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アルゴリズミックデザインを用いた密集市街地における共同住宅の設計手法に関する研究 ー東京都墨田区向島地区を対象とした共同建て替えをケーススタディとしてー

修士2年 石川北斗

 

 

アルゴリズミックデザインを用いた密集市街地における共同住宅の設計手法に関する研究

ー東京都墨田区向島地区を対象とした共同建て替えをケーススタディとしてー

 

 

0.序論

0-1.背景

 密集市街地という環境は、「木造密集」「狭小」といった現代的問題を呈する特異な領域であり、住宅の老朽化や住環境の悪さに対し、共同住宅による建て替えが進められている。その建て替えという建築的解決を担う設計者に投げかけられる条件は密集市街地ゆえに実に重層的であり、それらを咀嚼し一つの形態へと収斂させていかなければならない。計画地というものは「不整形」かつ「狭小」であことから、各住戸の配置は不整形に準じるものとなり、積層形態となると予想できる。加えて「密集」する周辺環境による光環境なども形態生成に関与してくる。設計者は重層的条件を同時的に扱うという難しさの中で形態を生成する訳だが、人間である設計者が同時に処理できる情報量には限界があるのが実際であり、これらの要素を高次元に消化した形態を得ることは未だ困難である。密集住宅地に対する共同建て替えという建築的解決の中で、設計者が重層的条件を同時的に扱い、それら条件を高次元に満たす形態を得る設計手法が必要である。それは単なる設計支援に留まらずに住環境、周辺環境への応答など、個々の場所の環境から得られる固有な形態をも生み出す可能性を含んでいる。

 設計手法という側面では近年、「人間には扱いきれない複数の条件を数値化し同時的に扱い、解答としての形態を

視覚的に提示する」ことのできるアルゴリズミック・デザイン(以下A.D.)が注目されている。この手法はコンピューターの発展に伴いその有用性が示されてきたものであり、その可能性は環境問題への配慮や環境デザイン、形態生成の発想支援ツールなど多くの範囲に渡っている。

 

0-2.目的

 本研究では、A.D.に内在する「人間には扱いきれない複数の条件を数値化し同時的に扱い、解答としての形態を視覚的に提示する」という特性に着目し、用いることとした。A.D.という手法については形態生成の可能性や設計支援ツールなど建築設計に対する有用性が示されてきたが、本研究では設計者自身がいかにA.D.の手法から密集市街地の建て替えという具体的条件に対して建築の形態生成の手法を展開し発展させることができるかを、ケーススタディでの過程を通して示す。そして最終的に、東京都墨田区向島地区という密集市街地での共同住宅の建て替えというケーススタディを通して、実際に「密集市街地という特異な環境下において重層する設計条件を高次元に満たす建築形態を獲得する手法」を得ることが本論の目的となっている。

 

0-3.研究の手法

 本研究では修士設計という形式をとり、手法を段階的に展開、発展させ開発していく。手法の展開についてはモデルスタディから入り、最終的にその手法から具体的な敷地を伴った設計提案を行う。その中で、設計者がいかに手法を展開し、応用させていけばいいのかを示すためにスタディ過程、敷地を想定した設計過程を体系的に記述していくこととする。この記述方法は、本研究によって設計者にとっての手法の可能性を示す一つの指針とすることを意図したものである。具体的なA.D.の手法に対しては、3Dモデリングソフトの「Rhinoceros」とそのプラグインソフトである「Grasshopper」を用いてアルゴリズムを構築することとした。

 

0-4.予想される結論

 予想される結論及び成果は以下を想定している。

①:密集市街地での共同建て替えにおいて、重層する設計条件を高次元に満たした建築形態の生成。

②:①に対する具体的なA.D.を用いた設計手法の提示。

(③:①、②より密集市街地の更新手法としての可能性)

 

 

