B4の日野原です。春期の研究内容を投稿させていただきます。
序章 研究の概要
0-1 研究の背景と目的
現代、ショッピングモールは身近な存在かつ生活の中で欠かすことのできない存在であるが、定義は曖昧である。正統な建築の研究対象から外されることも多く、研究している文献も少ない。その少ない文献や洋書ではショッピングモールの歴史に関しては記載があるが、建築的空間の分析が行われていないため、本研究では建築的分析を行うこととする。
また、レム・コールハースは『S,M,L,XL』(図0-1,2)の中で現代の商業空間について語っている。その中で、レム・コールハースは現代の商業空間を建築家の手に負えないグローバルに均質化した空間とし、ジャンクスペースと呼んでいる。レム・コールハースがショッピングモールをジャンクスペース(ゴミの空間)と呼ぶには、建築美よりも経済活動を優先し造られたことを理由としている。マッスからヴォイドを切り抜くという造形がショッピングモールでは採用されており、これがジャンクスペースの象徴である。このような建築はショッピングモール以外にも現代の都市空間では多く転用されているとレム・コールハースは言う。しかし、レム・コールハースは決してジャンクスペースを悪いものとは捉えていない。それを表すものがヴォイドを商業空間に埋め込んだ公共空間として計画した「Almere Block 6」/1998 OMA(図0-3,4)という複合施設案である。
これらの理由より、ショッピングモールは現代の商業空間を考える上で興味深い対象だと言える。現在、ショッピングモールが衰退していると言われているが、ショッピングモールから現代の都市空間を考えることができるため研究する必要がある。ショッピングモールの発祥はアメリカであるため、本研究ではアメリカのショッピングモールを基礎的研究と位置付け、研究を行うこととする。
大きな目的としては、ショッピングモールの研究し、現代の都市空間の在り方考えることで、今後の都市空間の在り方を提唱することである。また小さな目的としては、発祥であるアメリカのショッピングモールを基礎的な研究とすることで、発展過程で起こった多種多様な都市空間の変化を明確にする。
図0-1 『S,M,L,XL』 図0-2 『S,M,L,XL+』 図0-3 「Almere Block 6」/1998 OMA
図0-4 Almere Block 6 断面図
0-2 研究の調査対象と方法
ⅰ) 調査対象
アメリカのショッピングモールの発展過程を探るうえで必要不可欠なものを対象とする。具体的には以下のものをピックアップした。
・ノースゲート・センター/1950
・ノースランド・ショッピングセンター/1954
・サウスデール・ショッピングセンター/1956
・アラモアナセンター/1959
・ワシントン・スクエア/1973
・カルーセル・センター/1990
・モール・オブ・アメリカ/1992
・ウッドバーン・カンパニー・ストアーズ/1999
ⅱ) 調査方法
ショッピングセンター内におけるショッピングモールの立ち位置や定義を調査する。文献やウェブサイトなどを利用し、アメリカのショッピングモールの図面や資料を収集する。それと同時にショッピングモールの歴史も調査する。集めた図面や資料を見ながら平面図と断面図にわけて分析、建築的分類をする。その後、時期ごとに異なるショッピングモールの変遷を考察する。
第1章 ショッピングセンターの定義とその分類
1-1 ショッピングセンターの定義
ⅰ)日本ショッピングセンター協会が定める定義
・小売業の店舗面積は、1,500㎡ 以上であること。
・キーテナントを除くテナントが10店舗以上含まれていること。
・キーテナントがある場合、その面積がショッピングセンター面積の80%程度を超えないこと。但し、その他テナントのうち小売業の店舗面積が1,500㎡以上である場合には、この限りではない。
・テナント会(商店会)等があり、広告宣伝、共同催事等の共同活動を行っていること。
ⅱ)ICSC(インターナショナルカウンシルオブショッピングセンター)が定める定義
・1つの企業が保有していること。
・比較購買ができること。
・比較購買できる店舗が多く1ヵ所に集まっていること。
・十分な駐車場があること。
