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西澤文隆のコート・ハウスにおける平面構成の研究ーコート・ハウス論の記述に対する西澤文隆の作品への反映手法の分析を通してー

 

  1. 序章

    1. 研究の背景

      近年、土地は狭小化が進み、狭い土地にいくつもの住宅が密集してしまっている。そしてそれが原因で住宅内部のプライバシィを保つこと、豊かな生活を生む空間を作り出すことが困難になってきている。その中で敷地全体を囲うことでプライバシィを保ち、また内部空間と外部空間を一体的にすることで豊かな空間を作り出すコート・ハウスはこの問題の解決策として有効である。そして建築家の中に西澤文隆というコート・ハウスを設計している代表的な建築家がいる。西澤文隆は「正面のない家」シリーズをはじめとするコート・ハウスをいくつも手掛けていて、庭と生活空間を混在・共存させていく手法を多く用いている。

    2. 研究の目的

      西澤文隆は自身の著書であるコート・ハウス論の中で「囲われた敷地のなかに自然と人、室内と室外の緊密な関係を造り出す」という記述のように西澤文隆のコート・ハウスに対しての持論がいくつか述べられている。しかしコート・ハウス論でのいくつかの記述は抽象的な表現が多い。本研究ではコート・ハウス論で記述されていた点が西澤文隆自身の作品の中で具体的にどのように反映されているか明らかにすることを目的とする。

      0-3 研究の位置づけ

      「室と庭の関係を操作する建築的手法に関する考察」という西澤文隆の庭と室の配置をパターン化し、プライバシィや室と庭のつながりの観点から庭と室の関係性を分析した研究は1999年に行われているが西澤文隆の設計手法の法則性や変容に着目した研究はまだない

      0-4 研究の対象、方法

      西澤文隆自身が設計した住宅作品の中で自身の著書でコート・ハウスと分類している仁木邸(1960)、宮本邸(1960)、楠本邸(1961)、平野邸(1962)、喜多邸(1962)、西阪邸(1964)6作品を対象に読み解く。

      特にコート・ハウス論の中で記述が多く、重要視されている3点。庭の用途、室と庭の接続、プライバシィの点からコート・ハウス論での西澤文隆の平面構成の抽象的な表現を上記6作品から具体的な表現の手法を明らかにし、それぞれ平面図、機能ごとに線でつないだツリー型図面を用いて根拠を示す。

      1.庭の用途

    1. コート・ハウス論における用途に関する表現と分析

      「わが国のように上下足分離の生活では一旦室内に入り込めばもう一度下足にはきかえて庭に降り立つということは当然少なくなるから見る庭になる」

      上記から庭にはそれぞれ用途が存在することがわかる。

       

      1-2 6作品における庭の用途の分類

      西澤文隆が設計するコート・ハウスの庭には5種類のパターンの用途が存在することがわかった。

      本研究では5種類のパターンを遊ぶ庭、見る庭、玄関に面する庭、通路となる庭、プライベート性が高い庭と呼び、区別する。またわかりやすいようにそれぞれ下記の色に分類した。

      2.庭と室の接続

      2-1コート・ハウス論における庭と室の接続に関する表現と分析

      「中庭(建物で囲われていようと、建物と塀で囲われていようと)それは天井のない室内であり、家具のない贅沢な居間である。外部が室内へ流入するというよりそれは一体の室内であり、庭園はむしろ室内の延長である。」

      西澤文隆はコート・ハウスにとって内部と外部が親密な関係を造り出すことを重要視し、こだわっていることが表現からわかる。

      2-2 庭と室の接続箇所の数

      室との接続箇所の数には傾向があり、見る庭、玄関に面する庭と接続する室の数は12か所。メインの庭に関しては35か所の室と接続されている。

       

      2-3境界を弱める機能

      西澤文隆は内部と外部に親密な関係を造り出すため一部の作品に庭と室の間にテラスを配置した。一部の作品というのは平野邸、西阪邸の2作品で他の4つの作品には見られなかった手法であり、内部と外部の境界を弱める働きをしている。

      3.プライバシィ

      3-1 コート・ハウス論におけるプライバシィに関する表現と分析

      「現代の建築家たちはいろいろなコート・ハウスを試みる。L字型の単純の住居プランから凹凸の多い住居プランをもつものに至るまで各種試みがなされるけれども、プランニングのポイントは各個室から互いに視線を遮ってプライバシィを保つ努力が払われており、アプローチとしての庭を除いては動線としての庭であることは皆無であり、それぞれの室から眺め、また出て楽しむ庭として各室に密着した庭が考慮されていることである。」

      住宅としては基本的なことではあるが西澤文隆が豊かな空間をつくるうえで重要視していることが読み取れる。

      3-2 動線の区別

      西澤文隆はプライバシィを保つため、視線の遮断だけでなく、住人と来客の動線を区別していることがわかった。

      そして上記は客間の配置とその動線に表れている。

      客間に関してはほぼ共通のプランニングがなされていて、客間は常に玄関から見て左側に配置され、廊下を通すまたは玄関の隣に配置して玄関から直接行けるようにし、住人と来客の動線の交わりが最小限になるような動線計画がされている。

      4.結章

      西澤文隆が豊かな空間をつくりだせているのは3つの要素が共存していることにある。

      1つ目は庭それぞれに存在する用途。敷地全体に広がる庭に対し、それぞれ配置にあった用途を与え、空間にメリハリをつくることで、人と自然が共存した住居空間をつくりだしている。

      2つ目は庭と室の親密な関係性。庭と室の接続に関して遊ぶ庭ではより多くの室から行き来できるように動線を多く設けて、外部の居間のような空間を設計している。また庭と室の間にテラスを新しく配置して、中間的な空間をつくることで外部と内部の境界を弱める工夫を施している。このようないくつかのバリエーションを駆使することで、庭と室が親密な関係性を持つ空間をつくりだしている。

      3つ目は住宅として内部のプライバシィを保つこと。本研究で取り上げた6作品もほぼ共通した住人と来客の動線の交わりが最低限で済むような動線計画がなされていることで快く住まうことができる空間がつくりだせている。

      上記の3つの要素が共存していることで狭小な敷地に対し、豊かな空間が実現していることが明らかになった。

       

       

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