MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトの団地改修手法の研究
01.序
1-1.研究の背景
高度経済成長とともに、住宅の大量供給を支えたUR都市機構(以下URとする)の所有する団地型集合住宅は、住民の高齢化や、住居の老朽化等の様々な問題が存在している。特に日本では、人口減少や少子高齢化、団地への興味の低下などにより、進む空き家問題が深刻化している。
そのなかでMUJI×UR団地リノベーションプロジェクトは家具等の専門小売企業である株式会社良品計画(以下MUJIとする)とURが手を組み、団地の良さを見直し、保存、再生するとともに新たな住空間の提案をするといったプロジェクトである。
そこで、近年盛んに行われているリノベーションに関して、企業同士のコラボレーションによるリノベーションの対象として本事例を取り上げた。
1-2.研究の目的
本研究の目的としては、2つある。
1つ目は、時代の流れに伴う家族構成の変化や、団地の問題点、MUJIの考える収納空間に関する調査を始め、リノベーションの操作を分析し団地改修における設計手法の一端を明らかにする。
そして2つ目は、企業同士がコラボレーションして行うリノベーションの魅力を明確化し、その有用性を視座する。
1-3.研究の調査対象、研究方法
研究の調査対象はMUJI×UR団地リノベーションプロジェクトの51planとする。
リノベーションの操作としてよく見られた以下8点に着目し分析を行う。
(1)間仕切り壁の撤去(2)床材の変更(3)間取りの変化(4)キッチンの移動(5)小天井の設置 (6)鴨居、柱を残す(7)押入れの使い方の変化
また当プロジェクトを所掌しているURの方にヒアリングを行い、調査する上で不明な点を解消していった。
02.社会的背景
2-1.世帯構成の変化
近年では晩婚化、少子化の影響で大家族が崩壊し、核家族や個人へと家族構成は多様化していった。
2-2.団地の現状
団地建設の全盛期は、住宅需要を満たすため同型の住戸プランを集積していて、それが集合型住宅の一般的な解法であったが、人口構造や産業構造の変化によって生活の仕方が多様化し、型で固定された間取りは現代の生活には見合わなくなっていった。
2-3.MUJIが考える収納空間
住宅の近代化は、収納家具を建築の中に取り込み、クローゼットなどが使われるようになっていく。
しかし、日本は豊かになりモノの量も増え、はみ出したものを収納するために収納家具を買い足していく傾向が見受けられる。
暮らしは常に変化するという視点で見ると、建築に組み込んだ収納家具は将来の家族の変化や、暮らしの変化に対応できず不向きなのではないのかと考えている。
03. リノベーション操作の分析
3-1.分析内容
3-1-1.リノベーション操作の分析
MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトのサイトに掲載されている51のプランを参照し1-3で提示した方法で、分析を行った。
3-1-2.コンセプトとリノベーション操作の相関関係
[風通しの良い一室空間]:間仕切り壁の撤去により大きなLDK空間をつくる一方で、寝室は一貫して分離して配置していた。一室空間となったLDKをシェルフ等で仕切る例が多く見受けられた。
[キッチンを暮らしの中心に]:比較的住戸面積が小さい団地に適用されていた。リビングの面積を多く取れないため、ダイニングキッチンを暮らしの中心にした提案である。
[プラスもうひとつの空間]:比較的住戸面積が大きい団地に適用されていた。LDKと寝室の他に、家事効率を上げるためのユーティリティースペースや、趣味の空間としてのワークスペースを設計している。
[効率的な家事動線]:今までは区切られていた間仕切り壁の撤去や、キッチンの配置を変えることで、家事動線の効率化を図れている。
[土間とつながる]:土間を設け居室をつなげることで、訪問客に対して開かれた空間を演出している。
[シェアルーム]:4DKの特徴的な団地を、シェアルームとして提案。
[メゾネット]:特徴的な室内階段を、光や風を通すヴォイドや、空間を仕切るバッファーとして使われている。
[ウッドデッキ]:団地1階の特徴を生かし、LDKとつながるバルコニー部分を拡張して、ウッドデッキ空間としている。
[コンパクトライフ]:比較的住戸面積が小さい団地に適用されていた。限られたスペースをうまく生かすため、収納空間の用途変更やキッチンの配置を変える手法などが見受けられた。
3-1-3.リノベーション操作の整理
[間仕切り壁の撤去]:すべてのplanで行われていて、完全に撤去されている場合と、取り外しが可能なものが設置されている場合があった。
[LDKの変化]:2DKや3DKの間取りを、個室一つをリビングとし、1LDKや2LDKとして改修されている例が多く見受けられた。
[キッチンの移動]:配管の増設が伴うため、移動させない例も多く見受けられた。
[小天井の設置]:収納空間を増やすためや、家具設置のガイドとなり、それらが空間を仕切る間仕切りとなる。
[鴨居、柱を残す]:ほとんど残されていた。部分的に着彩し、色で空間を分けているような例もあった。
[押入れの使い方]: 部屋と部屋をつなぐ通路や、ベッド、子供部屋など、押入れを別の用途として使われている例が多く見受けられた。
[全体を通して]: 多くの団地に対して問題を解決するために、planの大枠を決め複数団地に適用させていた。
3-2.分析結果
3-2-1.収納空間の変化
改修前は、押入れであった収納空間を子供部屋にするなど他の用途として使っている例が多く見られた。
3-2-2家具の使われ方
当プロジェクトでは、改修する際に用途を変更した収納空間を小天井やMUJIの収納家具で補って提案されていた。また間仕切り壁の撤去によって、曖昧になった部屋の境界を、家具によって仕切っていた。
3-2-3.改修手法の派生
URの団地というものは、住戸の基本プランが似ているため、改修手法のプロトタイプを確立し、他の団地に派生させていくという傾向が見られた。
04.結論
4-1.改修手法のまとめ
以上、団地改修の手法の分析を行った。
改修手法の分析に関しては、図に示すような特徴が見受けられた。収納空間(押入れ)を他の用途として使用し、その失った収納空間を小天井やMUJIの収納家具によって補う提案がなされていた。そしてそれらの家具が、空間を広く使うために撤去した間仕切りの代替品として使われている例もあった。
4-2.企業同士のコラボレーション
[MUJI]:収納家具を作り込まず家具の寸法に合わせた小天井を設置することによって、居住者の暮らしに合ったレイアウトができ、一企業として掲げている“暮らしの提案”を、当プロジェクトを通し具現化できている。
[UR]:団地の寿命を長くしストックを消費していかなければならない中で、当プロジェクトにより住戸1つ1つを商品化し、新たな商品価値をつけることに成功している。また基本プランが似ているという団地の特徴を生かし、改修手法を他の団地にも派生させることで、全国各地に点在する団地に対し、総括的に対処できる。
団地を所有しているURに対し “暮らしの提案”という形でMUJIが介入することで、画一的で暮らしを制限された住戸であった団地が、様々な家族、暮らしに合うものとなった。
時代の流れの中で、商品価値の低下により様々な問題を抱える不動産商品(団地)に対し、現在の社会的背景を俯瞰し新たな商品価値を構築している。以上により、団地再生に関するリノベーション操作の分析とともに、企業がコラボレーションする有用性を明確化できた。
謝辞
本研究を進めるにあたり資料を提供して戴くとともに有益なご助言を戴いた、独立行政法人都市再生機構の櫻井氏、白石氏に深謝の意を表する。
参考文献
https://www.muji.net/lab/living/101020.html
https://www.muji.net/ie/mujiur/
http://www.mlit.go.jp/common/001227046.pdf