溶岩は、古いメキシコの建築に見られるものである。

2−2.素材の種類

 主に使われている素材は、モルタル・溶岩・タイル・木(主に松)・ガラス・水など、どこにでもある素材が使われた。主に壁の素材は2種類で、1つは煉瓦積みの駆体に豆砂利モルタルを施し、生乾きのときに定規で豆砂利を掻き落とし、平らにして塗装している、いわばザラザラとしたテクスチャの壁。もうひとつは、一般的なツルツルのモルタルの上にペンキを塗った壁である。

 

3.素材の分析

3−1.バラガン自邸

 玄関アプローチの床は黒い溶岩で、それがそのまま玄関ホールの床まで続き、階段も同じ黒い溶岩を積み上げて作られている。玄関ホールの壁は階段側が白いモルタルで、反対側はピンク色のモルタルで出来ており、階段の踊り場からの光によって、色のグラデーションができており、時間によってこの場所の色は変化する。書斎からリビングルームまで天井は木の小梁天井で、おおらかな吹き抜けになっている。リビングルームの壁は荒いテクスチャの白壁。2階東南角のゲトルームは壁・天井ともになめらかな白。床は木。西側のバラガンのベッドルームも天井と壁はなめらかな白になっている。

 

3−2.ヒラルディ邸

 玄関扉は松。ノブなど扉らしい要素を切り捨てたデザインで、松の素材感を全面に押し出している。吹き抜けの階段ホールの先にある廊下は、中庭にむけた壁のスリットに、黄色いガラスが嵌め込まれている。これは、ステンドグラスではなく、スリガラスに黄色のペイントを点画のように塗っている。他の壁や天井は豆砂利を入れた白いモルタルが使われているが、黄色いガラスを通した光が白い壁と天井を染め上げている。床は玄関ホールから続くなめらかな木のタイルで、黄色の光が鏡面のように映り込む。ダイニングルームのプールは、ハイサイドライトのある壁だけ他より薄く、青く塗り分けられている。ダイニングルームのテーブルの奥の白い壁は、平滑な仕上げとし他とテクスチャを変えている。1階から3階まで続く階段は、松板にウレタン仕上げ。キッチンとバスルームの壁には黄色いタイルが使われている

3−3.プリエト邸

 火山岩に覆われた荒れ地を開発するところからはじまった住宅。掘り出した溶岩を塀や壁に利用している。分厚い木のテーブルや棚、厚手の木綿布のソファやクッション、アマーテという手漉き紙によるランプシェードなど、メキシコの質感が細部まで行き渡っている。

 

4.考察

4−1.部屋と素材

 バラガンは、セパレーションのないテクスチャを嫌っていた。そのため多くは、天井や屋根の仕上げは壁とは異なるものにしている。階段室の素材は特徴的で、こだわりを持っている。

4−2.光と素材

 3−2のヒラルディ邸では、ダイニングルームで光との関係が見られる。ハイサイドライトからの光が、壁の荒いテクスチャを際立たせ、その斜光はプールに落ちると揺れるという、シンプルだがドラマチックな効果を素材によって演出している。また、3−1のバラガン自邸では、同じ部屋でも壁の色を塗り分ける手法が、窓のある部屋でなされており、それは時間によって部屋全体を満たす光の色を変えるという効果をうんでいる。

4−3.シークエンスと素材

 玄関アプローチから玄関ホール、そして部屋までの素材は、だんだんと外からの気分と変わっていくように、シークエンスが感じられる素材の選定をしている。

5.総括

 バラガンは、多様な素材を使うのでも、特別な素材を使うのでもない。どこにでもある素材で、テクスチャの粗さや色、厚さなどで、繊細な内部空間を作り出していることが解る。

 

 

 

 

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