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ジャン・プルーヴェのアルミニウムを用いた建築作品に関する研究−クラフトマンシップとデザインの関係性について−

0.序

0-1. 研究の背景

近代建築以降、建築家がその存在を知りつつもなかなか汎用的に用いることができなかった構造材の一つとしてアルミニウムがある。日本でアルミニウムに構造材料としての 役割が認められたのは2002年5月の建築基準法の改正からである。サッシュや金物としての使用は一般的であったが、近年アルミニウムを構造材とした建築が多く見られるようになってきた。伊東豊雄のアルミニウムを使ったハニカム構造や難波和彦の箱の家など、日本の著名な建築家がアルミニウム建築を試みている。しかしこうしたアルミニウム建築はまだ実験的な段階で留まっており、今後さらに発展していく素材である。また、アルミニウムは軽量で耐食性に優れ、容易にリサイクルできることから、環境に優しい素材として評価が高く、注目されている素材である。こうしたアルミニウムの特性は、今後の環境と調和した持続的な循環型社会を築いていく上でアルミニウムの果たすべき役割は極めて大きなものがある。

0-2. 研究の目的

フランスの建築家ジャン・プルーヴェ(1901-1984)は20世紀の建築生産の工業化に大きな役割を果たした。プルーヴェは自身の工場で家具から建築に至るまで金属を用いた様々な 実験的試みを展開している。その中で新素材としてのアルミニウムを使った先駆的な試みは、現在のアルミニウム建築を考える上で重要である。本研究はプルーヴェのアルミニウムを用いた作品に見られる特徴を総合的に捉えることで、プルーヴェの建築に対する思考や、当時の工業化に果たした役割、また現代に及ぼした影響を明らかにすることを目的とする。結びつけたのか明らかにした研究は非常に少ない。本研究では、プルーヴェがどのような思想を持ってアルミニウムの研究開発を行い工業化に影響を及ぼしたのか、構法的、意匠的な面から、アルミニウムという素材に焦点を絞り研究を行う。

0-3. 研究対象と方法

ジャン・プルーヴェの最大の特徴は自身の工場を持ち、設計者でありながらも技術者として製作に携わっていたことである。職人としてのクラフトマンシップを持ち、多くの構法開発を行った。そのデザイン思想は作品を制作する過程に密接に関係している。そのためプルーヴェの作品を見る上で、この「クラフトマンシップ」、「構法開発」、「デザイン思想」の3つの視点は重要である。プルーヴェの生涯にわたる作品からアルミニウムを用いたものを研究対象とし、この3つの視点から作品を分析する(図1)。

1-1.生産システムの変化

工場の移り変わりと生産システムの変化から、アルミニウム作品の変遷を追う。

①主に建築金物や建具の製作を行う。ステンレス鋼版の使用が増す。最も重要なのは薄鋼板の使用が飛躍的に増大し、その研究から折り曲げ手法を開発する。これはエレベーターゲージ、金属製サッシュ、可動式間仕切りなどに用いられる。初の大量生産を試み、折り曲げ鋼板によるドア800枚を製作する。

②多額の設備投資により、多くの機器を購入。対応幅4mの折り曲げ加工機も導入する。プレファブ、窓ユニット、家具などを大量生産する。砂漠地帯などの極限の条件への適応まで研究を拡充する。軍用バラックの製造組立では「流れ作業」による量産体制を築く。木製品の家具の研究開発を行う。

③アルミニウムへの興味を発展させる。大規模な機器が購入される。プロトタイプの研究を盛んに行う。コンクリート分野の研究が始まる。フランス・アルミニウム社がアトリエに資本参加しアルミニウムの研究開発を積極的に行う。

④株主であるフランスアルミニウム会社との対立から工場を去り、パリに拠点を移す。ポリエステルパネルなど新素材の開発を行なう。この時期以降の工作機械は、小型化、安価を求める方向に進み、必ずしも量産型大規模工場でなくても加工できる状況が整うようになる。

1-2.考察

③へ製作の規模を拡大し、アルミニウムの加工が工場でできるようになり初めてアルミニウムが本格的に建築に使用された。ブリーズソレイユのような多機能性を持つパネルが開発されるなど、アルミニウムの研究開発が盛んに行われる。その後もアルミニウムを使用した建築が続々と開発されていくが、構造材としての利用が本格化されることはなく、ファサードにおいてアルミニウムが発展していく。作品と工場の規模や経済状況が密接に関わっていることがわかる。

2-1.構法への取り組み

表1はアルミニウムを使用した作品を9つの部位に分類し、時系列に並べたものである。表から1930年代、1940年代は建築金物が主で、1950年代ではすべての部分に分散され、1960年代には外装材としての使用が主になることがわかる。60年代後半にはマリオンとしての使用が増加し、様々なカーテウォールに応用される。1950年代の作品について考察することはその後の外装材が主流となるまでの変遷を知る上で重要である。

