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谷口吉生の美術館建築における軸線と構成 —アプローチと建築—

B4山本です。2014年前期の論文を掲載します。

1.序章 

1-1背景

谷口吉生の建築で素材やディテールという面を抜きにして、建築的体験の上で、プロポージョンと空間構成といった点での明確な特徴とはなんなのか。彼の建築を配置図上で拝見したり、実際足を運ぶと、アプローチから内部の空間体験におけるまで至ってアシンメトリーであることに気づく。アシンメトリーな構成美とは、シンメトリーな西洋的な構えに対し、至って東洋的、日本的な構成である。彼の建築はしばし日本的と言われることがあるが、果たしてその要素とはなんなのか。日本的な建築として桂離宮が挙げられる。ブルーノタウトは、桂離宮に「永遠なる美」として日本の伝統美を見出したとして知られている。表現主義者であった彼は、視覚的な美とともに機能的な美を見出し、相互関係の豊かさを唱え、モダニズム建築の理念を日本的建築の中に発見したのだ。そんな桂離宮の空間特性のひとつに書院群の雁行型配置とアプローチの関係性が見られると考える。

その関係性は、⑴視覚的部分において、既存の眺望(観月、庭園への)の保持、⑵機能的部分において私・公の序列化だと分析されている。⑴においては、眺望に対する方向の軸が設けられ、⑵においては、東西南北といった方位の軸が設けられている。*1そんな桂離宮はモダニズム建築家に多大な影響を与えたと言われているが、そのひとりとして谷口吉生の建築を見たとき、桂離宮の空間構成との共通点として、

・建築に対するアプローチの雁行

・軸の存在

・複数のボリュームの重なり

・回遊式庭園

の4つが確認できた。このことから彼の建築の構成を、軸と雁行という明快な方法で日本らしさを含め読み解く事ができるのではないかと考えた。

1-2目的

1.   日本的神聖な美学とモダニズムいう点で彼の建築を桂離宮との比較の上、説明すること

2.1を踏まえ、谷口建築造形の構成原理を読み解くこと

を目的とする。

1-3研究の位置づけ

谷口建築に対する既往研究には、開口デザインの特徴分析、シークエンスにおける人の知覚分析といったものがあり、内部空間の分析はあったもの、アプローチ空間を含めた分析及び日本的建築との比較はなかったため、独自性はあると考えられる。よって、彼の設計手法をアプローチ空間を含めて読み解くこととする。

2.軸と建築 

2-1桂離宮と軸

桂離宮は増築の過程で、書院群と庭との関係、月への眺望、機能的役割を考慮しつつ配置することで、雁行型配置を形成していった。また、「綺麗さび」を確立した小堀遠州による作庭により、庭園は自然発生的な美が尊重されており、不完全の中に完全な美を表現している。その姿勢は日本的であり、書院群と庭園は自然に一体化していると考えられる。書院群から庭園までという範囲で見たとき、1−1で述べたように視覚的な軸と機能的な軸が見て取れ、それらに対し書院群へのアプローチは雁行していることが分かる。こうして出来上がった建築では、見えない先を感じさせる奥性をも見出す事ができる。

1

 

図1桂離宮と軸線

⑴視覚的部分(赤)

各主要室からの南東への庭の眺め、月への眺望(御殿群と月波楼の月見台は真東から南に19度ふれた方向に月見台がある。)→方向性

⑵機能的部分(紫・青)

日本建築では、東西方向に格式の違いをつける考えがあり、ここでは西から東に向かって,私的空間から公的空間、そして、その配置のなかで南から北にも正面性としての軸(これは日本の寺社仏閣において採用されている)をもつ。→方位性

2-2谷口建築の特徴

谷口吉生の建築への一般的空間特徴として

・単純な幾何学的構成

・アプローチ空間のデザイン(庭園・水の利用)

・目隠しされたエントランス

・門構えや長い庇や躙り口等の日本的要素の利用

が大きく挙げられる。彼はアメリカで建築を学び、そこで丹下健三に師事し、大規模な都市計画を経験した。このことは都市的分析の眼をもち設計を進める彼の設計手法に影響している。私がここで着目した軸に対する雁行型配置という特徴は、周辺まで含めたものである。彼が、「日本的建築形態にするには、土地や周辺環境に適応するものを作ることだ」と述べていたことを踏まえると、より土着的な要因として大きく、また、都市まで含めたアプローチ空間であるがゆえに、この視点から彼の建築を分析することは必要で考えられる。

