You are here: Home // コンピューテーショナルデザイン // コンピュテーショナルデザインによる新しいジオメトリーの研究

コンピュテーショナルデザインによる新しいジオメトリーの研究

B4川原です。前期ではコンピュテーショナルデザインによる建築を対象に、新しいジオメトリーの可能性を探る研究を行ってきました。以下まとめです。

 

 

 

0 序

0.1 研究の背景と目的

コンピューター技術の発展とともに建築設計の手法は幅が広がり、それ以前にはなかった様々な形態が生まれるようになった。建築設計の過程においてコンピューターを用いることにより、今までは手計算であったり、模型による実験であったり、あるいは感覚的なものにより行われていた構造計算や環境負荷のシミュレーションなどが行えるため、それに伴うデザインをしたり、すでに別のツールでデザインしたものに構造計算や環境負荷などの解析にかけ安全性を確認するなど、デジタルツールも使われ方は様々であるが、コンピューターによる設計デザインによって今までにはない新たな、そしてより複雑なジオメトリーが生成されている。これはコンピューターを全く使っていなかった時代とは設計デザインのプロセスが根本的に違うためである。ゆえに本研究ではそのプロセスに着目し、デジタルツールをどのように使うことでどのような形態が生まれていくのかを研究する。

また、このようなデジタルツールを用いた設計は発展途上であり、デザインの際にまだ身近な手法となっていない。しかし、コンピューターを使って図面を書くことが当たり前となった今、こういったデジタルツールを使えない、使わないというのはデザインの幅を狭めることであり、設計者としてやっていけないことだと思う。よって、今回この研究を行うことでコンピュテーショナルデザインの可能性を知り、これからの建築デザインの可能性を探ることを目的とする。

 

0.2 コンピューテーショナルデザインの意義

20世紀に代表されるル・コルビュジエや、ミース・ファン・デル・ローエなどは、純粋幾何学での表現で近代建築の代表作をいくつも生んできた。しかし、21世紀を迎える頃にはすでに純粋幾何学の限界を迎え、そこから新しい幾何学というものをどう定義するのかという問題が浮上した。

これと同時にコンピューター技術が発展した。1960年代からCADが普及し建築設計もその影響を大きく受けた。コンピューターにより設計者の負担は減り、三次元曲面などの手作業ではとてもできないような形が生み出されるようになった。このようなデジタルツールは設計にどのように用いるかによって生まれる形も異なっている。

このように、手作業でできないような形が生み出され新しい幾何学をどう定義するかという問題に対する解答の一つとしてジェネティック・アルゴリズムによってコントロールする考えが生まれた。より複雑でより多様なものが求められている現代において、アルゴリズムによる解決は非常に合理的であり、また今までにない魅力的な建築を生み出しつつある。また、この一見複雑多様なジオメトリーはとてもシンプルなルールから生まれており、そのルールというのは数学的で論理的な幾何学から作られている。生命体の論理やフラクタルを用いた有機的建築といわれるものは昔からあるが、それをデジタルツールに組み込むことでより複雑で今までには生まれ得なかった幾何学の可能性を見出し、新しいジオメトリーを生み出しているのである。

よって、本研究ではコンピュテーショナルデザインによる建築を対象とし、デジタルツールのもたらした設計プロセスの違い、それに伴う形態の発生方法の違い、そして形態を構成するアルゴリズムに着目して分析することでその可能性探る。

 

 

1 デジタルツールによる図面のデータ化

1.1 3次元曲面

コンピューターを使って設計するようになり生まれてきたのが三次元曲面である。そのわかりやすい例として、フランク・ゲーリー設計のグッゲンハイム美術館ビルバオがあげられる。(図1.1)この象徴的な3次元曲面はデジタルツールを用いたからこそ実現できたものであるが、ゲーリーはデジタルツールを複雑な形を生み出すものではなく、現場の職人たちと直接的なつながりをとるために用いている。模型を3Dスキャンすることによる3Dモデルを媒介とした生産体制は、二次元の図面から読み取るという作業が要らず材の切り出しや加工も把握しやすく効率的である。また、見積もりと設計が同時進行できるためコストの問題を事前に予防できる。このように設計から施工までのプロセスを一括して行うことで複雑な形態を実現する際のコストや施工時の困難を小さくしている。ゲーリー自身はコンピューターは曲線を捉える道具だと考えているため、曲線の生み出し方としてはスケッチや模型など感性に基づいており、その実現のためにデジタルツールが用いられている。