2-2.構造材

プルーヴェの架構システムの形式は、大きくポルティーク型、ベッキーユ型、シェル型の3タイプに分けることができる。この章では、各架構形式におけるアルミニウムの使用部位の変化を分析する。図3は3つの架構システムの類型とアルミニウムの使用部位を示したものである。

2-3.構造材におけるアルミニウムの使用の変化

1940年代前半まで構造材はスチールが主であったが、1948年のトロピカルハウスで構造材にアルミニウムを取り入れるようになる。ポルティーク型は1938年に開発された構法で、1948年に初めてこの型にアルミニウムが使用された。このときアルミニウムは屋根材として使用され、主構造はスチールだった。1953年頃からベッキーユ型の建築が増え、ここでは屋根材、柱材にアルミニウムが用いられた。1954年ベッキーユ型で、主構造がアルミニウムの建築が製作される。1958年、ポルティーク型では屋根材としてしか使用されていなかったアルミニウムが、外壁で使用されるようになる。

3-0.デザイン思想

ジャン・プルーヴェの作品は単体の建築、カーテンウォールやパネルなどの部分、家具など多岐にわたる。これらの作品群に通底する3つのデザイン思想がある。

3-1.架構システムと家具

プルーヴェの架構形式は初期からプルーヴェが続けている家具のデザインにそのルーツが見てとれる。プルーヴェにとって家具は建築と同様に重要であり、建築に先立ってさまざまに設計と生産が繰り返された。U字型アルミニウム板はアルミニウムを用いた作品に多用されていたデザインの一つである。写真1,2は全て1954年に製作されたものである。この本棚とデスクはU字のアルミニウム板によって構成されている。同年の建築の構造材(図4)と同じ技術が使われている。

3-2.曲線の美学

プルーヴェの作品は微妙な曲線を描いている物がほとんどである。どのような経緯で曲線がデザインされてきたのか。建物のコーナーは曲面に対する欲求が顕著に現れている一つの例である。図5から1952年、アルミニウムのパネルを使って曲面を作り出そうという形跡が見られる。その後、1950年代から折曲げ技術の発達により様々な素材で曲面が作り出された。

3-3.プロダクトとしての建築

プルーヴェの建築の最も重要な部分は、建築を工業製品として扱っていることにあると言える。土着性や、歴史性を重んじる古典建築でもなく、それに反する近代建築でもない。航空機や自動車のように工場にて製造され、日々の技術革新をつねに敏感に反映すべきものとして建築を捉えている。また、どこにでも持ち運べるプルーヴェの建築は、場所性を重要としない。こういった可動性のデザインは自動車などの工業製品ですでに行われており、この工業製品の発展に大きく関わっていたアルミニウムを建築に積極的に用いたことは必然的である。プルーヴェのデザインのルーツはこれらの工業製品と密接に関わっている。

4.まとめ前までのクラフトマンシップ、構法、デザイン思想の考察から、デザインの傾向と生産体勢は連動していることがわかった。アルミニウム作品はアルミニウムが使用され始めた試験期、あらゆる実験的な作品が製作されていった発展期、試験期に製作された作品の応用が始まる熟成期の大きく3つの期に分けられる。図6は各章の代表的な事項とアルミニウム適応部位の個数をグラフにしたものである。

4-1.Ⅰ試験期(1930­40年代)

試験期ではスチールの主構造に外装材としてアルミニウムを使い始める。この期にはポルティーク型という構造タイプが考案され、家具や建具など、後の基本形となる形態がつくられる。それと同時に金属、木材の研究も進むが、本格的にアルミニウムの研究が進むのは試験期の後半である。アルミニウムにおいては一部外装材で使用されたクリシー人民の家がこの時期の代表建築と言える。

4-2.Ⅱ発展期(1950年代)1949年のトロピカルハウスではアルミニウムを主とした建築システムが開発される。1950年代はアルミニウムの開発が盛んに行われた時期であり、プルーヴェの作品における建築的特徴の変化の時期を映すものとして最も重要である。ここでは多様な建築部品が同一作品の中に重なりあって存在していることが大きな特徴である。

4-3.Ⅲ熟成期(1950年代後半以降)

シェル型の発展により曲線が強調された外観となっていく。パネルやカーテンウォールの改良など、それまでに考案された構法や部材の応用が行われ、大規模な建築が増えていく。プラスチックやポリエステルなどの新素材を取り入れていく時期でもあり、アルミニ

プルーヴェの作品は単なる外装材や構造材としてではなく多機能性を持つことに技術とデザインの融合が現れている。プルーヴェにとって技術開発とデザインは常に併行して発展していくものであり、自身で工場を持つことは必然であった。このクラフトマンシップは近現代で失われつつある仕事の取り組み方を示している

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