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多様な集団規模の共存と異世代交流に配慮した子ども施設の研究 ―杉並区西荻窪における複合型認定こども園の設計―

背景と目的

近年、都市部では多くの待機児童の存在が問題となっており、需要の増加にともない子ども施設注)数は増加している。設置場所は従来一般的であった住宅街のなかだけでなく、駅の近くや商業施設にも認証保育所のような子ども施設ができるようになった。これにより、保護者に対しての利便性が向上した。駅の近くだけでなく、住宅街に建つ子ども施設においても他の施設と複合しているものが多く見られるようになった。
また、福祉や教育系の施設を併設した複合型子ども施設では、相互の施設利用や異年齢交流の機会を持つことができる。さらに、保育時間の延長や一時保育などのサービスを行う施設が出現し、保護者の様々なニーズに対応することもできるようになった。今後、拡充される動きにある認定こども園では、地域における子育て支援を行う機能を満たすことが施設の認定条件となっており、サービスを介して施設の一部を地域へ開放する流れにある。
しかし、このような子ども施設の設置場所の変化、複合化、多様なサービスの付加により、利点だけでなく欠点も生じた。他の施設の一区画に設置された認証保育所では、建物の形態的な不満が生じることがある。それは、子ども施設が設置されることを前提に建物自体が造られていないために、天井高の不足や太い柱が室内に現れるといったことである。さらに、独自の外観や子ども施設としてのアイデンティティの欠如も問題である。他施設と複合した子ども施設では、防犯や騒音対策といった管理面での困難も生じている。異なる保育時間の子どもが混在する認定こども園などの施設では、常に集団の規模や構成が変化する。新たな制度やサービスが出現するなかで、集団の変化に柔軟に対応するための子ども施設についての建築計画は未だ不十分である。
以上から、保護者の利便性を考慮しつつ形態的不満を解消し、個々の施設の建ち方について考えること、防犯や騒音の問題を解消するとともに異年齢交流を行うこと、集団規模や体格差の変化を考慮した空間について研究を行い、それらをもとに設計提案を行うことにより、今後の子ども施設の一つのあり方を示すことを本研究の目的とする。

研究対象と方法

事例分析を中心とした考察と保育現場の調査を行う。事例分析では建物の形態についての考察を主に行う。調査では幼保一体型施設を訪れ、活動と設えや空間について観察し、各園の図面の収集・作成を行う。複合形態や規模、建物構成において異なる複数の施設を調査対象とする。

結論

_論文編
まず、子ども施設の現状についての知見を得るために、各施設の設置基準や認定こども園についての情報を整理した。子ども施設の種類ごとに施設基準を比較した。その結果、施設の種類によって保育室や屋外遊技場などの面積の差が生じていることが分かった。認定こども園は今後増加すると思われる種類の子ども施設である。認定こども園の施設基準は、幼稚園と保育所の基準において詳細に規定されている方を項目ごと採用していると言える。したがって、認定こども園は、設計からの視点において最も施設基準が厳しい子ども施設である。認定こども園についてのより深い知見を得るために、幼保連携型、幼稚園型、保育所型、地方裁量型の4種別の運営方法と対象となる子どもについて調査し表にまとめた。これにより、認定こども園として認定された子ども施設が、幼稚園や保育所といった元の施設を認定こども園として転用する場合があると分かった。
複合型子ども施設事例の分析では、複合型の子ども施設の事例を対象として、立地と建物形態、配置と建物形態、管理と交流に着目し分析を行った。そして、設計提案で考慮すべき項目を得ることができた。
調査では、子ども施設を実際に訪れ、管理と交流の方法、集団規模の変化について調査した。そして、元は認定こども園でない施設を認定こども園へ転用させている調査施設では、集団規模の変化やそれに伴う保育に対応しにくい状況であった。さらに、基準を適用させた施設が子どもの自由な活動を制限している場面も存在した。一日のなかで活動や人数に合わせて家具の移動を頻繁に行っており、作り替え続けることのできる保育室の空間が必要であることが明らかとなった。他施設と複合している子ども施設では、防犯に対して敏感になっており、他施設間の自由なアクセスは難しい状況であった。しかし、一部の機能を開放している例が、小学校の校庭や子育て支援機能の空間において見ることができた。

_設計編
論文編から得た問題点を解決するために「3つの共有」というコンセプトを骨組みに据えた。これは、敷地、機能、空間の共有である。本計画では、様々な共有スペースを配置し、共有の段階をつけることにより、複合することによる交流の機会が向上する施設となった。

課題と展望

本提案において、防犯性の立証が完全でない点が課題である。防犯性を確立しつつ交流を持つことのできる複合型子ども施設を計画するにあたり、さらに多くの事例を分析する必要があると感じた。しかし、複合型子ども施設事例、また認定こども園の事例は、純粋な保育所や幼稚園と比較すると未だ少ないため本研究で取り上げた数では分析が不十分であると感じる。そのため、今後、これらの施設が増加していくなかで、新たに分析対象事例に加えることでより有用性の高い知見を得ることが可能である。

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