B4幡谷です。2020年度春学期に取り組んだ研究内容について発表いたします。
序章 研究概要
0-1 研究の背景
アメリカを起源に持つショッピングモールは、今日に至るまで多種多様な形態に発展を遂げており、世界中で似通った建築が誕生している。レムコールハースの主張するジャンクスペースの代表例にも挙げられるショッピングモールだが、これまで建築的空間に関する研究はあまり行われていないのが現状である。
0-2 研究の目的
上記のような背景及び、問題意識から、本研究では以下の2点を研究の目的とする。
- 日本国内におけるショッピングモールを類型化し、その変遷を建築的に記述する。
- 既往研究にあるアメリカのショッピングモールの変遷と比較することで社会学と統括して考察を行う。
0-3 研究の位置づけ
先行研究:斎藤徹(2017)『ショッピングモール史』彩流社.や若林幹夫(2013)『モール化する都市と社会 巨大商業施設論』NTT.などに代表される社会学的視点から見たショッピングモールに関する研究は多数存在している。これらの研究では、日本の歴史を紐解きながら社会学の視点でショッピングモールを分類している。こうした当時の社会背景と建築形態の変遷には何かしらの相互関係があると仮説を立てて研究を進めたいと考えている。
また、明治大学建築空間論研究室において日野原理子氏が海外のショッピングモールを対象とした研究を行っていたため、本研究はその内容を発展させる位置づけとなる。
第1章 ショッピングモールの概要
i) 財団法人ショッピングセンター協会が定める定義
:
ショッピングセンターとは、一つの単位として計画、開発、所有、管理運営される商業・サービス施設の集合体で、駐車場を備えるものをいう。その立地、規模、構成に応じて、選択の多様性、利便性、快適性、娯楽性を提供するなど、生活者ニーズに応えるコミュニティ施設として都市機能の一翼を担うものである。(財団法人日本ショッピングセンター協会・ショッピングセンター用語
辞典編集委員会 2010:iii)
また、より具体的な「ショッピングセンター取扱 基準」として同協会は、次のような要件を定めている。
ショッピングセンターは、ディベロッパーによって計画され、開発されるものあり、次の条件を備えることを必要とする。
① 小売業の店舗面積は、一五○○㎡以上であること。
② キーテナントを除くテナントが一○店舗以上含まれていること。
③ キーテナントがある場合、その面積がショッピングセンター面積の八○%程度を超えないこと。ただし、その他のテナントのうち小売業の店舗面積が一五○○㎡以上である場合には、この限りではない。
④ テナント会(商店会)等があり、広告宣伝、共同催事等の 共同活動を行っていること。
ii) ICSC( インターナショナルカウンシルオブショッピングセンター ) が定める 定義
:
ICSC( インターナショナルカウンシルオブショッピングセンター ) が定めるショッピングセンターの定義によれば、「ショッピングセンターは、単一の施設として計画、開発、所有、管理される 小売店やその他の商業施設のグループとして定義され、通常は敷地内駐車場が提供されている。これは一般的に世界的に受け入れられている説明ですが、地域によって大きな違いがある。」とされている。
1-2 ショッピングモールの定義
ショッピングモールの定義は文献によって様々であり、明確な定義 はない。そのため、本研究では上記のショッピングセンターの条件を満たし、通路を介して相互に接続される店舗群を「ショッピングモール (SM)」と呼ぶ。また SM 内の店舗部分を「ストア」と呼び、 ストアの出入口が面する通路部分を「モール」と呼ぶ。
1-3 ショッピングモールの歴史
ショッピングモール(センター)は二○世紀初頭に米国郊外で生まれ、その後発展した不動産事業体であるが、その起源を正確にたどることは容易ではない。
この商業形態を世に広めた最たる例としてよく挙げられるのが「Northgate Mall」(1950)だ。これは、John Graham Juniorによって設計され、アメリカ シアトルで開業された。この事例で初めてモールという概念が導入され、歩行者専用の通路の両側に店舗が配置される先駆的な商業形態として誕生した。
日本でモールという概念が認識され始めたのは1960年代後半のことであり、70年代になるとそれらが商業建築にも用いられるようになる。こうした背景には、住宅地の郊外スプロール化現象やモータリゼーションの普及に加え、産業構造の転換に伴い、工場や倉庫の跡地を商業施設として再生する例が増加したことなどがあった。