1.アルゴリズミックデザインを用いた設計手法の構築

1-1.設計手法と設計環境

1-1-1.設計手法:アルゴリズミックデザインと建築

 A.D.の最大の利点は、これまで設計者の頭の中でしか存在していなかった設計の思考過程が可視化できるようになり、他者にもその思考過程を共有することが可能となった点である。つまり、何度でも設計プロセスを検証することが可能となったのである。あらゆる設計条件が複雑に絡み合い、また多くの人が設計に携わる現代において、このことは大きなメリットとなる。これを踏まえ、本論では設計者の提案に対する被験者を設定し、評価してもらい次のフェーズへフィードバックするというアプローチをとることした。

1-1-2.設計環境:密集市街地と建て替えについて

 密集市街地における建て替えの潜在的背景は、密集ゆえの住環境の悪さと木造よる建築物の老朽化である。それを踏まえ設計という側面から見ると、この環境下で課される特異な条件となるのは敷地形状である。住宅の敷地は街区を隙間なく埋めている訳であるがその形状は不整形であり、建て替えの際の敷地形状も不整形となる。建て替えの際の計画敷地は、住宅の建つ現敷地を統合してできる敷地(fig.1)と、虫食い的に発生している空白地(fig.2)が対象となっている。この2つの敷地の取り方においても不整形な形状に対する設計となることは共通である。以上を受け手法の構築に当たり、設計過程の中でも形態に大きく関わり初期に考慮するであろう「敷地形状に対する建築形態の収まり」を出発点として設定した。

1-2.Phase1「不整形な敷地形状とヴォリューム」

 建築的なスケールを敢えて除し、モデルスタディーからA.D.の手法を構築する。第一のPhaseでは、狭小の敷地に最大ヴォリュームを想定し戸数で分割していくという従来の手法に対し、ここでは部屋単位のBOXをまず敷地内に積み上げるアルゴリズムの構築を目指した。一つの最大ヴォリュームが最適形態として初期に決定してしまうのではなく、このアプローチではBOXの数やサイズといった変数を変えることで、様々な形態の可能性を初期段階で設計者は考慮できる。現時点では、不整形の敷地内に、あるヴォリュームをもったBOXを積層させるアルゴリズムとその形態が得られた。(fig.3、fig.4)

このフェーズより得られたモデルは「ヴォリューム同士の重なり」や「ヴォリューム同士が無接続な部分が存在する」など建築的次元に達していないことが発見された。建築的次元を押さえた形態生成となるアルゴリズムへと昇華させていくことが、以降のフェーズの目的として浮かび上がった。

1-3.Phase2「住戸の設定」(仮)

 不整形な計画敷地におけるヴォリュームの積層から住戸の設定を行う。部屋のBOX群に対する世帯の所有数を色分けして示すアルゴリズムを構築する。

1-4.Phase3「光環境の評価」(仮)

 形態と世帯数など具体的な要素が決まり、具体的な住環境に関わる変数を考慮して形態を評価、最適解へと昇華させていくフェーズ。密集市街地の中での住環境の悪さのうち、周辺の建物によって敷地と形態に及ぼす光環境を考慮することを想定している。

 

2.設計手法の展開/設計提案

 1章で構築したA.D.を用いた設計手法の展開を実際に敷地を設定しケーススタディとして示す。 

2-1.敷地

 敷地は東京都墨田区の向島地区とした。この地域は密集市街地というDNAをもっており、東京都心という立地から居住需要は高く、現居住者も転居よりも住み続けたいという動向から建て替えが進められる可能性が高い。また、建築的視点からは木造住宅の老朽化、都市的視点からは虫食い的に発生する空き地が駐車場にとって代わられていることが挙げられる。こうしたことを鑑み、今後設計者がこの地区において建て替えに関わる可能性は大きく、また密集市街地という現代的問題に提案していくことのできる場所である。

2-2.計画

 向島地区に対し、共同住宅の戸数を設定し実際に発生している空地(fig.5)にたいして1章で得られた手法をもとに具体的場所を伴った建築的提案をする。この章によって具体的な建築形態を示し、「密集市街地という特異な環境下において重層する設計条件を高次元に満たす建築形態を獲得する手法」として示される。

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