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アートプロジェクトにおける地域性の研究 ー大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレを対象としてー

修士2年の山﨑です。修士研究の途中経過を報告します。

1.研究の背景
1-1.日本各地で行われる地域型アートプロジェクト
 1990 年以降日本各地でアートプロジェクトが行われるようになり、1995 年の阪神・淡路大震災を契機にアートと社会の接点をつくる動きが見られるようになってきた。そして、2000 年以降他分野と結びつき、社会の仕組みへ働きかけるアートプロジェクトが生まれ始めていく。その結果、アートプロジェクトは「ふるさと再生」や「地域活性化」の観点で注目を浴びるようになった。経済的観点では自然や人材、場所、企業、産業などまちの既存資源を活用し、活性化させることでまちに新たに経済の動きを生み出すことが期待される。経済以外にも、作品やプロジェクトの拠点がまちの新たな観光資源となって観光客を呼び込むことで、交流人口が増え、外部からの注目を浴びることで、シビックプライドが高まり、若者が地域外へと流出することを防ぐだけでなく、居住人口の増加も期待できる。このような効果を期待できることから近年では、瀬戸内国際芸術祭や北アルプス国際芸術祭などが開催されており、日本各地でまちづくりを目指したアートプロジェクトが見られる。

1-2.200の集落を舞台とした越後妻有アートトリエンナーレ
 「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」は世界有数の雪地・越後妻有地域を舞台として、2000 年から3 年に1 度開催されている大型国際芸術祭である。妻有地域は2000年当初約200からなる集落が集まっており、大地の芸術祭総合ディレクターである北川フラムは「合併計画中に始まった芸術祭ではあるが、豪雪地帯であるため集落単位のリアリティが強いため、集落に寄り添った芸術祭を目指した。」と語っている。アート作品を200 の集落に点在させることで、鑑賞者の回遊性を高めると同時に観客に、越後妻有地域の価値を「日本の原風景」として再発見させることで注目を集めた。また、都会の若者や地元住民が「こへび隊」と称するボランティアとして、作品の制作補佐や監視などを行ったことも特徴である。アートだけでなく、 古民家をリフォームし、地元の女性たちの農家レストランとして活用し、コミュニティビジネスが立ち上がったことなどからも新しい地域づくりのあり方としての評価を確立しており、地域活性化を目指した大型芸術祭のパイオニアである。

以上の背景から
一つのアートプロジェクトとして見ても、これだけ広範囲で、長年行われていたら、地域によってあり方は多様であり、行政、NPO法人、住民の取り組み方も地域によって異なるのではないだろうか。

2.研究の目的
①一つのアートプロジェクトにおいて、地域によっての取り組み方に違いがあり、それぞれの地域がどのように変化しているのか明確にする。
②行政、NPO法人、住民の取り組みを明らかにし、比較することによって、同一プロジェクトにおいて地域格差が生じる原因を明確にする。
③地域型アートプロジェクトにおける今後の課題やあり方を考察する。

3. 研究の位置付け
これまでのアートプロジェクトの研究として、アートプロジェクトが地域に対する住民意識に与える影響や地域社会に与える影響に関する研究が行われている。また、大地の芸術祭における研究は、住民とアーティストが協働して作品をつくる手法の研究や、澤村明の大地の芸術祭が地域にもたらした効果についての研究がある。しかし、一つのアートプロジェクトにおける地域性を分析した研究はなされていない。また、住民のみに焦点をあてた研究はあるものの、行政、NPO 法人、住民を等価に比較して分析したものは存在しない。
以上より、本研究の一つのアートプロジェクトにおける地域ごとの取り組み方を明らかにし、行政、NPO 法人、住民といったそれぞれの担い手に対して分析を行っていくことには新規性があると考えられる。

4. 研究の対象
2000年から始まり、大規模である新潟県越後妻有地域を舞台とする大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2000 〜2024の全9回を対象に研究を行っていく。
越後妻有地域
十日町市と津南町からなる越後妻有地域は全域760㎢と広大な豪雪地で、200を越える集落が流域に点在している。1500年もの長期にわたり農業を通し大地と関わってきた景観・生活・コミュニティは日本の原風景とでも言うべき典型的な里山として豊かに残っている。

5.研究の方法
1)アート作品の敷地特性を年代ごとにまとめ、その分布をマッピングし年代ごとに比較することによって、地域ごとにどのようにプロジェクトが行われ、変化しているのか分析する。
2)行政、NPO法人、住民の方々に、実際どのように運営を行ってきたかのヒヤリング調査を行い、それぞれの取り組みについて整理、分析をする。
3)行政、NPO法人、住民それぞれの取り組み方を社会背景を踏まえて比較し、関係性を明らかにする。

6.研究の進捗
第1章は今回の論文で扱うアートプロジェクトの定義を定め、アートプロジェクトができた歴史と、運営組織の変遷を主要なアートプロジェクトを取り上げまとめます。
第2章はアートプロジェクトの歴史において大地の芸術祭がどのような立ち位置であるのかを、運営構成や活動目的、場所の視点から論じます。

第3章ではNPOが各回で掲げている狙いの変遷をまとめ、地域にどのように反映されているのかを作品分布から分析を行います。
第4章では、私有地や公有地かの敷地特性ごとに作品分布の変遷を分析し、作品を設置する敷地の選定方法やアーティストや住民との関係についてヒヤリング調査から分析を行います。作品分布では、近年は津南エリアに作品分布が集中しており、芸術祭に力を入れている。松代エリアは「農舞台」を中心に作品を累積させ、地域資源として街を盛り上げている。などがわかりました。

第5章では、住民による取り組みとして芋川地区で第一回から芸術祭に携わり地域の人々をまとめている高橋さんにインタビューを行いました。今後作品数の変化が多い津南エリアや松代エリアの方に土地の提供についてや作品の制作方法などのインタビューを行う予定です。

7.予想される結論
・大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレにおいて、地域によっての取り組み方に違いがあり、その変遷をそれぞれ整理することによって、地震などの社会背景によって行政、NPO、住民の取り組みが地域の芸術祭への方針に影響する度合いが変化する。
・作品が設置してある敷地特性と地域の芸術祭への取り組みの関係性を明らかにすることができる。
・行政、NPO、住民の地域への取り組みをパターン化することができ、今後の取り組みのあり方を考察することができる。

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