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都市空間におけるゲニウス・ロキ-稲荷空間の構成類型-

B4の中井です。春季研究発表の内容を投稿致します。

序章 研究概要
1-1 研究の背景
戦後より東京では、資本主義の介入に伴い急激な都市化が進められてきた。効率や利益を重視するその社会構造においては、都市における時間的背景を排除し端的な開発が是とされている。そのような都市構造の中で、稲荷空間は今もなおゲニウス・ロキという要素を残したままこの都市に佇んでいる。建物の隙間に埋れるようにして存在するそれらの稲荷は、都市化に伴い刻々と変化していった周辺環境とは相反してその街に残されてきた。しかし江戸時代の町割りや地形が現在も大差なく都市の基盤として構成されている東京において、それらの稲荷空間も同様に時間的背景を含んだ都市の歴史的要素である。残余的に見えてしまうが、そこには周辺環境と比較して遥か昔から時が止まっているような神秘性を感じる。
1-2 研究の目的
本研究では、上述したような建物間に残余的に佇む稲荷の空間構成や現代における周辺環境との相互関係などの考察を踏まえ、それぞれに秩序を持たせ構成類型を明確にする。本研究を通し、西洋の都市と比較した際短絡的と表現される日本の都市での歴史的要素の介在を明示し、時間的要素が多視点に渡る東京という都市の一端を明らかにする。
1-3 研究の位置付け
都市における神社の研究は数多くなされているが、本研究の対象となるような小規模稲荷の研究は未だされていない。また、下記にあげる論文は神社本位の研究ではなく都市空間と神社を相対的に研究しているという点で本研究と通ずる面があり、本研究でも参考にすることとする。
□都心部における「境外参道」の空間特性に関する研究( 岡本祐)
□神社を中心とした都市空間の構成類型 (塚本由晴他)
2つ目の塚本氏の論文においては、表の縦軸を神社がある地点の地形、横軸を境内に至るまでのアプローチ方法として分類し、都内における神田明神・諏訪神社などの有名神社を類型対象として表にまとめている。
・縦軸…崖地(市街地/街道裏/集落内/その他)、斜面地(集落外縁/その他)、平地(市街地/街道裏)
・横軸…主要道に至る境内に直接至る、高層建物裏の境内へ路地を通って至る、高層建物裏の境内へ回り込んで至る、高層建物から低層建物群を通って境内へ至る、連続する高層建物群を通って境内へ至る
以上より塚本氏の類型方法を踏襲し本研究の成果とする。

第2章 調査概要
2-1 研究対象となる稲荷の定義
鎮座の由来が現代において明確にされ観光名所として扱われているような神社とは相反し、創建年や由来がはっきりせず参拝者が地域の人々やごく一部の人に限定され、境内と呼べるような十分な面積の境内を持たない小規模稲荷のことをさす。
2-2 研究対象
秋葉原・上野・谷中、などそれぞれが現代において確固とした地域性を持つ一方、共通して江戸からの町割りや下町的性格を持つ東京都台東区を研究対象とし、お稲荷さんmap台東区編(https://www.google.com/maps/d/viewer?mid=z4eMiCxRCfzQ.kpCLzs5Fs&hl=en_US)において、上記の3地域で神社の境内に鎮座しているものを除いた計21稲荷を研究の対象とする。
2-3 研究方法
本研究では第一にフィールドワークにより対象稲荷空間と周辺環境を観察し、それを踏まえた上で参考文献を通して歴史的考察を重ねることとする。

第3章 稲荷空間の分析
3-1 フィールドワークによる現状の分析
各稲荷を現状写真・アクソメ図・現状鎮座置の3項目に整理し分析する。

hp用画像

3-2 稲荷の周辺環境を主軸とした変遷過程

台東区中央図書館所蔵の江戸・明治・昭和の地域変遷過程を考察し、稲荷を主軸に周辺環境の変移をたどる。

第4章 稲荷空間と周辺環境との関係性
4-1 現代における周辺環境との相互関係に関する分類
3-1の現状分析により、研究した稲荷空間は以下のように類型
化できると考える。
□稲荷空間について
⑴祠と鳥居が平行で密接しているもの
⑵祠と鳥居が平行で、一定距離を持ちアプローチ空間を有するもの
⑶祠と鳥居が平行ではなくアプローチ空間が屈折しているもの
□周辺環境との関係について
⑴住居に囲まれているもの
⑵周辺環境から塀・柵などで囲われているもの
⑶公園・墓地・住宅などの敷地内にあるもの
4-2 歴史的変遷過程に関する分類
4-3 変遷過程と現状分析の関連性

結章 総括
5-1 結論
周辺地域に住む人々にとって、本研究対象にあたるような稲荷は日常空間の中にある取るに足らないような存在だが、研究を進めていくにつれ、それぞれ個性を持ち使われ方も大きく異なっていることが見て取れた。一様にゲニウス・ロキとしての稲荷空間といっても、今も地域コミュニティの中に根強く存在しているのがわかるものもある一方、もはや祈りの空間として
成立しているとは言えず廃墟化しているものもあった。それらを統合的にダイアグラム化することで無秩序にみえる稲荷空間を8つの型に類型化することができた。
また本研究を通し、これらの稲荷空間は有名神社と住宅内の神棚など2極化した祈りの空間の間のスケールに位置し、周辺地域コミュニティに大きく関与しているのではないかと結論づける。由来や創建年代が現代において明確にされているものは大事にされていることが多く、由来に謎が多いものや個人的創建の結果持ち主がいなくなり地域の目が行き届いていないものは廃墟化し不気味な雰囲気で佇むものが多かった。

5-2 展望
より論を進めるには歴史的考察を踏まえた考察が必要。

現状として、分析の密度を上げるため周辺環境の考察よりも、基盤となる稲荷空間の細部分析が必要だと感じています。また所有の関係や周辺環境と稲荷の可視できない境界を分析する予定です。

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