70年代から現れ始めたモールは、はじめは単純な形態かつ外気に面したオープンエアモールの形式がほとんどであったが、やがて寒暖差や高温多湿な日本の気候に合わせるためにエンクローズドモール型へと変化していった。また、年代を追うごとにモールの形態そのものも複雑化していくこととなる。
第2章 ショッピングモールの分析方法とその類型
2-1 研究の方法
2-1-1研究対象の選定
研究対象の選定方法は、雑誌「ショッピングセンター」等から図面が入手可能であり、ショッピングモールの定義に当てはまる作品を抽出することとする。(図1)
2-1-2研究対象の分析方法
図面を用いて形態の類型化を試みる。そのためにまずは平面をモールとストアにモデル化し、タイプを見定める。その後、それぞれのタイプを分類し、系譜を作成することで考察を行う。
2-2 ショッピングモールの類型
類型化した結果、それぞれのモール形態はリニア型、リング型、グリッド型、それらを複合させたコンプレックス型の4点に分類できた。この点に関しては先行研究であるアメリカのショッピングモールと共通していた。
第3章 ショッピングモールの変遷
3-1 系譜図
ダイアグラム化したそれぞれの型が時代を追ってどのような変遷を辿ったかを視覚化するため、系譜を作成する。(図2)
i)萌芽期
70年代の国内のSMはモールの形態が基本的に直線のみで構成されており、単純な構成であった。西欧の考えや技術を少しずつ輸入しながら手探りでSMを開発していたこの時期を萌芽期として位置付ける。
ii)発展期
80年代から90年代では、人間工学や環境工学の研究が深まったことでSMの開発も大きく進展した。モールの形態も蛇行性を取り入れたものや湾曲したものが見られるようになり、複雑な形態が増えていった。快適な空調環境の整備や適切なモールの開発が進展したこの時期を発展期として位置付ける。
iii)成熟期
2000年代に入ると、モールは回遊性を持たせたサーキッドのような形態が一般化し、人々の体験を重視した商業施設として設計されるようになる。
第4章 比較・考察
- 形態
形態の発展の仕方は日本もアメリカも類似していた。
2.日本独自の商業集積
日本では地下街や駅ビルなどでモールの概念を実験的に導入していた。
3.規模
店舗面積を比較すると、日本とアメリカでは大きな差がある。また、日本の規模変異は当時の社会学とも密接にかかわっている。
4-2.社会学的視点から見たショッピングモールの規模変遷
80年代後半と2000年初期の二点において規模が大きく拡大する時期があった。80年代後半の拡大はバブル経済による影響だと考えられる。この頃、バブルの波に乗ってさまざまな付加価値を加えた複合型商業施設開発が志向され、ショッピングモールを開発するのではなく、街そのものを生み出すことが目指されたのだ。その代表的事例が「つかしん」である。ここでは敷地内に広場や公園、ジョギングロードなども設けられ、駐車場は地下に設置されるなど徹底して人にやさしい街づくりが行われた。しかし大規模な投資を伴う街づくり的な商業施設開発はバブル崩壊とともに一旦収束することとなった。後半の拡大期はハイマート二○○○構想によって大型店を積極的に活用していく方針が現れた影響だと考えられる。
終論
5-1.総括
国内におけるショッピングモールも類型化が可能である。平面は線上のリニア型、環状のリング型、格子状のグリッド型、そして3つの型の組み合わせであるコンプレックス型を合わせた計4つの型で分類できる。3つの基本の型は70年代には既に誕生しており、以後それらを組み合わせたり、モールの形態が直線から湾曲型へと変化するなどして成長してきた。この点については先行研究の海外の事例と共通していた。型の変遷過程は時代を追うごとに複雑化しており、特にモールの形態は日本の商業史や社会背景とも密接にかかわっていることが分かった。
5-2. 課題と展望
春学期の研究では図面の収集、型の分類、系譜の作成が主な内容であった。これからは形態だけでなく、テナントや用途といった観点からも分析を行い、研究を深めていければと考えている。
参考文献
- 斎藤徹:ショッピングモール史 彩流社 2017年
- 若林幹夫:モール化する都市と社会 巨大商業施設論 NTT2013年
- 月刊誌ショッピングセンター 日本ショッピングセンター協会
- 鹿島茂:デパートを開発した夫婦 講談社現代新書 1991年
- 東浩紀、大山顕:ショッピングモールから考える ユートピア・バックヤード・未来都市 幻冬舎 2016年
- 日野原理子:ショッピングモールの遺伝学-世界諸都市の事例にみる変容と複製-,明治大学2019年度修士論文