図1.1 3次元曲面の実現

1.2 模型での実験と並行する解析

ワークステーションによる「芦北町資源活用総合交流促進施設」は、地域交流のスポーツやイベントを行うドームの木造シェルを懸垂模型の利用によって構造的に有利な形態を発見している。(図1.2)懸垂模型のよる実験を行うことでこのような不整形な平面に対し合理的な屋根形状を見つけることができる。

この建物では風洞実験なども行っており、模型での実体験的な結果と、コンピューターによる数値的な確認が繰り返し行われて建物形状が決定されていった。編み目の交差部分も集成材の強度実験を行ったり、学生たちの協力によるモックアップを行ったり、設計者の目で確認しつつ、デジタルツールを物理的な問題を解決し確認するための手段として用いた例である。

図1.2 木造シェルの屋根

 

1.3 論考

このような例は設計の本質というより施工性を上げるため、人に伝えやすくするため、表現の手段のためにデジタルツールを用いているのでコンピューテーショナルデザインによる新しいジオメトリーとは言えない。しかし、解析を行うなどのデジタルツールのこのような側面は、これだけで新しいジオメトリーを生み出すことにつながらないが、この技術の発達が与えた可能性は少なからずあるだろう。

 

 

2 デジタルツールによって生み出されるジオメトリー

2.1 デジタルツールのシミュレーションによる可能性

コンピューテーショナルデザインを用いた設計の特徴の一つにシミュレーションを行えるというこがあげられる。その例には、アレハンドロ・ザエラ・ポロ&ファッシド・ムサヴィ設計の横浜港大桟橋国際客船ターミナルがあげられる。(図2.1)この作品はすべての過程においてデジタルツールを用い、設計過程のほとんどがパーソナルコンピューター上のシミュレーションで行われた。建物内部で起こる人々の行動や、都市の地表面との連続したフロア面、鉄板で構成される構造システムなど、異なるシステム同士を組み合わせて思考する手段としてデジタルツールが用いられているのである。提案当初は二枚の鉄板によるカードボード構造で建物全体が滑らかな曲面で構成される予定であったが、実際の構造や施工上の問題から折板構造へと変更せざるを得なかった。この建物は施工段階でも設計者が関わっており、デジタルツールを用いることで情報を共有しそれぞれの技術を設計にフィードバックしている。しかし、これが部材生産の段階では上手くいかずに各職人の技術で生産しなければいけなかった。複雑な曲面を用いるために用いたデジタルツールであったが、施工・生産への移行には情報の適用がまだ不十分であると言える。

このようなデジタルツールの用い方は問題を解決し最適解を見つけ形作っていくある種のアルゴリズムから形成されている。しかし、これは設計者の意図や意匠的なコンセプトが根本にあり、シミュレーションをすることで構造や環境といった面での快適性を持ち合わせた合理的な形態に修正するといった意味合いで用いられている。このような例のシミュレーションによる形態操作というのは、設計デザインにおいてはあくまで修正する程度の影響であり、設計のプロセスにおける形態の発生段階においてデジタルツールを、アルゴリズムを用いることで新しいジオメトリーの可能性というものはもっと広がると考える。

図2.1 シミュレーションによるデザイン

 

2.2 デジタルツールによる形態発生

コンピューテーショナルデザインの成せる最も大きな特徴は、建築の形そのものをコンピューターが生み出すことで、人間の手だけでは生まれ得ない形が生まれることであろう。生み出すためのルールとしてアルゴリズムが用い、要求された課題を解決するような形態や構成を生成することで、目的を持ったデザインが生まれ、コンピューターでなければ把握しきれなかった幾何学の可能性を知り、設計者のデザインの幅を広げることとなる。また、今までは縦割り的だった構造、環境などの分野を統合した設計デザインが行えるため、より効率的で新たなジオメトリーを生み出すことができる。

