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Glenn Murcuttの建築から読み取るサスティナブルデザイン ―自然をコントロールする環境装置―

B4の田中です。春学期研究発表の内容を投稿します。

キーワード:自然、環境装置、引用

第1章 序論

1.1.研究の背景
グレン・マーカットという建築家がいる。彼はプリツカー賞をはじめ、国内外の数々の受賞歴をもつ、現代建築界を代表する巨匠のひとりであり、現在もオーストラリアを中心に活動を行っている1969年に個人事務所を設立して以来、所員や秘書を置かず、コンピュータなどにも頼らず、設計に関わる行為を全て独力でこなすという姿勢を貫いており、個人住宅を中心に、プロジェクトを含めると500件近くもの設計を手掛けている。

その作品はオーストラリアの風土を見つめ続けた、サスティナビリティに富んだ住宅群に代表される。エアコンなどの設備機器に頼ることなく自然の通風をもたらすプランニングや換気口の配し方、光と影・風・害虫をうまくコントロールする精確な可動式ルーバーと網戸とガラス戸の3層の開口、水不足解消のための雨樋と雨水タンクなど、マーカットは自然の利用を考え、環境に配慮した独自のサスティナブル建築を作り続けていた。自然環境と対峙し、その恩恵を最大限に生かす工夫が彼の建築の細部から見て取れる。

世界的にその実力を認められている一方で、オーストラリアを限定としたローカルな活動に、設計の工程全てを一人でこなすそのスタイルに興味を抱いた。彼はどのような過程を辿り、今のサスティナブル建築を作り上げてきたのか。

1.2.研究の目的
・作品ごとの具体的な自然の取り込み方、手法の理解。
・時代の流れに伴う環境装置の変遷プロセスの明確化。
・環境装置の組み合わせることで得られるメリットの考察。

1.3.研究の位置づけ
ひとつひとつ建築を紹介する作品集は存在するが、全体を通して分析・分類し、コンテクストとの関係性や時代による形態、環境装置の変遷等を研究した文献は見当たらない。
よって本研究を通して、何かしらの知見を得られるものと考える。

第2章 研究概要

2.1.研究対象
『グレン・マーカットの建築』より13作品を選出。これらはマーカットの中でも代表的な建築であり、期間的にも1960年代~2000年代と幅広い年代を網羅している。

2.2.研究方法
コンテクストや環境装置と各建築との関係性、環境要素と環境装置との関係性などをそれぞれ整理し表にする。
表や図面、写真をもとに各環境装置の変遷プロセスを年表に分布させ考察する。

第3章 研究結果

3.1.屋根
屋根の形状は大きく【切妻、片流れ、V字】の三つに分類することができた。それらはそれ以前に建てられたものを引用し、新たに更新して使われているものが多く見られる。(図1,2)
小論発表-03 コピー
部位 変遷-01
複数の型を複合したサザンハイライド邸では、片流れによって時期に合った採光を確保しつつ、切妻のによって冷風を受け流し、厳しい環境に対抗している。

3.2.窓
窓でも屋根と同じく、以前に使われた手法を次の建築で引用・更新を繰り返していることが分布した年表から見て取れる。さらに全体的にはじめは単層で単純であったのものが、ルーバーを重ねたり他の手法と統合したりと層を厚くしており、時代の流れと共に「窓」の機能がより複合的なものへと変化を遂げている。(図3)

特に「更新」が顕著に見られるのは、マグニ―邸から使われはじめた【出窓】である。マグニ―邸では通風のための工夫として捉えられていたものが、ウォルシュ邸では机や椅子としても利用されており、【出窓】というひとつの環境装置が生活の一部にまで取り込まれている。

「複合化」というくくりにおいては、ルーウィン邸の窓にその特徴が表れている。トップライト、ハイサイドライト、出窓での要素をそれぞれ抽出し、住宅地という光の取りにくい環境下において、いかに採光を確保するかという工夫が見られる。他にもアートセンターでは、日よけや仕切り戸の収納として機能するブリーズ・ソレイユと開き戸が複合された多機能型の窓となっており、室内に多様性をもたらしている。

また【引き戸】に着目してみると、自然のコントロールしようとする試みがよく見られる。例として、1998年に施工されたシンプソン=リー邸では、ブラインド・網戸・ガラス戸の3層構成になっており、光や風をコントロールすることで内部環境のフレキシビリティを獲得している。さらに全ての窓を解放することで、リビングはより外部と一体的なテラスのような存在になり、窓を閉めているときとはまた違った暮らしを居住者に与えている。

部位 変遷-04

3.3.床
床は地面のレベルとフラットなもの、そして地面のレベルとは一致しない高床のものがあった。床を地面から浮かすことで、通風を促し、熱帯気候などの厳しい湿気に対抗している。また貯水池を設けることで、生活に必要な水を確保したり、反射光を利用して部屋の採光を確保する試みも見られる。(図4)

部位 変遷-02

3.4.配置
彼の建築の特徴の一つとして、細長く水平性が強調されたような形態が上げられるが、その配置の仕方は【東西方向、南北方向】の大きく2つにわかれる。多くの作品は東西方向に長いもので、北に一番高く日が昇るオーストラリアの気候に合わせた作りになっている。そしてその地域の気候や周辺環境に合わせて、配置の向きを変えたり、両面が外部に対して開いていたり、どちらか片方が開いていたりと構成の仕方に工夫が見られる。(図5)

例としてペイジ邸では、南側の眺望を取り入れるため、あえて北側を閉じて日のあたらない南側を開いている。シンプソン=リー邸では、西側からの冷風を遮り、東側の眺望えを確保するために向きを南北方向に配置している。

部位 変遷-03

第4章 結論

4.1.結論
マーカットの作り出す環境装置は、過去の作品から形態や特徴を引用・更新して次の作品に繋げることで様々な環境下において対応していた。その各部位はベースとなる形からコンテクストに合わせて変化し、居住者に自然と共存するような住環境を与えるための要素となっている。

そして彼の建築は、各部位のそれぞれのメリットが合わさることで、良好な住環境を手に入れている。例えばペイジ邸では、眺望のため南側を開放し北側を閉じているが、片流れによって生まれたハイサイドと出窓によって北側からでも必要な採光が確保でき、片流れの長い庇によってその量を季節に応じて調節しつつ、出窓により通風も確保している。これにより室内は明るく、ほどよい室温で、大自然を堪能できる眺望も獲得している。

このようにマーカットは、コンテクストに合わせて作られた各部位(環境装置)を集合させることで、自然と一体になったサスティナブルな建築を可能としているのではないだろうか。

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