B4の内藤です。春学期の研究を投稿致します。
0-1. 研究の背景と目的
吉祥寺は住宅地域から商業地域に変遷した発展地域である。駅前は高層ビルや商店街が集中しているが駅周辺は低層住宅が広がっている。
一般的に商業進出する際には、販売を目的とするにふさわしい空間構成で形成された建物を配置し、その中にテナントを配置していくのが主流である。しかし、商業テナントが進出手法は一つではないと考えられる。新築だけではなく増築、減築して商業化が行う建築物も存在する。建築の形態は商業過程に大きく依存する。本研究では主に、本来住宅のみの用途で建設された建築物である住宅系建築物に商業テナントが介入したときに、施されるリノベーション手法に関した研究を行う。
ここで本研究では以下の二つを目的とする。
⑴ 住居系建築物に対するリノベーションの手法を分析する。
⑵ 用途やビルディングタイプの分類とリノベーション手法の関係性を見出す。
0-2研究の位置づけ
既往研究として以下を抜粋する。
・建築の表層から読み取るリノベーション様態の研究-「中道通り」をケーススタディとして(加島剛/2015)
上記の研究は建築表層面の研究しかされていない。商業化に伴うリノベーションは表層面だけでまとめられる話ではない。本研究では「中道通り」「昭和通り」「大正通り」の商業化の変遷を時系列に把握し、建物内のテナントと住居の配置を抑えた上で、商業化に伴う住居系建築物のリノベーションについて研究を行う。
0-3.研究の方法
⑴研究対象敷地
吉祥寺2丁目を中心とした敷地を選定し、「①中道通り」「②昭和通り」「③大正通り」を中心とした囲まれたエリアを対象敷地とする。
⑵調査方法
現地でのフィールドワークは住居系建築物を中心に調査を行う。視覚的情報のスケッチと、テナント主に対するヒアリング調査を行い、対象建築物の現在のテナント進出における年代とリノベーション方法を調べる。調査結果を地図上に分布し、対象敷地における変遷をおさえる。
調査を終えた段階でゼンリン住宅地図などを用い、調査結果による分布と対象敷地における商業化を対比することで用途とビルディングタイプにおけるリノベーションの分析を行う。
第1 章 対象敷地について
1-1 調査対象敷地にについて
吉祥寺は武蔵野市に位置しており、昭和22 年に特別区に隣接する郊外住宅地として認識されていた。中道通りが変化したのは70 年代、東急百貨店やサンロードの周囲
の再開発が影響したためである。移転先を求めていた商店が家賃の高い駅前アーケード街ではなく、当時あまり店がなかった中道通りに集まり始めた。結果、吉祥寺最長の商店街が誕生し、現在では市民の方々や買い物客から商店街として慕われている。
近年では様々なところに個性的で面白い店が開店し、客足は奥の方の西公園まで伸びてきている。中道通り商店街は、時代に合わせて移り変わっている。
吉祥寺が発展したことにより、吉祥寺駅から西に伸びている、中道通りなどの住宅地域が商業地域へと変遷がみられる。次ページの用途地図を見ると中道通りに沿って、近隣商業地域が伸びているのも用途の混在と変化が起こっている。フィールドワークを通し、住居系建築物の面影がある商業テナントが混在している地域といえる。
第2章 対象敷地におけるビルディングタイプ
2-1ビルディングタイプの分類
吉祥寺における建築物の形態をビルディングタイプとし分類を行
う。
戸建住宅やマンション、アパートを「住居系建築物」
戸建住宅の用途に供するものを「戸建型建築物」
マンションやアパートの用途に供するものを「集住型建築物」
住宅系建築物以外のものを「非住居系建築物」
上記の4種類の分類ができる。
2-1 用途の分類
ビルディングタイプにおいて「住居系建築物」「非住居系建築物」が存在しているため、用途の混在も多く考えられる。
ここで商業テナントを主軸に主に3種類の分類を行う。
①住居+商業
②商業のみ(複数の場合も可)
③事務所+商業
吉祥寺駅の東側には「商業のみ」の用途が多く、西側につれて「住居+商業」の用途が増えていることが分かる。
用途の分布とビルディングタイプの分布は同じような傾向が図示されているため、建物の用途とビルディングタイプはかんけいせいが深いと考えられる。
また、新築における住居系建築物は商業テナントを介入する目的で建てられているケースが多く、その他に該当しないものが、住居系建築物の中でもリノベ―ションをしたことが地図上で読み取れる。
2-3 住居系建築物におけるビルディングタイプ/用途分布
2-1、2-2を通して、ビルディングタイプと用途の関係性及びその不一致によるものがあらわになった。
