01 背景-私たちと木材の関係性
現代において、木材は様々な形のプロダクトとして私たちの身の回りに幅広く展開されている。しかしそれらは、その形態にまで加工されてきた背景を持ちながらもその背景はなかったかのようにディスプレイされる。私たちにとって木材の加工プロセスはブラックボックスであり、私たちは長い加工プロセスの末端を享受しているだけに過ぎない。
ブラックボックス化された加工プロセスに対し、新たにそのプロセスの中に一般の人々の活動の場を埋め込みながら林業の現場を可視化させていくことで、人々と林業の新たな関係性を描き出す。
02 敷地-静岡県川根本町
この町は昔から大井川を中心とした林業によって栄えていたが、現在人口減少や高齢化による町の衰退とともに、林業も衰退の一途をたどっている。川根本町では山から切り出した木材を直接川に流し、川の流れを利用して木を運搬する「川狩り」と呼ばれる伝統的な方法が行われてきた。
03 全体計画
3.1 川狩りによる産業構造
川根本町では川狩りによって川の流れに沿って木の生産が進んでいく産業構造となっていた。しかし鉄道の開通、陸路の発達といった背景から、川狩りによる水運は消滅、さらに林業そのものの衰退により、現在この地域では木の加工も消費も行われていない。
3.2 町に開かれていく木材加工の現場
当時の川狩りによる産業構造をなぞるように、木材の加工プロセスを川に沿って1つ1つ建築として立ち上げ、そこに観光客や地域住民たちが利用できる機能を複合させていく。また、単純に木材を加工し、消費するだけでなく、それまでの工程で出た端材を木材チップにリサイクルし、山の肥料とすることでこの地域での資源の循環を行っていく。
3.3 産業と人の流れの再構築
かつて木材運搬など、物流のためのインフラとして町を支えてきた大井川今度はその大井川に遊覧船を走らせることにより、観光客が施設や自然を巡るための観光インフラとして新たに利用していく。
04 設計手法- 間伐により廃棄されてしまう小径材
この町では近年になり、国から補助金が出るという理由から、素材生産方法を皆伐から間伐に切り替えている。しかしその結果として、建材として出荷されない小径材が大量に廃棄されてしまっている。本提案では、これらの建材として出荷されず廃棄されてしまう間伐材を利用し、それぞれの建物を異なる手法を用いて作っていく。
A 木材乾燥場×宿泊施設
B 製材所×工房・ショップ
C チップリサイクル場×温泉
05 提案-地産地消による森林資源の循環及び有効活用
今回のプロジェクトを通して、これまでブラックボックスであった林業が、新たに地域やツーリズムに結びついていくことで三者の関係性が再編集され、町や林業そのものの再興に繋がっていく。また、廃棄されてしまう間伐材を再利用し、さらにこの土地で資源の循環を行っていくことでサスティナブルなまちづくりが実現される。