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アルヴァ・アアルトの設計手法に関する基礎的考察 -内皮と環境因子に着目して-

B4の石渡です。2019年度春学期に取り組んだ研究内容について発表させていただきます。

 

1.はじめに

1.1     研究の背景

北欧を代表する建築家であるアルヴァ・アアルトの建築は、その独特な形態や曲線・曲面が特徴的である。中でもそれは天井をはじめとした建築内部に表れていることが多く、建築の内皮が躯体の形態から離れ、自由にふるまっているものも少なくない。

このようなアアルトらしい建築の形態は、アアルトが建築の内部空間にいる人間の感じ方を熟慮して建築を設計していたからではないだろうか。

1.2     研究の目的

アアルトの建築作品における内皮の形態を分析し、アアルトがどのような思想を持って設計していたのかということについて考察する。

過去にも曲面形態に関する研究はなされているが、その研究は形態自体に着目したものであった[i]。本研究は、アアルト建築の曲面形態は単なる形態に留まることなく、人間のためのデザイン手法として存在していたのではないかという予測のもと、形態と環境の双方向から分析をしていくものである。

1.3     研究の対象と方法

独特な形態を持つアアルトの建築(全27作品、別紙表1)を研究対象とする。それらの形態を平面図や断面図をもとに3つの視点(環境と形態、壁と天井、構造躯体と内皮の関係)から分類し、アアルトの設計手法とその変遷について分析する。

 

2.環境と形態

第2章では建築の内皮と3つの環境(音、光、外部)の関係性を考察した。

各作品を3つの環境ごとに分類すると、以下のことがわかった。

・  アアルトの建築作品では音と光に関係した内皮を持つものが多く、それらの割合は同じくらいである。

・  音に考慮した作品は主にホールや講義室に見られ、曲面形態を利用した音響反射板として内皮を利用していることが分かった。

・  光に考慮した作品では、北欧の低い角度から入る光を取り入れ、また反射させるためのスカイライトやハイサイドライトのための形態であるということが分かった。

・  外部に関係した内皮を持つものは、曲面形態をとることで窓からの眺めや騒音を考慮しているものが多かった。

 

3.壁と天井

第3章ではアアルト建築における内皮の特徴的な形態がどの部位に現れているかということについて考察した。

特徴的な内皮の部位について着目した結果、外部環境からの要求によって出来たものは壁面に、音もしくは光からの要求によって出来たものは天井面に現れるということが分かった。天井面に特徴を持つことが多いことの理由として、以下のことが関係していることが考えられる。

「ある高さを保持すれば、それ以外に生活からの制約をうけないにも関わらず、空間に対して重要な役割を持つ天井というものにアアルトは着眼したのである。」[1]アアルトはヴィープリの図書館以降、建築内部の環境を向上するためのデザインをするようになり、その結果天井面は様々な形態をとるようになる。

 

4.躯体と内皮の関係

第4章ではアアルト建築の内皮と構造躯体との関係性を考察した。躯体と内皮の形態が異なっている「遊離」と、形態が等しい「オフセット」の2つに分類した。

内皮に特徴を持つアアルト建築を分類すると、ほとんどの建築の内皮が構造躯体から遊離していることが分かった。音や光などの要因による内皮は遊離型、外部環境が要因の内皮はオフセット型になる傾向がある。

時代を追って見てみると、内皮の形態で先に現れたのは遊離型であり、オフセット型が登場するのは少し後になる。

 

5.まとめ

5.1     総括

3つの視点から内皮について分析を行い、その結果を踏まえて総合的に評価した。

結果を見ると、アアルトは時代ごとに大きく作風が変わる建築家ではないということが分かる。初期の作品であるヴィープリの図書館(リストNo.1)とM.I.T.寄宿舎(リストNo.2)ですでに音や外部について考え、壁と天井の双方に特徴的な内皮が現れていた。その後の作品はデザインのバリエーションは増えるが、基本的な設計手法に大きな変化は見られない。

アアルト建築の内皮が他の建築家にはないような特徴的な形態を持ち構造躯体と異なる形態をとりうるのは、内外などの形態の統制よりも、実際にその建築を利用する人間がより快適に過ごせるように考慮したからだと考えられる。

5.2     展望

今回の研究ではアアルトの設計手法を内皮という観点から分析し、アアルトがどのようなことを考えて建築を設計していたかということを考えた。上の総括で記述した通りであれば、アアルトが快適性のために多少のデザインの変化も許容したということになるが、その結果出来上がった建築のデザインは全体として調和がとれ、またその独特な形態がアアルト建築のアイデンティティにもなっていると感じた。

本研究を通じて、今までは「不思議な形態を持った建築を作った人」という印象のあったアアルトが、「建築を通じて、人のためのデザインをした人」という印象に変わり、アアルトが他にどのようなことを考えて設計をしていたのかということについても興味を持つようになった。また研究をする機会があるのであれば、今回取り上げた建築以外についても対象とした上で、アアルトの建築形態と設計思想についての研究をしたいと思う。

 

【参考文献】

・『ALVAR AALTO Complete Works』

・  武藤章著『アルヴァ・アアルト』



[1] 「アルヴァ・アアルトの建築作品における曲面形態」(平成15年度日本建築学会研究報告集)

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