・新しい社会をつくりつつあること。
1-2 ショッピングセンターの分類
商業施設は以下のように分類できる。ショッピングセンターの中でも特にモール型をしているものをショッピングモールと呼ぶ。赤く囲まれているところがショッピングモールである。(図1-1)
図1-1 商業施設の分類
第2章 ショッピングモールの歴史と分類
2-1 ショッピングモールの分析方法と分類
ⅰ)ショッピングモールの分析方法
モールの形状に注目し、平面図と断面図からダイアグラムを作成する。その形状を比較し、類似するもので分類する。その後、分類したものを時系列でどのように変化を遂げたのか分類していく。
ⅱ)ショッピングモールの平面的分類
ショッピングモールの平面的分類は下記の3つの形にわけられる。
①センターモール型
②ロの字モール型
③プラザモール型
ⅲ)ショッピングモールの断面的分類
ショッピングモールの断面的分類は下記の2つの形にわけられる。
① オープンエアーモール型
②エンクローズドモール型
2-2 ショッピングモールの歴史
具体的にショッピングモールを分類し、時系列に並べ表した。平面においては、センターモール型、ロの字モール型、プラザモール型の3つにわけ、横軸で表した。 断面においては、オープンエアーモール型、エンクローズドモール型の2つにわけ、プロットカラーの違いで表した。
第3章 ショッピングモールの変遷
ショッピングモールの歴史を以下の萌芽期、発展期、成熟期の3つに分類した。萌芽期ではショッピングモールの今後主となる様々な形状が出現した。発展期では萌芽期に出現した形状が複雑化した。成熟期では発展期にはない新たに応用された形状が出現した。
3-1 萌芽期
ⅰ) ノースゲート・センター/1950
ⅱ)ノースランド・ショッピングセンター/1954
ⅲ)サウスデール・ショッピングセンター/1956
3-2 発展期
ⅰ)アラモアナセンター/1959
ⅱ)ワシントン・スクエア/1973
ⅲ)カルーセル・センター/1990
ⅳ)モール・オブ・アメリカ/1992
3-3 成熟期
ⅰ)ウッドバーン・カンパニー・ストアーズ/1999
結章 結論と展望
4-1 結論
ショッピングセンターが発展していく過程でモール型に変形したものを一般にショッピングモールと呼ぶ。そのモールの形状にも様々なものがあり、発展していく過程で複雑化していることがわかった。
平面的な観点で見るとモールの形状が大きく『センターモール型』『ロの字モール型』『プラザモール型』の3つに分けられる。『センターモール型』では、両サイドに店舗に挟まれる形状のモールをしており、いわゆるオーソドックスな形状である。ショッピングモールの基本形式と言え、発展していく上で分岐していくものが多かった。『ロの字モール型』では、中央に大きな店舗を配置し、その周りをモールで囲う形状をしており、周遊しながらショッピングができる形状である。『プラザモール型』では、中央にプラザとなる空間を設けその周りを店舗が囲う形状をしており、中央に大きな空間できる形状である。発展していく上で、周りを囲う店舗の中にモールを形成するようにもなった。
断面的な観点で見ると『オープンエアーモール型』と『エンクローズドモール型』の2つに分けられる。『オープンエアーモール型』では、店舗を結ぶ通路が屋外にあるタイプの形状である。発展していく上で、店舗が複層階の場合は通路としてペデストリアンデッキを設けることもあった。『エンクローズド型モール』では、施設自体が大きな1つの建物となっており、通路が建物内にあるタイプ形状である。
このようなことよりショッピングモールはアメリカで発祥し、そのショッピングモール発祥当時の形状は現在も尚利用されている形状であることがわかる。発展していく過程で多少複雑化されているのは明白だが、元となる基本形式は数少なく、それらを発展応用していくことで様々なバリエーションを作り出していることもわかった。
4-2 展望
今回は主にアメリカに重点を置き研究を行ったが、今後はアメリカ以外の国のショッピングモールの変遷も研究してみたいと考えている。様々な国のショッピングモールを研究することで、各国の現代都市空間の在り方を知ることができる。それらを比較検討することで今後の都市空間の在り方を提唱できると考える。