B4丹波です。2013年前期に行った研究について投稿します。
1. 研究の背景
社寺の敷地の外から境内へと続く参道は、神聖さを高揚させる空間である。境内地の外の参道は一般市街地に展開するが、なかには参道の両側に商店が建てられた境外参道がある。それらは商店街という空間を生みだし、社寺へと続く参道に新たな価値を付加している。
境外参道に商店が加わることで、景観の要素は街路樹、舗装面、街灯などの他に素材、構成部材、色といった建築物の要素も含まれる。さらに地形や参道の形状によって、参道を進む際に見える要素は変化する。人は空間を認識する際、これらの様々な構成要素を視覚から取り込み、景観として捉えていると考えられる。商店を有する参道( 以下、商店参道) は、商店を有さない参道に比べ構成要素が多く、さらに視覚だけでなく聴覚や嗅覚も働く。商店の要素が強いが故に、空間を参道として認識するよりも商店街として認識しやすく、参道としての価値は見えづらい。
以上のことより、商店参道の社寺に纏わる要素を抽出し、参道として認識することは重要であると考えられる。社寺と商店参道との関係性を意識することで、商店参道が有する商業以外の価値を示せると考える。
2. 既往研究について
境外参道という学術用語を用いて、空間的特質や変容などについて言及しているものとして岡村祐、北沢猛、西村幸夫(2005) を挙げることができる。 参道に関する研究は多数行われており、船越徹、矢島雲居、真利曜子(1978) をはじめ既に多くの考察がなされている。さらに山口満、長善規、伊東嘉記(2004) らは構成要素による誘引効果に関して言及している。シークエンスに関する研究も多数あり、上田哲生、材野博司、木村元彦(1993) など参道空間を対象とした研究も複数ある。
しかしこれまで扱われている参道は境内ないし住宅地に展開する境内地外の参道であり、商店を併設する参道を扱っているものはない。さらに一般の参道がシークエンス空間となっていることから、商店を有する参道においても連続的に要素を認識できるか否かを調査することが必要であると考える。
3. 研究対象の選出
まず本研究では、境内地を社殿を中心とした敷地と定義する[1][2]。参道の起点としては鳥居やゲートの他、神社に関連する建造物、商店のはじまりなどを参道の起点とする。よって本研究において商店参道とは「その側に商店が建築された、参道の起点から境内地へと至る道」と定義する。
研究対象は関東近郊とし、15 の社寺の参道を研究候補として抽出した後、参道の形状ならびに地形の特徴に基づき分類を行った( 表1)。
表1 の分類より、参道の形状と地形からシークエンスに影響を及ぼしていると考えられる組み合わせを本研究の対象とした。その結果、経栄山題経寺( 柴又帝釈天)、江島神社、成田山明王院神護新勝寺を対象とした( 図1)。
4. 社寺要素の抽出
商店参道における景観要素のなかから、社寺を意識させるものを社寺要素として抽出する。景観要素とは商店参道を構成するすべての要素をいい、商店参道を進む際に認識できる要素である。参道としての価値を高める要素とは、参道の先にある社寺を意識できるものであると考える。
石碑や石像などの石造は、重厚性が感じられ、社寺ならびに参道としての意識を高める要素としては十分な効力を有していると考えられる。ゲートは一般商店街にも多く見られるものであるが、寺院の紋を模した飾りを有することで参道としての位置づけを強めている。照明は明かりがともる部分に、社寺に纏わる模様を模したデザインが施されているものである。照明は夜間だけでなく昼間でも目にとまりやすい。社寺を意識させる要素として有効であると考えられる。またなかには社寺の建築様式を模した店舗の屋根、催し物に合わせた社寺を描いた灯籠などもある。
5. 社寺要素の分布
抽出した各商店参道の社寺要素を地図上にプロットする。
参道が屈折型の題経寺では、屈折しているため参道の始まりから寺院が見えないことを前提にすると、参道の始めに要素を並べることは、寺院の意識を高めるために有効だと考えられる。特にこの参道では複数のゲートが並んでおり、社寺の方向を示す強い効力を有しているだろう。
江島神社では、参道の始まりから終わりまで社寺要素がほぼ均等に分布している。そしてその大半の要素は照明であり、夜道を照らす必要性からほぼ均等に並ぶ照明に、社寺要素としてのデザインを加えることは有効である。参道の始まりと境内の入口に鳥居を構えており、参道の道筋が明確になっている。
新勝寺では参道の全長が長いにも関わらず、始めの1/3にほとんど社寺要素が認められない。参道の始めの大きな交差点に石造があり、表参道であることを示しているが、その先にある大きな要素は看板のみである。さらに駅前広場からの道は他方に分岐しており、そのなかから参道の方向を示し新勝寺を意識させる要素としては少ないと言える。参道の導入部にもう少々社寺要素が加わると、参道の方向や領域が明確になるように思われる。
6. 参道の形状、地形と社寺要素の関係
商店参道を一定の間隔にて撮影し、その撮影画像に写り込んでいる社寺要素から参道と要素の関係をみる。
題経寺の参道は屈折型であるが、始めは直線で屈折部までを見通せ、ここに集中していた社寺要素が連なって認識できる。標高の変化がほとんどない平坦地であり、参道を進む際に視線の上下方向の変化はない。視線を動かす必要がないため、比較的容易に前方の要素を認識できる。
江島神社の参道はほぼ直線型で、始めにやや屈折があるが、実にわずかである。始めに鳥居が構えていることもあり、直線型は進む方向が明確で視線も中心に向かう。この参道には題経寺と異なり高さの低い照明が用いられている。これは傾斜地という視線を高く上げにくい場所において、視界に入りやすくなっている。
新勝寺の参道は屈曲型であり、屈曲部に立つといきなり数々の干支の石造を目にするようになる。屈曲しておりその先の様子を知ることができないが故、目の前の様子が大きく変化することに驚きを感じる。起伏があり、ゆるやかな下りでは視線が少々下がり、前方を見渡すに適した状態になる。故に低い高さの石造も見やすくなるだろう。
7. 結論
商店参道には社寺を意識させる要素が点在し、さらにそれらは連続的に認識できる。その点において一般商店街と区別されるとともに、参道としての役割を担っている。そして一般の参道と同様に、商店参道においても複数の社寺要素が挙げられたが、そのなかには商店を有することで創造されたものやデザインがある。このことによって商店参道は一般の参道と異なり独自性を有している。さらには街の整備に際して、社寺の歴史を意識することや下町であることを意識することで、統一された街並みを構成している。木造の続く地区のように景観としての価値を高めるだけでなく、参道という日本古来の道、歴史を感じる場につくりあげられる可能性を有している。
注釈
[1]『神道事典』( 國學院大學日本文化研究所編/ 弘文堂/1994-7-15) によれば、境内地とは神社が鎮座する敷地をいい、社殿をはじめさまざまな建造物や工作物が設置されており、祭典の執行や公衆の参拝、あるいは神社の尊厳を維持するために必要な一定の空間・土地、とされている
[2]『仏教辞典』( 中村元ほか編/ 岩波書店/1989-12-5) によれば、境内地とは寺院や神社の境域の内側の土地、とされている
参考文献
(1) 岡村祐ら/ 境外参道の空間特性に関する研究- 東京都心部をケーススタディとして-/ 日本都市計画学会都市計画論文集/No.40-3/2005
(2) 加藤慎也ら/ 廻遊式庭園におけるシークエンス景観に関する基礎的研究- 視空間に着目して-/ 景観・デザイン研究講演集/No.5/2009