またヒアリング調査を行った建築物の中で第2 章の対象とした住宅建築物は、本来は住宅のスペースであった空間がリノベーションを施されて商業スペースと変化した建築物である。従来の建築物であるためここでも接道する方向におけるリノベーションがみられる。次ページ以降に対象住宅系建築物のビルディングタイプ分布(図2-3-1)、用途分布(図2-3-2)を示す。ビルディングタイプにおいては「戸建型」が多くみられ、用途分布では「住居+商業」が多い。用途分布では対象住居系建築物はほとんどが「住宅+商業」の分布がほとんどであった。
第3章 対象事例の分析
3-1リノベーション分類及び分布
本来居住用として造られた住居系建築物を店舗や事務所として使用する場合、外装や内装面で変更が行われているのではないか。ここで、住宅建築物がどのようにテナントを受容しているかをリノベーションの分類し整理を行う。
既往研究では外装面に行われるリノベーションは大きくわけて以下の5 つに考えられていた。
①外階段増築
②エントランス増築
③オーニング増築
④小屋増築
⑤立面装飾
しかし、上記の5分類では視覚的な表層における要素の分類に過ぎないためリノベーションの手法にとは言えない。ヒアリング調査を行って、以下の7 種類に分類した。
①壁面スケルトン改修
②外階段増築
③オーニング付加
④小屋増築
⑤立面装飾
⑥看板付加
⑦エクステリアデザイン付加
3-2リノベーション手法の関係
今回のヒアリング調査を行った際の対象建築物は27 件であった。
その中で上記の7分類をそれぞれ分けた数量、組み合わせは図3-2-1の通りである。
現在では昭和通り、大正通りの建築物も駅前の発展とともに、新築が作られはじめ、住居系建築物がそこまで多く存在していなかった。中道通りも同じく新築の建設が徐々に増え始めてはいるが、対象とした住居系建築物は中道通りに多く存在していた。
図3-2-1 から、「①壁面スケルトン改修」と「③オーニング付加」が手法として多用されていた。結果、上記二つの組み合わせ「壁面スケルトン改修+オーニング付加」が必然的に多く見られた。ここ最近では商業の入れ替えがテナントの進出として見られるケースが多い自体であるが、本来が住居系建築物であるため一階レベルは壁面スケルトンにして改修を行い、オーニング付加によって、一階レベルでの商業空間を演出していると考えられる。また看板付加とオーニング付加は安く購入できることから、多用されている。対象建築物の中で今回は外階段増築が見られなかった。対象とした三つの通りは建物間の間隔が狭く、角地以外では商業空間から二階に上がるケースが多いため、それ以外は元々上下階用に階段を建設段階で使われていたと考えられる。また、外階段増築の要素を省いて、「小屋増築」と「立面装飾」、「小屋装飾」と「エクステリアデザイン付加」の組み合わせは本調査では見られなかった。
結章 結論と展望
4-1 結論
本研究では本来住宅として建てられた建築物のスペースに商業
テナントが進出する際のリノベーション手法に焦点をあてた分析を
行った。いままでの研究をまとめる。
第1章までは省略し、第2 章では対象エリアの「中道通り」「昭和
通り」「大正通り」に面した複数の建築物のビルディングタイプ及び
用途の分布を示し関係性を見出した。ここでのビルディングタイプ
と用途は大いに関係性があり、また不一致のものも明らかになった。
第3章ではリノベーションの手法を視覚的な表層の変化ではなく
確実性のあるヒアリング調査で分類を行った。このときに明らかに
なったのは既往研究においては「開口部増築」の部分は、壁面をス
ケルトンにしたことによる壁面の変化を行っている手法である。ま
た建築部分ではないが、看板付加、デッキなどのエクステリアデザ
イン付加も挙げられる。
次に、リノベーションの手法の組み合わせを分布上に図示し、手
法数を数値化して関係性を見出した。本来住居としての建築物であ
るため接道する一階部分のみの壁面の操作が多く見受けられた。中
でも必要とされる「壁面スケルトン改修」、安価で商業名をしめすこ
とが出来る「オーニング付加」の数は他手法の5つに比べ多くなっ
ていることが明らかになった。
4-2 展望
本研究では住居地域から商業地域へ変遷したエリアをその背景と
してとらえ、本来住宅として建てられた建築物のみ調査し分析を行
った。変遷地域としての背景のとらえ方はよかったが、建築物単体
で見ると、本来住宅として建てられたものの対象が少ないと感じら
れた。新築の建て替えも多く行われていた地域であったため、住居
系建築物のリノベーション手法を知るにはより多くの事例が必要で
あった。今後、このようなリノベーションに限らず建築の手法を研
究する際には事例を調べ尽くし、多くのケースや、比較分析を行う
必要がある。