修士2年の川上です。修士研究の途中経過を報告致します。
1.研究背景
近年SNS及び写真投稿サイトは人々の日常の一部となり、観光情報の発信手段にも使われるなど、日々大量の都市の写真が投稿されており、都市のイメージ形成に強く影響していると考えられる。
写真というメディアによる都市のイメージ形成に関する議論は飯沢耕太郎や田中純などにより多く行われており、写真には都市の本質が現れていると考えられる。しかし同時に、SNSが発達し写真のために着飾る現代の都市というのは、写真のみで記述することはできないのではないか。
本研究では、SNS及び写真投稿サイトの写真が都市の何を表象しているのか考察し、実の都市とのズレを分析することで、写真に隠された都市構造を解明すると同時に実の都市を再解釈することを試みる。現在、SNS及び写真投稿サイトに投稿された写真について写真論の観点から議論されたものはあるが、それを応用し実の都市に置き換えて論じたものはない。
2.仮説
都市の三重化と虚像都市の前景化 三重化の偏りによる都市の個性付け
近代以降、写真による都市の二重性に関する議論は多く行われてきた。
写真の対象物は、撮影されることで時間が固定化される。それが現像され人の目に触れた時、固定化されたある時点の過去が現前し時間の錯乱が起きる(以下、アナクロニー化と記す)。それと共に、C.S.パースやロラン・バルトが述べた写真のインデックス性(物理的結びつきのある記号)によって過去が現実に重ね合わされ(磯崎新のいう「回顧的投射」)、都市を二重化していたと考えられる。(ここで発生しておいる都市はインデックスとしての都市)
しかし写真のデジタル化が進み現像時間が消えたことで、前川が述べるように写真が持つインデックス性の直示性が変化し、写真は“かつて“ではなく今に限りなく近い“いま“を示すことが可能になった。そして現代ではさらに、この“いま“を投稿でき閲覧・一覧できるSNSが普及した。これにより、実時間とほぼ同時進行で実態を持たないサイバー空間内の都市(以下、虚像としての都市と呼ぶ)が生まれる。この虚像としての都市は実都市に影響を与えており相互に影響し合っていると考える。(虚像としての都市の実態)
以上から現代では、実都市、インデックスとしての都市、虚像としての都市の3つの都市が絡み合い、都市が三重化しているのではないかと考えられる。
またこの虚像としての都市においてイメージが飽和状態を超えることから新たな写真が生まれる現象がある。このことから人々の都市のイメージにおいて虚像としての都市が前景化しているといえるのではないか。
このように現代は、近代とは異なる都市の重層化が起きていると考えられ、単なる記号都市から虚像のイメージ都市へと変容したと言える。都市ごとにも異なる重層化が起きておりこの違いが都市を性格付けていると推測する。
3.目的
①SNS及び写真投稿サイト上の写真と実空間のズレ(写真が拾いきれないもの)の分析から都市が三重化していることを明らかにする。 (都市の無意識の発見)
②写真の発生過程の分類 (例えばインスタ映え写真は虚像としての都市に実都市がすり寄って生まれた等)を行い、実都市と虚像としての都市の相互関係の分析から虚像としての都市におけるイメージの飽和状態を明らかにし、虚像としての都市の前景化を探る。
③写真に映されているもの(人が切り取ったもの)や視点場を分析し、重層化する3つの都市の偏りや虚像としての都市の形成方法を都市ごとに見ていくことで、SNS及び写真投稿サイトによって発生するそれぞれの都市像の正体を探り、都市の個性を明らかにすると共に実の都市の再解釈を試みる。
4.既往研究
SNS及び写真投稿サイトにみられる都市の写真に関する研究として、矢口らによる研究2や) 福田らによる研究3)などのように、都市のイメージ構造の顕在化に着目した研究は蓄積が見られる。当たり前として捉えている領域が、写真分析(写されているものや視点場の位置)によって異なる領域形成を示すことで都市の無意識を明らかにしている。
また、SNS及び写真投稿サイトに投稿された写真について『インスタグラムと現代視覚文化』においてレフマノヴィッチらは写真論の観点から議論している。(集団的な写真表現、撮影価値基準変容、インデックス性の変容、インスタフラムが写真界にもたらした影響)しかし、それを応用し実の都市に置き換えて論じたものはない。
本研究は、写真論を都市論に展開することで実の都市の再解釈を試みる。
5.研究方法・対象
対象とする写真:Instagramの#写真
対象とする都市:頻繁に写真に写され共有されイメージの反復が行われている場所として、浅草・渋谷・新宿・丸ノ内・上野とする。
Instagramでの具体的な写真の抜粋方法:三重化の分析は人気投稿が並ぶ[トップ]から自由に抜粋する。都市(マクロ)分析は時系列に投稿が並ぶ[最近]の2020年7月〜9月の写真を全て抜き取る予定である。
6.分析
現在、都市別分析と三重都市分析を進めている。
都市別分析
被写体(人/建物その他)・撮影者(一般観光客/観光案内/写真家/写真家もどき/外国人)・何を示そうとしているか(写真技術/自己/定番な都市らしさ/都市再発見)
三重都市分析
虚像としての都市と飽和状態超えを分類
7.予想される結論
①現代の都市はSNS及び写真投稿サイトの写真によって三重化している。
②現代の都市において虚像が前景化している。
③ 三重化する3つの都市のバランスの違いが都市の違いを決定付けている。
④東京は虚の都市像と実の都市像が複雑に絡み合っている都市である。(回顧的投射が頻繁にされるまちもそうでないまちも内蔵されているのが東京である)