3.研究の方法 

3−1研究方法

谷口建築を対象に、それぞれの配置図、平面図と立面図に軸となる線、及び主な動線を引いていく。

3−2調査対象について

調査対象の選定としては、国内の美術館や博物館など建物内にある程度動線が規定されているものとする。

3−3調査対象作品

資生堂アートハウス(1978)土門拳記念館(1983)、東京都葛西臨海公園(1989)長野県信濃美術館・東山魁夷館(1990)丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(1991)、豊田市美術館(1995)、葛西臨海公園展望広場レストハウス(1995)東京国立博物館法隆寺法物館(1999)、広島市観光局中工場(2004)香川県東山魁夷せとうち美術館(2004)京都国立博物館 平成知新館(2014)

4.軸と空間構成の分析 

4−1軸の種類

彼の作品を全般的に見ると「構え」というアプローチに対するボリュームと「メイン」という機能が入ったボリュームの2つがあることがわかる。

そのボリュームに対応して軸があると仮定し、「構え」に対応するものをサブボリューム軸。「メイン」に対応するものをメインボリューム軸とする。

また、サブボリューム軸には、誘導性、正面性といった人を導くためのエレメントとして「構え」を見出すことができる。それぞれの作品を軸と動線という点で分析していくと以下に分類される。

⑴軸の強弱

1.1メインボリューム軸が強い

1.2サブボリューム軸が強い

1.3軸の強弱がない

⑵軸に対する動線の雁行の仕方

2.1平行型

2.2斜行型

2.3軸一致型

4−2軸の決定

例として下のように決定できる.

名称未設定

図2 法隆寺法物館

赤をメインボリューム、青をサブボリューム、緑を動線とする。回遊式庭園が設けてあり、動線は複数見られるが、直線的かつメインのアプローチをここでは捉える。(図2)

4−3分類

谷口建築を以下のように分類する。

2

 

図3 ボリューム構成

まず、構えの特徴(図3)、次に軸に対するアプローチの振れ方の特徴(図4)で建物を分類する。この2つの図を見比べてみて共通項がみられるのは、特異なものに限る。例えば、また、平行型を含むものは多く見られるが、

ボリューム構成に共通点は見られない。

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図4 軸に対するアプローチの振れ方

横長×○○における葛西臨海公園レストハウスと広島市観光局中工場は、軸一致型である。(レストハウス及び中工場は、動線体的要素はもったもの、美術館とは異なる特殊な施設で、アプローチが道路へと続いている。)

 

5.結章 

5−1総括

これまでの結果より、彼の建築の構成方法は、

・メインボリュームと構えであるサブボリュームの組み合わせであり、その構成方法は大きくわけて3種類あること。(幾何学の組み合わせ)

・アプローチが長く、軸に対するその振れ方は大きく分けて5種類あること。

・構えの種類と軸に対するアプローチの振れ方は基本的に別々にデザインされていること。

・構えや要素が特別なものに関しては、アプローチの振れ方に共通項が見られること。

・メインとサブのボリュームの強弱についてはそれぞれの軸の本数によらず、軸に対するアプローチの振れ方とボリューム形状の組み合わせによって決まっていること。

・美術館建築におけるアプローチ空間は、軸からずれる場が必ずある。

都市的な視点をもった彼は、長いアプローチをデザインするとともに、建築に対して雁行させること、そしてその組み合わせ型をデザインすることで多様な空間を生み出している事が分かった。

5—2展望

彼は「敷地との関係を重視するからですが、ものを創造する人間は、一般的に自己顕示欲が強いから、真っ白の紙に自分で好きな絵を描きたいわけです。背景に何か邪魔なものがあると困るわけですが、私の場合も、自分のイメージに合わない背景があったら、その背景までも直したい…というのが本音です。」*1と言っている。この言葉からも見て取れるよう、彼の建築は周辺環境との対応している。しかし、そのなかで彼の建築作品全てが彼らしさを見てとれるのも、軸の存在が大きいことが明らかになった。これを活かし、軸という単純明快なデザインを応用していきたいと考える。

参考文献   谷口吉生のミュージアム  著者 テレンスライリー

谷口吉生「丸亀市猪熊弦一郎ゲンダイ美術館・図書館」編書 古谷雅章

谷口吉生 建築作品集 淡交社

日本美の再発見 著者 ブルーノタウト

参考論文  桂離宮御殿の空間構成を巡って〜桂離宮の機能論的解釈〜 川本重雄

引用文献   *1 続々モダニズムの軌跡 対談(谷口吉夫×古谷誠章)

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