研究の途中経過を報告します。
1.序章
1.1-3.研究の背景・目的・位置付け
建築家ルイス・バラガンは水面や光を大胆に取り入れた明るい色の壁面が特徴的な住宅を多く設計したことで知られる。バラガンは初期に画家であり造園家であるフェルディナン・バックから強い影響を受けたと言われおり、この点からもバラガンが庭を強く意識していたことがわかる。しかしバラガンはバックの作品のどういった点から影響を受け、自身の作品にどう展開させていったかは明らかにされていない。また、これまで木村の論文ではバラガンの絵画的な空間を、写真をもとに理論的に分析し、矢田の論文では空間が複数の層により構成されていることを明らかにしたが、これらは対象を建築に絞っており、庭を含めた空間構成について分析を行うには至っていない。これらの背景から本研究の目的を
①バラガンがバックから受けた具体的な影響とバラガンによる作品への展開を明らかにする
②庭と建築を包括した空間構成手法を明らかにする
の二つとし、分析を進める。
2.フェルディナン・バック著「魅惑の庭園」におけるスケッチの基礎分析
2章ではバラガンが初期に影響を受けたと言われる造園家フェルディナン・バック著「魅惑の庭園」全36枚のスケッチを、図法・構成要素・層構成の3つの視点から分析を行う。スケッチには門の装飾、長い水盤、生垣のアーチなど特徴的な構成要素が共通して描かれている。この装飾はスペインイスラーム式庭園、イギリス式庭園、イタリアルネサンス式庭園に用いられていたもので、バックはこれらの庭園様式から影響を受けていたと考えられる。
また、スケッチ1枚1枚をレイヤ分けすると、大きく5つの構成パターンに分類される。1)オブジェクト→壁、2)オブジェクト→アーチ→オブジェクト、3)オブジェクト→アーチ→壁、4)オブジェクト→アーチ→オブジェクト→アーチ→壁、5)アーチ→アーチ→アーチ
これらの分析をもとにバラガンの作品を見ると、初期の作品にいくつかの共通点が見られる。まずバックのスケッチに描かれる門の装飾、長い水盤、瓦などの構成要素と類似したものがバラガン初期作品のルナ邸、クリスト邸、レオン邸、フランコ邸に用いられている。また層構成において、クリスト邸の中庭ではオブジェクト→アーチ→オブジェクト→アーチ→壁と配置されており、これはバックの層構成(4)と一致している。このことからバラガンは初期にバックのスケッチをそのまま自身の作品に表現していたと考えられる。
3.層構成
3章ではバラガン作品の層構成について分析する。
[1]平面
平面図をもとに壁・段差によって分けられた領域をダイアグラム化し、空間の重なりと性格を分析していく。初期から後期までの平面ダイアグラムを見ると、初期のグアダラハラの作品は庭と建築は異なった平面構成であったが、オルテガ邸から後期までの作品は庭も建築と同様、細かい領域に分割されていることが分かった。分割された領域は樹木や床仕上げによってそれぞれに異なった性格を持っている。そして平面上のいくつかの地点から、これらの領域の重なりが強調された景観が見られる。
[2]レイヤの境界の性格と配置
平面の分析では空間が細かい領域に分割され、それらが層状に重なっていることが明らかになったが、領域を分割する境界の性格を、アイソメトリックを作成し分析していく。
4.予想される結論
①バラガンは初期にバックの作品に触れたことによって、構成要素・層構成という点から影響を受け、後期に構成要素は抽象化され層構成のみが残った。
②バラガンは中期の作品から、庭も壁や高低差を用いることによって建築と同様に空間を分断していた。また多層構成において、庭と建築の層をそれぞれ組み合わせて空間を構成していた。これらのことから、バラガンは建築と庭を等価に扱い設計していたと考えられる。