0.はじめに
“かたち”はいかにして残り続けていくのか。都市において病的要素になりつつある強い“かたち”を残しながらその意味を書き換えることができたら、その“かたち”は都市にとって新たな価値を与えることができるのではないか。今回の卒業設計では、日本のモダニズム建築の傑作であり失敗作でもある大高正人設計の坂出人工土地、その根幹である人工地盤という強烈なストラクチャーのみを保存対象としたうえで、都市公園とアート施設へのコンバージョンを提案する。
1.背景
坂出人工土地は大高正人が設計し、1966~86年に4期に分け建設された住居、商店街、市民ホールなどが一体となった複合施設である。2階ほどの高さに約1万平方メートルの人工地盤を造り、その上に1~4階建ての市営住宅を建てた。人工地盤の下は商店街や駐車場となっており、人口増の時代、土地不足と、屋上権等の権利問題の解決、そして新しい生活環境を想像するために設計された建築で、DOCOMOMO JAPAN選定 日本におけるモダン・ムーブメントの建築に選出され、日本のモダニズムにおける傑作でもある。しかし現在になって坂出人工土地の空き家率は30%を超え、商店も空き店舗が増加し昼間はシャッター街と化している。大高正人によって構想された新しい生活空間のプラットホームとしての人工地盤は時代の変化によって取り残されているのではないかと考えた。
図1 坂出人工土地
図2 坂出人工土地 既存図面
2.思想
1960年代に考えられていたメタボリズムという思想は狭義では、中銀カプセルタワー等の新陳代謝を意味するものである。が広義でいえば変化する人口、変化する生活環境に対応する建築の創造であり、大高や槇は“群造形”と呼ばれる人間を中心とした成長の余地を残す為の都市構成や段階更新を目的とした思想の持ち主である。坂出人工土地で実現させようとした思想は人工地盤に現れており、機械化されていく都市に対して第二の地面を作り、土地不足に対する解答と人間的な都市を作ることを目的としている。
図3 坂出人工土地の思想 ダイアグラム
3.敷地
坂出市は瀬戸内海に面し、瀬戸大橋を渡り四国の入口として栄えるポテンシャルを持っていながら人口減少、高齢化、地方都市に見られるドーナツ現象が加速している街である。
敷地周辺には図書館・美術館・病院・市役所があり、市の中心地となっているが、駅前の商店街はシャッター街と化しており、坂出人工土地の衰退には坂出市そのものの衰退と大きく関係していることが分かる。香川県は近年アート県として2010年から始まった瀬戸内国際芸術祭をはじめとした瀬戸内海の島を舞台としたアートイベント等で盛り上がりをみせている。しかしそれが地方都市部まで反映されていないのが現状である。
図4.敷地周辺図
4.コンセプト
設計に入るうえで、人工地盤という強い“かたち”をいかに転用することができるのかを考えた。そして私は人工地盤というものを“生活空間を独立させる構築物”から“建築の地上と地下を分ける新たな境界面”と再定義し、人工地盤の上を新たな地上的な空間、下を見える地下的な空間と解釈する。GLのレベルが1つ上がることで地下的な空間が顕在化されると考え、普段地下にあるようなものが地上へ上がって来る。また、そのボリュームは人工地盤に依存するかたちで吊り下げられる。そして表として現れた裏の空間を開くことでより坂出人工土地という建築が親しみやすくなると考えた。人工地盤上は集合住宅という機能が失われ地上的空間として残る。そのうえで下へのボリュームへアクセスするための大きなロビー空間であり、都市公園に機能変換される。
図5 人工地盤の読み替え ダイアグラム
図6 操作
図6 平面図
5.プログラム
坂出人工土地は商業と公営住宅の複合施設だが、そのプログラムの組み合わせや、排他性を生み出しかねない人工地盤というかたちはコミュニティを内に閉じてしまう。
そこで近年盛り上がりを見せているアートに関するプログラムを考える。坂出人工土地でも瀬戸内芸術祭と連動を見せていないとはいえ小さなアートプロジェクトを発表しており、坂出人工土地をアート的の作品としてとらえる人も増えてきている。そこで、より外へ開きアートとの関係を近くするために美術館・工房・資料館を設計する。
その中で、四国にはその風土から屋外展示のアート作品が多く見られることを着眼点都市、坂出人工土地にシャウラガー美術館として、アート作品のアーカイブと展示を目的としたプログラムを与える。
図7.8 プログラムの考え方
6.パース
図9 鳥瞰
図10 収蔵庫
図11 ファブカフェと工房
図12 人工地盤上 収蔵庫と都市公園
図13 人工地盤上 都市公園