このような設計手法の事例として、伊東豊雄設計の台中メトロポリタンオペラハウスがあげられる。この作品では一枚の連続する空間が全体を構成している。クルード・メッシュと呼ばれる多角形に単純化された形態を共通言語とし、二次元の図面だけではなく、三次元の立体モデルを利用した共通言語によって意匠、構造、設備、音響、照明などのあらゆる分野からの形態決定を行っている。クルード・メッシュを操作することでそれに基づくカテノイド曲面を生成し、形態を収束させていく。連続あるいは隣接する複数の三次元立体の相互関係を手作業で解くことは非常に困難であるが、コンピューターが行うことで可能にしている。

磯崎新設計のカタール国立コンベンションセンターもこのような形態発生をコンピューターで行っている。(図2.2)この建物は3D拡張ESO法という3次元構造物の形態そのものを生成する手法を使っている。フラットな屋根の鉛直荷重と二つの支点という情報を入力して、自動的に構造体を生成している。樹木の成長過程のような形態解析手法でより少ない材料で大スパンを支えるような形態をつくることができる。自然物の形態ではなく構成論理をまねしている点が従来の作品とは異なり、このような形態は人間の感覚だけではなかなか生まれない、コンピューターが可能にした形であると言える。こういったルールのもと発生した形態は、一見複雑ではあるもののどこか筋が通った、ある目的を持った形態が生まれるのであろう。

図2.2 樹木の生長過程のような形態

 

2.3 論考

アルゴリズムによる解決はある問題や要件を解決した形態が生まれるため、一見ランダムに複雑な形状であっても非常に合理的で論理的な形状をもたらすことがわかった。そして、同時にどの作品もデジタルツールと設計プロセスの関係についてまだ改善すべき点があり、コンピュテーショナルデザインというものがいまだ発展途上の現在進行形の分野であるということがうかがえる。

磯崎の自然の論理がもたらす豊かな複雑さを利用する考えは、目的を持った形態を生み出し、かつあらゆる面で合理的に解決し、かつコンピューターでしか生まれ得ない形態を得ることができるため、現代最も求められている新しいジオメトリーの目指すべき方向であるだろう。

これは、あらゆる形態が技術的に実現可能になり純粋幾何学を飛び越えた今、そのような形態をどうやって定義しながら用いるのかが問われているためである。そして、その定義というのは意匠的な面や構造的な面などひとつのことに偏らず、幅広い視野をもったアルゴリズムのより定義されていくことが求められているのであろう。

 

 

3 総括・展望
3.1 総括
 コンピューテーショナルデザインによる新しいジオメトリーというのは、人間の手では成し得なかった膨大なパターンの計算やシミュレーション、相互関係の解決策といったたくさんの要素を同時にこなすことのできる形態であり、設計者のデザインの幅が広がったのは言うまでもないだろう。条件が多ければ多いほど形態は複雑となり人間の感性だけでは生まれ得ないデザインが生まれることになった。これらの形態の生み出し方はこれからもっと需要が増え、その場その時の要件を解決する形態を生み出していくと考える。昨今の建築は不必要に均質化されているが、新しいジオメトリーはより豊かな複雑さをもってこれを解決してくれるであろう。
 新しいジオメトリーというのは今まで扱っていた純粋幾何学や目に見える自然の摂理が、コンピューターの手を介することによってあたかも見たこともないような複雑さへと変化した結果であると考える。ゆえに、この複雑さを生み出し管理する解決策のひとつとして現在アルゴリズムの考えが多く社会に受け入れ始めているのだろう。
3.2 展望
 本研究において、設計のプロセスに着目して考察したことは新しいジオメトリーの可能性を探る上できっかけとしては研究することができた。建築は設計段階だけの問題ではないので、施工段階など視野をもっと広げることでさらなる発見や、研究内容も深まるだろう。そして、最先端のために絶えず進化していくこの分野の研究は、さらなる発展が望まれる。
今回は本当に基礎研究といった内容になってしまい、論文としてまとめることがなかなか難しかった、そこまでしかできなかったのが悔やまれます。また、コンピューテーショナルデザインの不自由さについても同時に論じ、設計者としての感じ方をもっと論じれれば良かったかなと思います。しかし、この研究をやってみて得たものも少なからずあるので、これからの糧にしていきたいと思います。

 

 

 

Copyright © 2018 OKOLAB.net. All rights reserved.