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豊洲新市場計画 -間伐小径材を用いたサステナブルな卸売市場の設計-

研究の目的と背景
背景
築地市場が豊洲へ移転することが決定した。その背景には施設の老朽化、スペースの不足などがある。こうした中で、築地市場は仲卸市場に天井をはることで2階を物置として利用したり、一時的に屋外に商品を放置したりとした建物を拡張するための対応がなされてきた。社会背景の変化などから市場のあり方が変化する中で、市場が移転しても将来的に必要規模が変化し、同様の問題が生じることが考えられる。こうした変化に対応するため、解体や増減築を考慮した設計をすることが望ましいが、現状の豊洲新市場の計画ではこうした変化に対応した計画となっていない。
一方、近年木造建築への注目が高まっている。木は「環境に優しい資源」であり、加工が容易なため建物を解体した後に利用の間口が広いなどの様々な利点がある。現在計画中の豊洲新市場の課題を解決する手段として木を使い、解体や増減築が可能な豊洲新市場の計画が可能ではないか。

目的
以上の問題意識から本研究の目的を以下の4点とする。
1.現豊洲新市場計画に対し、現在の時代背景やニーズを踏まえた新しい豊洲新市場を提案し、今後の卸売市場の計画に寄与するものとする。
2.木による解体、増減築を考慮したフレキシブルな卸売市場の在り方を提示する。
3.都市型の大規模木造建築の可能性を探り、具体的な空間像の一つを提案する。
4.環境配慮型の卸売市場の在り方を提示する。

研究対象、手法
研究編では卸売市場を設計する際の課題や留意点を明らかにするものとして築地市場、豊洲新市場を含む国内の卸売市場を対象に図面、または現地訪問による調査をおこなう。また、全体構成や接合部の構成に着目し、木造建築の事例を収集し、図面や写真等で分析を行う。設計編では研究編で得られた知見をもとに設計案を提示する。

研究編の総括
豊洲新市場は解体、増改築に対応した計画となっておらず改善の必要があることおよび、卸売市場の空間的な問題点も明らかになった。設計編では広大な敷地を活かし、「平屋型」を採用し採光を十分に確保するとともに、配管の処理といった空間的課題を解決しつつ、解体と増改築に対応した卸売市場の提案が求められる。また、木材は雨を防ぎ、風通しのよい計画とするとともに解体後の木材の利用方法を考慮した計画が必要とされる。

4.設計提案
4-1.敷地の概要
現在、計画が進行中である豊洲新市場計画の対象敷地である豊洲6丁目を計画の対象敷地として選定した。また、敷地は新たに市場前駅が整備され、環状2号線および補助315号線の開通計画が進行中であるため、都心部から臨海部へのアクセシビリティが向上し、多くの観光客が新市場を訪れることが予測される。観光客のもてなしや市場内の車、人の動線計画を考慮した豊洲新市場計画が望まれる。
所在地:東京都江東区豊洲6丁目
敷地面積:40,700㎡
延べ床面積:40,800㎡
構造:S造一部RC造、SRC造
取扱品目:青果物、水産物

設計提案

市場の増減築
事務スペースや機械室、EV等を複層の建物として一つにまとめ、 鉄骨またはRC造で構成する。一方、卸売場、仲卸売場は木造の平屋で構成する。木造部分を解体造減築に対応した構成で設計することで、市場規模の増減に対応するとともに明るい売り場空間を実現できる。また、卸売市場を東西に延び縮みするような構成をとり、事務棟や冷蔵庫棟をそれに沿って東西に延びる計画とした。この構成により市場の必要規模が増加した際に北東の空地を延びた市場が利用できることを考えた。

0207 修士木組 増減ダイヤグラム

木造ユニットによる解体と増減築
木をユニット化することで解体や増減築に対してフレキシブルに対応できる構成を考えた。ユニットの木組みはすべて100角の間伐材を束ねて構成しており、14560×3640mmの木組み格子の天井と高さ7280mmの柱をユニットを組み合わせて全体を作っている。これらはトラックによって運搬可能な大きさとなっており、工場で組み立てて現場に運ぶことで施工の簡易化をした。また、照明器具や配管は天井裏や柱の間に隠すことができ、課題であった市場の無機質な空間を解消できると考えた。接合部はボルトとナットで締めて固定する。その際、木材に加工をしてくぼみを作り、ボルトとナットが表面に現れない表現をした。

0207 修士木組 ダイヤグラム1227 修士木組詳細 平断面

環境計画
売り場の空間は採光を多く取り入れ、日中は照明器具を用いずに作業が可能な計画とする。木のユニットは解体後、ランドスケープ上にデッキや家具として利用されることや、加工して木質チップやバイオエタノールに利用されることを想定している。

卸売場市場屋内イメージ

結論
研究編における成果は以下の3つである。
1)築地市場の歴史、変遷を追うとともに豊洲新市場の計画を図面による分析を行うことで豊洲新市場に求められる建築的な改善点を明らかにしたこと。
2)文献が乏しい卸売市場を可能な限り現地調査、図面収集等によって分析することで卸売市場の建築的特徴、卸売市場が抱える問題を明らかにしたこと。
3)木造の小部材と仮設建築における空間、接合部等を分析することでそれらの構法的特徴を明らかにしたこと。
上記を踏まえ、設計編における成果は以下の2つである。
1)木造による解体、増改築可能な次世代型の卸売市場を設計したことで、今後の卸売市場の計画に寄与する提案ができたこと。
2)都市型の大規模木造建築の在り方および、空間像を提示したこと。
課題と展望
課題としては本研究の敷地が豊洲6丁目という広大な土地に対しての計画であったこと、また水産物と青果物を取り扱う卸売市場であることを考慮し、調査対象を意図的に限定したことが挙げられる。次世代型の卸売市場の提案として、より多くの卸売市場、とりわけ海外の卸売市場を収集し分析することが求められる。また、大規模木造による空間が装飾的な表現にとどまっており、木造建築の空間と構造の関係性についてより技術的視点での提案が求められる。木の構造や環境性についてのより深い分析と考察に加え、それらを計画にフィードバックすることが課題として残った。
しかし、木造による解体、増改築可能な卸売市場という新しい考えの提案によって卸売市場を環境的、空間的な視点から見直すきっかけを作れたと思われる。今後の卸売市場の計画の発展に本計画が少なからず寄与することを期待する。

◆最終成果物

ボード 

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