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建築形態に対するパラメトリックデザイン手法の限界と展望 -habitat67をケーススタディとして-

学部4年の相川です。2016年度、春学期の研究結果を掲載します。

私はCPU技術の発展を背景に近年発展しているアルゴリズミックデザインを題材とした研究を行いました。以下研究概要を掲載致します。

0.序章——————————————————————————————-

0-1.研究の動機と背景
近年のcpu技術の発展は著しく各分野に多大な影響をもたらしている。実際の設計業務にいち早く取り入れられた技術として建築物のデータベースを施工から建築建材の維持管理等あらゆる工程で情報活用を行うためのデジタルツールBIM(Building Information Modeling)が知られている。このようなツールの元々の目的は2次元図面を忠実に再現することであったが、近年新たな形態を模索するスタディツールとして新たな側面を見せつつある。具体的な例として建築設計分野は3Dcadを初めとする仮想空間内での3次元曲面の記述等、仮想空間内で形態を模索すると言う領域に発展し始めている。
0-2.研究の目的
本研究では、前述したcpu技術の発展に伴う設計支援ツールとしての側面を背景に、プレキャストコンクリートユニットの集合体であるhabitat67を考察する。(図1)同集住体は354ユニットの組み合わせであり、ユニットの寸法及び組み方など一定のルールに基づいている為配列のパターンは膨大である。(図2)そこでmoshesafdieによって行なわれた人間の手による設計を同じ条件下で現段階のデジタルツールに行わせることによって多様なスタディパターンを生成すること、及び現段階でのデジタルデザインツールの限界を明確にする事をを試みる。

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図1habitat67施工写真        図2moshesafdieによるスタディパターン

0-3.研究の方法
habitat67建設当時の寸法及び、住戸数等の諸条件をパラメータとし抽出しアルゴリズムを作成する。作成するアルゴリズムに関しては建築系3DCAD-RhinocerousのプラグインであるGrasshopperを用いる。そのアルゴリズムから生成される形態の生成過程において設計者がいかにパラメトリックデザイン手法からhabitat67を元とする条件下に於いて形態を展開し発展させることができるかを示す。そしてその過程の中で現段階でのデジタルデザインツールには何が可能であり何が困難である又は不可能であるかを明確にする。
0-4.研究の位置付け
habitat67を都市居住から論考する論説は見受けられたがデジタルツールからの既往研究は見受けられなかった。また、パラメトリック手法の観点からは作家作品研究という点での研究はされておらず、構造システムの合理化等、建築意匠分野における研究は見受けられなかった。そこで、本研究を近年のCPU技術の発展から生み出された新たな建築形態の計画方法への論考と位置付ける。

1.研究編—————————————————————————————————————————————————
1-1.パラメトリック・デザイン
パラメトリックデザインとは、アルゴリズミックデザインの一部である。パラメトリックデザインがアルゴリズミックデザインと区別されるのは、アルゴリズムは数式から求められる定まった解を得る事が目的であるのに対し、アルゴリズム内のパラメータを操作することによってバリエーションを示すことが目的である為である。建築分野においては設計者のコンセプトが秘めている形態の展開と可能性を提示することがパラメトリックデザインの主な目的であり多種多様な選択肢を提示することを目的としている。つまり建築分野に於いて、アルゴリズミックデザインとの二つの設計手法の違いは、形態に対する決定権が設計者自身にあるか否かである。
1-2.パラメータ
1-2-1.habitat67の概要
habitat67はカナダのケベック州モントリオールサンローラン川のマルクドロウン岸壁にある集合住宅である。(図3.4)建築家モシェ・サフディがマギル大学の修士論文を元にして制作し、モントリオール万国博覧会(1967年)の一環として建てられた。近代的な住宅団地建築の経済性と密度を保ち、ちりばめた各戸に多様性と非画一性を取り込むように設計されたが各戸が庭を持ち、個人の空間を確保しつつも各住戸が安価となるように設計された。(図5)

際立った特徴及び本研究で取り上げる主だった理由として、プレキャストコンクリートによる住戸ユニットの反復により全体が構成されている点が挙げられる。自動車や機械製品などの他の工業分野での生産体制と比較してあまりに非効率的なそれまでの建設構法に限界を感じたmoshesafdieは住居として完全にパッケージ化された箱を現場で積みかせねていことによって集合住宅を建設することを計画した。

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図3.4 現在のhabitat67                       図5 住戸平面図

1-2-2住戸ユニットの寸法
habitat67には建設当時、全146住戸が存在している。全体は住戸ユニットの反復により生成されているが、同ユニットはさらに小さな二つのユニットに分割することが可能である。(図6.7)354に及ぶユニットごとに差異を生み出す為に開口位置が規格化されている事が明らかになった。プレキャストコンクリートによる壁の寸法及び開口部の寸法は規格化されており、ユニットで同様にプレキャストコンクリートのスラブと接合する事で1住戸を成立させている。それらを反転、及び開口の有無によりバリエーションを生み出している。その為habitat67には壁面に腰窓が存在せず壁面の一部が抜け落ちた縦長の開口しか存在していない。

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図6 住戸の詳細寸法                 図7 住戸組み立て模式図

2.実践編—————————————————————————————-
2-1.アルゴリズムの概要
研究編で抽出したパラメータを用いてアルゴリズムを構築する。(図8)パターン配列を構成する諸要素をパラメータで調整をし、解答としての形態を視覚的に提示する。このパラメータの偏移によって複数の要素を加味した形態生成のシュミレーションを行う。

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図8 作成アルゴリズム

2-2.生成形態
現段階のアルゴリズミックデザインに於いてはcpuが生成形態を評価し修正を試みる能力を有しているわけではなく設計者は自身の意思を形態に反映せるべくアルゴリズムを改変することで形態を作り出している。本研究では望まれる形態像とその為の評価基準を定めることで設計者の意にそぐわない形を排除し形態の改変行うことができた。

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図9.10.11   生成形態

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図12 最終生成形態

3結章 ——————————————————————————————
3-1. 結論と課題
パラメトリックデザインに現段階では形態や空間構成を決定しうる技量はない。しかし形態を生成し最適解を模索する過程は人間によって行われる建築の検討と似ていると言える。現段階での限界は本研究で示したように設計者が定めた条件を元に人間が検証不可能である形態を視覚的に提示する事を可能としているが現在人間が定めていた条件を今後はコンピュータ自らが抽出し解決するアルゴリズムを構築するような進化を示唆していると共にそうなった場合の人間の手によって行われる設計の価値が問われると感じる。また本研究では住戸ユニットのみに着目しスタディパターンを提示したが本来であればmoshesafdieが行ったようにコアユニットと住戸ユニットを合理的に組み合わせた集住体が望まれるべき形態であり、それを満たすアルゴリズムを作成できなかった事、及びそれを元とする各住戸の詳細設計を行ったオルタナティブの完成に至らなかったのは時間的制約と自らの力不足である。


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